連載エッセイ447:ピーター藤尾「チリの風」その34 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ447:ピーター藤尾「チリの風」その34


連載エッセイ447

「チリの風」その34

執筆者:ピーター藤尾(在チリ、サンテイアゴ)

「2025年1月27日~2月2日」
「政治」
1)ボリッチ動向

先週と違って、今週は大統領府から彼の毎日の動きが発表されました。木曜日に新年金法案が国会で承認されると、その夜、全テレビ局を通じて喜びの知らせをしました。

これに右と左が反対しています。極右の共和党はピノチェットの作った法案がちゃんと機能しているのにそれに手を加えるのは何事か、新左翼はピノチェットの作ったAFPシステムを壊してしまおうとしたわけです。AFPの会社は運営の継続は確認されましたが、あまり喜んでいません。それはこの先色々と政府の手が入ることになるからです。

さてこの新システムで市民にどんなメリットがあるのか説明されています。現在、年金をもらっている人にはこの新法案はダイレクトには影響しません。ただ政府が年金受給額が少ない人への援助を始めるのを待つわけです。それから年金基金を積み立てている人は、その時期が来た時、もらえる年金額が大きく増えますね。今まで年金額が少ないとクレームする人が多かったのですが、それを改善するためには各自の積立金を上げるか政府の援助額を上げるでしたが今回は7%の積み上げ額増加になったので、それは最終的な年金額に大きく影響します。ただ給料から7%抜かれると、給料が減るわけで、数年前のようにこんな給料では生活できないと怒りのデモ隊が街に出るかもしれません。

今までの政権でも年金制度改善をやろうとしましたが、失敗に終わりました。ボリッチはその問題を超えたわけですね。明日の月曜日にボリッチはウルグアイに飛びます。現・元大統領との面談が用意されています。

2)外交問題

ベネスエラと国交断絶の寸前です。同国の元軍人がチリで殺された事件でチリ側はベネスエラ政府の関連を疑っていますが、そんなチリを友国と認めたくないと同国にあるチリの領事館を2か所、閉鎖しました。同国に住んでいる12000人のチリ人に直接影響します。

チリにいるベネスエラ人の9千人が追放処分を受けているらしい。トランプ式に送り返せばよいのに。

3)大統領選挙 

右翼の方はもうほとんど決定済みですが、左翼の方はまだまだです。元大統領のバチェレット、内務大臣のトア、それから新候補として新年金法案を成立させた財務大臣のマルセルの名前が候補者として出ています。マルセルは元中銀総裁で、極端な政治家ではないので、右翼左翼の両方から支持されると言う声があります。その他に汚職で裁判になっているレコレタ元区長のハドゥエを大統領候補にしたいという声が共産党から出ています。 このアイデアは一般から馬鹿にされましたが、今回の新年金法案で活躍した共産党の女性の労働大臣を候補にしようとする声が出始めました。右翼の大統領候補の筆頭だったピニェラが事故死して1年になりました。彼の記念碑をモネダ宮殿の前に建てようとする動きがありますが、どうなるかな?

「経済」
1)銅価格と為替

銅価格は1ポンド4.06ドルとあまり変化はなく、為替も1ドル988ペソと 先週とほとんど同じです。アメリカが隣国のカナダ・メキシコと中国の関税率を上げましたが、チリにも同じことが起きるかもしれませんね。それから銅に特別関税をかけると言う噂もありますね。

アルゼンチンは大統領がトランプ一辺倒ですが、チリは違います。アメリカの機関がチリの年金新法案に批判をしているようです。ボリッチいじめですか?チリの銅の輸出の最重要国は中国ですが、そこが経済破綻すれば、それはチリに大きな影響をします。チリの将来も努力だけでなく運にかかっているわけです。

2)株式市場IPSA

なんだか毎週の様ですが、今週も史上最高値を記録しました。今週の上昇の理由は新年金案の成立のためとされています。

3)失業率

昨年1年間の失業率は8.5%で、その前年の8.6%よりわずかでも良くなりました。まぁほとんど同じですね。コロナ問題以前は7%以下ですから、まだ元に戻っていないことになります。失業率を下げるため、公定歩合を下げました。これでマンションなどの購入時のコストが下がりますから、落ち込んでいる売り上げが増え、新しいビルの建設を期待できるとするわけです。さぁどうでしょう。

4)サーモン

サーモンの輸出が2024年、2年連続で前年より下がりました。不調が継続ですね。

「一般」
1)大学

全国の入試が終わり、その結果をもって各大学への入学申請がされています。19万人がそれに対応するそうですが、応募者の多い大学はチリ大学とカトリカ大学で、両方とも4万人強です。

