執筆者:硯田一弘(アディルザス代表取締役、在パラグアイ)
2025年の1月もあっという間に過ぎ、2月になりました。昨年末、と言っても僅か1か月少々前に転居したことは以前書きました。引越先は日本で言えば同じ町内の新築賃貸マンション。南米生活も20年以上で学んだことの一つは、大家自身の居住用物件と、貸出用のものとでは、色々な部分で違いがあるということ。
今回引っ越した真新しいアパートも、新築が貸し出されているという点で、貸出用ということが判りますが、貸出用物件、何が違うか?というと、細部の造りが雑であるということです。入居当初シャワーのお湯が出ないとか、窓についている鍵フックが壊れていて施錠できないとか、色々あって、その度に管理人に頼んで修理をしてもらいました。年末年始は外出していたので、まだ入居して30日以内ですが、次に発生したのは台所のシンク下からの漏水。既に何度もお世話になっている配管工に来てもらい、シンク周りの防水シーリングのやり直し作業をしてもらいましたが、シンク下の収納が水で破損したので、次は大工(Carpintero)に来てもらって工事が行われることになりました。
恐らく、パラグアイ・南米に限らず、外国で生活する上で最も重要なのは配管工や電気工、大工といった職業の方々の中から、腕の立つ優秀なコンタクトを探し当てることでしょう。https://www.infobae.com/mexico/2023/12/08/cuanto-gana-un-plomero-en-mexico-este-es-el-salario-promedio-de-un-fontanero-o-instalador-de-tuberia/
残念ながらパラグアイの配管工に関する記事が見つからなかったので、メキシコ例を御紹介します。日常生活に欠かせない配管工ですが、その数は約18万人、殆どが男性で、平均賃金は6240ペソだそうです。(女性は4980ペソ)。これは23年12月の記事なので、当時の為替レートで換算すると、男性は362米ドル=56千円・女性は290米ドル=45千円となります。と言っても、国によって賃金差はあるので、メキシコの最低賃金を調べてみると、月給ではなく、日給で表示されていました。
これでは月給がどうやって示されるのか判らないので、別のサイトでラテンアメリカの最低賃金を比較した表を探したところ、以下のモノがみつかりました。
最新のデータによると、メキシコの最低月給は417米ドル。上記の配管工記事は1年前のものですが、最低賃金を下回っていることが判ります。家庭インフラの重要なメインテナンスを担う人達の処遇は、日本でもそうですが必ずしも良いとは言えず、結果的にメインテナンス不良の社会構造が出来上がっているように思われます。
今週は埼玉県八潮市の道路陥没や、ワシントンでの航空機衝突事故などが大きな話題となりましたが、幹線道路の保守点検や、航空管制のレベルが問われる一方で、それに携わる人たちの処遇については不都合な真実としてあまり触れられていないようにも感じられます。新しい建物での基本的なトラブルに遭遇し、そもそも建築時点での作業員たちのレベル(技能も処遇も)を如何に高めるかが、社会構造の改善に重要だと考えさせられています。
ちなみに今日の言葉Plomeroは、Plomo=鉛を扱う人という意味で、昔は水道管には柔らかく加工しやすい鉛が使われていたことからこの名前となった訳です。英語でもplumbは鉛管という意味ですから、同じ語源であることが判ります。鉛は水に溶けて人体に蓄積しますので、現在は使用されていませんが、今は防水素材として重宝されてきたフッ素化合物PFASが新たな問題として浮上しており、便利な生活には必ず不都合な真実が隠されていることも判ります。
もうひとつ、上の賃金比較で、’80年代までは中南米で最も裕福だったベネズエラの月給が僅か2.52米ドルとなっていることも今年の南米経済を語る上で重要なテーマ。今やトランプ新政権が問題とする不法移民の最大の”産出国”であり、米国だけでなく、米州全域に難民を送り込む原因がこの不当に安い給与であることを御理解ください。
ブラジルとチリを結ぶ新しい南米横断道路、Ruta Bioceanicaについては今までも何度かご紹介してきました。
完成すれば『陸のパナマ運河』の役割を果たすと言われる南米大陸横断道路Bioceanica。今週は、このプロジェクトの進捗状況を確認する為に、パラグアイ側Carmelo Peraltaを訪問し、工事現場を視察してきました。
上の地図でMariscal Estigarribiaという地名が中心に来ていますが、ここから東側国境のブラジル側の街Porto Murtinho(人口13,000人)手前までの道路は完全に管制しています。そして国境の橋の現況は以下の写真の通りです。
