連載パナマ・レポート58:ルベン・ロドリゲス 2025年02月分 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載パナマ・レポート58:ルベン・ロドリゲス 2025年02月分


連載パナマ・レポート 58: ルベン・ロドリゲス 2025年02月分

執筆者:Ruben Rodriguez Samudio(早稲田大学法学研究科講師・パナマ共和国弁護士)

I. 政治

A.トランプ政権とパナマ運河

トランプ大統領が運河についてパナマ政府に対して出した要請をきっかけに、両政府の高官会議が行われている。アメリカのマルコ・ルビオ国務長官は、2月1日、ラテンアメリカ公式訪問の初日にパナマのトクメン国際空港に到着し、2月2日に、パナマ運河を中心とするパナマ大統領官邸でムリノ大統領との対談を行った。ムリノ大統領は記者会見で、2017年に中国と結んだシルクロード了解覚書を更新しないこと、強制返還によってアメリカから追放された者を受け入れることを発表した。

これに対して、ルビオ国務長官はSNSで中国政府のパナマ運河への介入はアメリカの国益に悪影響をおよぼすため、アメリカ政府はこれを認めないと強調した。また、2月6日に、アメリカの国務省がSNSで、アメリカの船舶の運河の通行料免除協定を締結したと投稿したが、パナマ運河局は通行料免除を否定した。同日に、ルビオ国務長官が、通行料免除協定の締結はアメリカ政府の希望であり、その旨をパナマ政府に伝えたと発表した。

2月19日に、アメリカ南方軍のホスリー司令官が、中国政府のパナマ運河への影響に対応するためパナマを訪問した。しかし、パナマ政府が、中国政府の介入を否定し、ホスリー司令官とマルティネス・アチャ外務大臣の対談においてそのテーマに触れないことを明らかにした。さらに、20日に、トランプ大統領が改めて運河の返還を求めると圧力をかけ、これに対してムリノ大統領は両国の絆を強調しつつ、事実ではない話に基づいて外交を行うことはしないと発表した。

II.経済

A.歳入赤字
経済財政省は、2024年に118億3400万ドルの歳入が予測されたが、実際には94億5900万ドルにとどまり、2024年の歳入赤字が64億ドル(GDP7.3%相当)まで増加したと発表した。以上をもって、チャップマン経済財政大臣は、2025年の赤字はGDP3.8%に相当すると予測されていると述べ、コスト減少政策を採用することによって2025年に5%のGDP成長を目指し、2030年までに政府の赤字を1.5%まで減らすと発表している。ムリノ大統領が2月20日に、1万の雇用を創出する水道・保健・教育等を中心とする経済促進プランを公表し、これによって2025年度の歳入に良い影響を与えると述べている。

Ⅲ.外交

A.移民問題
2月23日時点、ムリノ大統領とルビオ国務長官の対談後に公開された強制返還への協力に基づいて、299人がパナマに移送されたことがわかった。その内、170人は任意で自分の国に戻る意思を示し、3人は難民申請を行い、任意返還を拒否した97人はダリエン県のホテルに移送された。また、政府は、難民申請を明らかにした3人は、パナマではなくカナダへの移住を希望していると発表している。

パナマ政府は、2024年7月に両政府が署名した強制返還協力了解覚書をアメリカから強制返還された者を受け入れる根拠としている。パナマの専門家からは、了解覚書はパナマから他国への返還のみを規定し、パナマへの返還は含まれていないため、強制返還協力は明確な法的根拠が無く人権侵害に該当するとの批判の声が上がっている。特に、当局の許可を得てパナマに入国した者は、法律を違反しない限り法的な返還方法がないことが問題とされている。   

以   上