2)犯罪

サンティアゴの中心部には多くの露天商が並んでいます。不法なので区の警備官が警察の手を借りながら、それを取り締まります。食品を作る施設や商品を並べる台などを接収しようとすると、彼らは警備官に襲い掛かります。そんな衝突の様子がニュースに出ます。

アラメダ通りはサンティアゴの中心道路ですが、その道を走る車に発砲され、運転手が負傷しました。犯人は車を奪おうとはせず逃走しました。

3)山火事

43の山火事が継続中です。今までに3千ヘクタールが延焼しました。南部の州で消火作業をしているヘリコプターに発砲されました。放火した犯人が、火を消すなととクレームしているのでしょうか?昨年バルパライソ州の大規模な山火事が出てから1年が経ちました。政府が約束した新家屋の建設はたった26%とほとんど進んでいないとか。新聞の社説には政府もその遅れを認めているらしい。何それ?          以  上
「2025年2月3日~2月9日」
「政治」
1)ボリッチ動向

ウルグアイ訪問をしたボリッチは現・元大統領と面談しました。 その中でムヒカ元大統領との面談が楽しかったようです。彼は高齢者ですが、まだ元気ですね。
2)外交関係

ベネスエラ問題

チリで殺された元ベネスエラ軍人の事件で、チリはベネスエラ政府がそれに関連しているとしますが、彼らはそれはべネスエラの反政府運動だと拒否します。国際法廷に出されることになりそうです。ベネスエラを応援するチリ共産党は怒り心頭でしょうね。

ガザ問題でトランプ批判

ボリッチはパレスティナを応援しますから、トランプがガザを抑えようとする動きに同意できません。

3)年金

先週、成立した新法案は大きな成果でした。年金関連の数字ですが、 昨年は16万人が新しく年金受領者になったとか。チリの将来に大きく関連しますね。

4)大統領選挙

しかし今週に一番話題になったのは昨年2月に事故死したピニェラに関する件です。テレビのニュースにそれを記念する儀式が現場とサンティアゴであり、大きく報道されました。彼は右翼グループの中核になっていたのに、突然、事故死したので、彼のイメージを使って右翼の結合を図るのでしょうか?

次の大統領選挙の候補者でそれほど魅力のある人はいませんが、誰かが大統領になるのは当然で、それが誰になるか見て行きましょう。

今週の新聞でバチェレットが注目されていると書かれました。新左翼グループの代表の女性が、私が大統領候補になると頑張っても、ほとんどだれも見向きをしないでしょうが、バチェレットならその発言に注目するでしょうからね。

それから、前回の選挙で外国人(移民)で投票したのは約50万人でしたが、今回はその2倍になりそうとか。そのため外人の投票権を縮小すると考えられているらしい。彼らがチリの政治を動かす可能性があるのかな?

「経済」
1)銅価格と為替

1ポンド4.21ドルと3か月ぶりの高値、中国経済が立て直してきたのでしょうか?まさかね。為替は1ドル968ペソでした。

2)GDP

なんと12月の数字は6%になって驚かされましたが、通年では2024年は2.5%と予想の通りで、南米の中では低い方ですね。今年も大きな前進は期待できない様子です。

3)株式市場IPSA

金曜日は少し下がりましたが、週の途中は過去最高を記録、絶好調ですね????

4)物価上昇率IPC

1月の数字は1.1%とひどい数字が出ました。過去12か月でも4.9%とパッとしません。

この日曜日からサンティアゴの公共運送の運賃が20ペソ上がり870ペソになりました。過去18か月で70ペソ上がりました。5年前の社会騒乱が地下鉄の値上げから始まりましたから、この問題は軽く見れませんね。

「一般」
1)犯罪

例の犯罪グループ「アラグアの汽車」がマイプ区で作った不法簡易家屋に警察の手が入り、倒壊されました。同じように他の区でも不法建築の取り壊しがありました。それらの家には電柱から線を引いて電気がつけられていました。盗電ですね。

夏休みがすすんでビーニャの海岸は観光客であふれていますが、そこへ犯罪者も集まり、毎日問題が多発しているとか。日本人の被害者があったと大使館から連絡が来ました。多くのアルゼンチン人がその地区に来ていますが、彼らは買い物にも目がないようです。それは子供の学用品が、例えばノートや鉛筆、チリの価格はアルゼンチンの半額とかで買いあさっています。

サンティアゴの地下鉄カルイカント駅の一部の出入り口が閉鎖されました。その場所で犯罪が多発だからとか。警察のコントロールは無いのかな?