一昨年9月の工事の様子を報じたパラグアイ・ビジネス・ニュースをブラジル日報が紹介した記事に掲載されている写真と比べると、一年ちょっとで大幅に工事が進んでいることが判りました。https://www.brasilnippou.com/2023/230928-31colonia.html
ただ、現在住んでいるブラジルFoz do Iguaçuとの国境Ciudad del Este南部で既に完成したPuente Integralや首都Asuncionで完成した英雄の橋Puente los Heroesが想像以上に早く完成したことと比べると、辺境の地の工事はノンビリ進められているという印象を持ちました。
パラグアイ側Capitan Carmelo Peraltaの町は、2022年時点の人口が僅か4400人という文字通りの寒村であり、最寄りの街であるLoma Plataまで約270㎞、首都アスンシオンからは700㎞ですから、ヒトやモノの移動も大変な場所にあります。対岸のPorto Murtinhoですら13,000人なのですから、全長1300m、総工費1億ドル(約150億円)と言われるこの工事が如何に地域経済に大きな影響を与えるのか、容易に想像できます。とは言え、限られた人員資源で進められる工事は見た目には極めて遅く、地元食堂で聴き込んだ話でも、あまり多くの要因が投入されているようには見られませんでした。
横断道路の西の端、アルゼンチン国境のPozo Hondoには既に立派な橋が架かっていますので、一日も早くブラジル国境の橋が完成し、新たな交通の大動脈が稼働して欲しいと思います。
ちなみに、Fozの新しい橋Integralは、橋は一昨年完成したのに、繋がる道路が未だ全然できてません。ブラジル側の道路工事も遅々としており、ルーラ政権になってインフラ整備向けの予算が削られているとも言われています。
一方、今週の世界的なニュースは、米国トランプ大統領が発した、パナマ運河の通行料に関するメッセージで、米国政府の船舶の通行料を免除しなければ、相応の負担をパナマ側に求めると脅しています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN06EYU0W5A200C2000000/?n_cid=kobetsu
https://www.prensa.com/politica/tras-desmentidos-mulino-conversara-con-un-trump-amenazante/
この件に関し、昨日金曜日にパナマのムリノ大統領とトランプ大統領との電話会談が予定されていたものの、この会談は延期になったようです。
ちなみに、パナマ運河の通行料収入は49.9億PAB(パナマ・バルボア)で、バルボアと米ドルは1:1でリンクしていますので、約7.5兆円という計算です。
パナマのGDPは873億PABですので、GDPの6%が運河の収入となっています。
この運河収入に占める米国船籍の通行料は0.1%程度の700万ドル程度でしかなく、パナマ政府にとって米国の要求を拒否する経済的意味は大きくないと考えられます。
https://www.prensa.com/politica/panama-no-puede-exonerar-peajes-del-canal/
しかし、パナマの憲法では、隣国コロンビアとコスタリカの軍艦以外の通行料の免除を禁じています。
https://www.prensa.com/politica/panama-no-puede-exonerar-peajes-del-canal/
また、米国だけに特権を与えることで、他の国からの批判にさらされるリスクもあり、パナマ政府にとって米国政府からの脅迫は非常に頭の痛い問題となっています。
今週金曜日はバレンタインデーということで、あちこちのレストランが特別メニューを用意して多くのお客さん達を待ち受けていました。パラグアイのレストラン事情は、この国を初めて訪れた10年前と比べると、大袈裟でなく劇的に進化しました。
先日も、パラグアイ最古のレストランBar San Miguelのオーナー夫妻の招待を受けて、彼らが新たにオープンした高級店で、開発中のスシを御馳走になり、日本人の視点からのコメントを求められました。
アルゼンチン大使館にほど近い邸宅を改装したレストランは、隣接するBar San Miguelが130年にわたって伝統的パラグアイ料理を大衆的な価格帯で提供し続けてきたのとは趣旨を変えて、かつてパラグアイ人が見向きもしなかった海鮮をメニューに取り入れて、なおかつパラグアイ人が最も好む焼肉を中心にしたオシャレな空間を創りあげ、開店間もないのに旧店どうように大入りのお客さん達で賑わっていました。
この建物は、隣国アルゼンチンで最も有名な人物であるエバ・ペロン(エビータ)の夫君であり、永年に亘って大統領を務めたフアン・ドミンゴ・ペロン氏が亡命中に滞在していた場所であり、歴史的な価値も高いもので、それを近年の建築ブームの中心にいる高名な建築家であるオルガ・ハインリヒ氏のデザインで立派な厨房を持つレストランに改装されたものです。