2)山火事

山火事が収まりません。その原因が人間によるものと考えられ(失火・放火)調査されているとか。何人かが逮捕されました。ボリッチはマウレ州とニュブレ州に非常事態宣言を出し、一部の地区には夜間外出禁止令を出しました。夜の10時から翌朝6時まで外には出られません。それがさらに南に移り、今日はアラウカニア州の火事が急速に拡大しています。その地区は今日は夜の8時から外出禁止になって車の通行は出来ません。昨年と同じく毎日火事のニュースが溢れそうです。              以   上
「2025年2月10日~2月16日」

「政治」
1)ボリッチ動向

今週は彼の動きが大統領府から全く報告されていません。3月の初めにドイツの大統領がチリを訪問するとか。どんな話になるのでしょう。

2)外交

ベネスエラの反政府元軍人が殺された事件でチリのベネスエラ大使館がそれに関していた疑いが出ています。ベネスエラ政府の関与は目立ちますから、国際法廷ではっきりさせてほしいですね。

3)大統領候補

先週書いた通りに与党側はバチェレット元大統領を候補にしそうです。新左翼のリーダーも声を上げていますが、誰も聞きません。それなら左バチェレット対右マテイになるのでしょうか?雰囲気としてこの二人が決選投票に出そうです。しかし新聞の論調に「バチェレットはトランプほどではないが老齢で、すでに2回の大統領を経験して、失敗が多く記録されている。従ってもう一度、就任しても以前より結果が良くなると思えない」と厳しい声が出ています。彼女は中道左派から極左までの統一が必要です。私は彼女に投票する気はありませんが、もし右翼が極右の共和党のカストを候補者にすれば、私はバチェレットに投票するでしょう。前回の選挙で私がボリッチに投票したのと同じことです。

2019年10月の社会騒乱に関し、それを膨張させたのが新左翼と共産党です。「金持ちめ、お前たちの好きなようにはさせないぞ」としたわけです。それでも共産党の一部から

社会騒乱によってチリの社会基礎が崩壊したことを考えれば、私たちのやったことは間違っていたと言えるかもしれないとする声が出ています。

4)国会議員

現在数名の議員が裁判になっています。今回、新左翼の議員が貧民層への住宅政府基金を不正に抜き取ったと裁判になります。裁判所は彼女の議員資格を停止しました。

他の例では性的暴行事件などです。それらの議員は裁判中も報酬を受けていますが、無罪になるまで仕事はしないのだから、給料を停止しようとする声が出ています。

「経済」
1)銅価格と為替

銅価格は1ポンド4.45ドルと最近の最高です。その理由が分かりません。そのため為替は1ドル950ペソとペソが強くなっています。コデルコ銅公社の2024年の銅生産は142万トンと前年対比0.1%の減少でした。ほとんど同じですね。

リチウムのアメリカ資本のアルべマルレは価格が激減し、売り上げも44%も下がったので昨年は12億ドルの損失になった由。今年も同じ傾向でしょうね。

2)IPSA株式市場

7359ポイントと過去最高です。その理由が分かりません。

「一般」
1)山火事

三つの州で起きていますが、一番深刻なのがアラウカニア州の山火事で、幾つもの地区で火事になり、16000ヘクタールが延焼中。これは昨年対比124%も増えています。

全国の火事の数は75件で、そのうち12件が延焼中です。その数は少し減少してきています。全体で20347ヘクタールが燃えました。

それらは放火・失火によるものと言われます。これに関しトア内務大臣は放火によるものと断定しましたが、同地区の市長・町長から責任を現地に擦り付けるなとクレームが出ました。陸と空から消火作業が行われています。外出禁止令は一部の地区で継続です。厳しい現状ですね。しかし死亡者は一人で昨年とは大きく違います。アラウカニア地区で消火作業をしていたヘリコプターが銃撃されました。俺たちが放火した火事を消すなとするのでしょうか。

2)犯罪

殺人事件は3年連続で増え、昨年は1昨年より11.5%のアップです。政府の対策が進まないわけですね。首都圏郊外のエル・タボ地区の別荘式のホテルで麻薬が扱われているとされ、警官が入るとオーナーが客に麻薬を販売していました。首都圏で、犯罪調査をしていた警官がナイフで刺され重傷です。モネダ宮殿の中で死亡した警官が見つかったとか。恐らく自殺でしょうかまだ最終発表がありません。日本人旅行者が野犬に助けられました???

バルパライソで紙袋をもって歩いていた日本人旅行者が後ろから来た男にその袋を奪われそうになります。彼がそれを手から離さなかったので道路に倒れました。その時、

近くにいた野犬数匹が、その男に噛みつき始めたので、その男は紙袋を置いて逃走しました。旅行者は倒れましたが,ケガはせず盗難にもあいませんでした。ありがとう野犬。

3)河の氾濫

チリの北部のアントファガスタ州はほとんど雨の降らない地区ですが、最近、大雨になりカラマ市近くのロア川が氾濫しています。周辺の住民の避難が要求されています。

その地区の有名観光地サン・ペドロ・デ・アタカマには世界で最も乾燥した地区とされていますが、そこに行っている観光客はホテルの外に出られず大変ですね。

「スポーツ」
1)サッカー

国内リーグ戦が始まりました。全部で30試合が行われますが、初戦が終わった段階で、人気のコロコロとチリ大学は勝利でトップです。カトリカの初戦は明日です。以 上

「2025年2月17日~2月23日」

「政治」
1)ボリッチ動向

バケーション中ですが、モネダ宮殿に来ました。その理由は先週死亡した警官へのお別れです。もちろん知り合いだったわけですね。彼が事故死なのか自殺なのかはまだ発表

されていません。

コルフォ国営公社から政府に15億ドルが渡されていたと問題になっています。誰かの懐に入った犯罪ではなく、国の財政を良く見せるための金銭の移動だったようですが財務大臣がその理由の説明をさせられるとか。

内務大臣が記者会見をして、野党が私たちを厳しく批判しているが、このシステムを使ったのは私たちだけではない。前のピニェラ政権も同じことをしているとコメントしました。国会でその真偽が討論されます。

2)大統領選挙

まだ予備選挙もされていないのに、左右の候補者バチェレットとマテイにスポットが当たっています。左翼側から新左翼の勢いを鎮めるのにはバチェレットが最高だとするコメントがあります。中道左翼の中心のPPD党はトア内務大臣に早くその職を辞任して大統領候補になってほしいと要請しています。

「経済」
1)銅価格と為替

銅価格は1ポンド4.32ドルと先週よりは低いですが、高値安定。為替は1ドル951ペソとペソ高です。1ドル900ペソに接近すると言う見方がありましたが、そうでもないです。トランプが銅の関税を上げると言っていますが、それがチリにどう影響するか政府内で心配の声が上がっています。トランプのやり方は1919年の世界大恐慌に向かうだろうとの記事が掲載されています。

ドミンガ鉱山

政府は環境破壊になるとして同鉱山の開発を阻止する方針ですが、裁判所はそれと異なった結論を出し、環境破壊なしに操業可能としました。政府は最高裁判所に持ち込む方針です。環境汚染を防ぐと言うのは正しい方針と思えますが、産業開発も必要な政策で、その中間点もしくは環境保全をしながら操業するやり方を考えてほしいですね。

2)株式市場ipsa

今週は7339ポイントで終わり、先週より下でした。毎週、新記録はないですね。

それとは関係ないですが、中古家屋の販売価格がこの4年間で最低を記録したとか。売れないので値下げをするのですね。

3)解雇

会社の都合による解雇が12月にコロナ問題以降で最大数になりました。前年対比2.3%アップの42248人とか。

「一般」
1)犯罪

サン・アントニオ市の集団不正建設の家屋を2月中に撤廃すると言われています。なんと1万人に影響するとか。彼らがその不法に使用している土地を地主に金を払って購入すれば問題軽減とのコメントもでていますが、地主の売りたい価格と不法家屋の同盟側が示す価格にはかなりの差があります。1万人と数が多いので、全部の不法建築を壊せば社会問題になりますね。共産党の一部からそれらの家屋を撤去しようとすれば、私たちは現場でそれを阻止したいとコメンあり。

共産党は与党ですか野党ですか?もっともそれほどの家屋が建てられるのを黙って見ていたのは今までの右翼・左翼の政権ですけれど。同市の市長はその数の家族を収容する施設は全くないとコメント。当然ですね。

ベネスエラ人の元軍人が殺されて、今週でちょうど1年が経過しました。ベネスエラ政府高官がチリを敵視した発言を繰り返しています。トア内務大臣はこれは政治問題ではないとしていますが。

2)山火事

今週はそれほど大きな話題になっていません。パタゴニアでアルゼンチンからの山火事がチリの国境まで接近しているとか。首都圏の山火事ですが、放火の疑いで消防員が2名逮捕されました。山火事ではないですが、チロエ島のアンクッドで市内に火事が起き、商店を含む300か所の家屋が燃えました。

3)新学期

夏のバケーションの最終段階ですが、テレビの宣伝に学用品の販売が良く出ます。3月に新学期が始まる前に買っておかなければなりませんから。

4)移民

昨年98513人が労働ビザを獲得しましたが、上位はベネスエラ人27897人、ボリビア人が27600人とほぼ同じでした。日本人も205人が取っています。今までの総計では

998788人とほぼ百万人ですね。

5)音楽祭

夏休みの最後にビーニャの音楽祭があります。今週から1週間、チリ中が盛り上がります。