また、今週はLa Nacion紙の週刊誌であるFocoに、日本人シェフのグスタボ三浦氏が紹介されました。
https://foco.lanacion.com.py/2025/02/10/la-receta-del-exito/
三浦氏が一昨年エステ市でオープンしたレストランSan Telmoは、南米の香港と呼ばれ極めて混とんとした大商業エリアであるエステ市の中心部に、これまで存在しなかったハイレベルなメニューを庶民的な価格帯で提供し、毎日2000人もの顧客で賑わう飲食業として最も成功したケースとして紹介されていますが、三浦氏は同時に、Nisseiという家電ショップのオーナーであり、且つ自分でジェット機を操縦する機長、そして南米日系社会で人気のカラオケ大会のスポンサーと歌唱指導や審査員を務める超有名人です。特に携帯電話やカメラを中心に販売するNisseiは、年間の売上が5億ドル=750億円で、店舗面積あたりの売上高では世界一という南米南部の最有名店で、この店を築き上げた上に、最も成功したレストランを運営しているということで大いに賞賛されています。
Detrás del rotundo éxito del restaurante San Telmo y la empresa de insumos electrónicos, Nissei, se encuentra un hombre cuya vida es un testimonio de esfuerzo, disciplina e innovación.(レストラン・サンテルモと家電量販店Nisseiで明確な大成功が成し遂げられた背景には、努力と規律・革新を追求した男の姿がある)
冒頭でご紹介したEl LegadoのオーナーJose Maciel氏も最も伝統あるレストランSan Miguelの成功に胡坐をかくことなく、新たな形態で明確な成功を収めています。
パラグアイだけでなく、南米での食に関するビジネスには、今後さらなる市場の拡大が見込まれます。
誰も知らなかった漁師料理であるセビチェを世界的なメニューに引き上げた背景には現地で寿司を提供していた日本人シェフたちの働きが大きく影響した訳ですが、パラグアイも新たな美食の中心として今後の成長が期待されていますので、是非ご注目ください。
24日にパラグアイ食肉協会主催のプロモーション行事を台北で開催するために、今週水曜日に一時帰国しました。
のんびりした南米時間から、慌ただしい日本時間になって、全ての動作が1.5倍のスピードで動くイメージの日本で、駅の階段を踏み外してしまい、肘を強く打って救急外来で運ばれる羽目となりました。
空手で言う所の猿臂=肘での攻撃は、接近戦で最も効果的に相手にダメージを与えられる業なのですが、今回の場合、空手の猿臂というよりも、プロレスのエルボードロップをコンクリート製の階段に食らわせたようなモノで、当然人間に勝ち目はなく、あえなく肘の骨折で全治3か月との診断を頂きました。しかし、幸いなことに右手の機能には影響はなく、こうしてパソコンのキーボードも普通に叩くことができます。しかし、手術をして骨をくっ付けておかないと、後々肘の曲げ伸ばしが出来なくなるとのことで、来週木曜日から入院して処置して頂くことになりました。
台北でのイベントでは、事務局の一人として活動することになっているので、この行事をこなしてからジックリ治療に取り掛かることになります。と言っても、行事があるから手術を先延ばしにしたわけではなく、病院のスケジュールが一杯詰まっていて、最速でもこのタイミングとなったものです。
救急車の中で隊員さんが病院と連絡を取り合う様子も聞いていましたが、2軒ほど断られた後に受け付けてくれたこの病院、整形外科だけで10人以上の医師が常駐しているようで、日本の病院の高齢者比率の高さと、整形外科の繁忙ぶり=医師の疲弊を目の当たりにみて改めて国が抱える問題について考えさせられました。
と、今回は自分の日本での病院ネタをご紹介しましたが、世界に目を転じると、ローマ法王フランシスコ教皇がバレンタインデーの14日に呼吸器の不調で入院されましたが、引き続き健康観察を要するとのことで、入院を継続されるそうです。
https://www.bbc.com/japanese/articles/c1lvl6z60zeo
で、在ローマのパラグアイ市民が教皇の回復を祈るためにパラグアイで最も強い信仰を集めるCaacupeのマリア像を持って、教皇が入院されている病院前に集まったというニュースが届いています。
損なって初めて認識する健康の有難さ、まだ寒さが続く日本ですから、皆様も感染症への注意だけでなく、足元にも十分に御注意ください。
以 上