連載エッセイ451:井上詠美子「コスタリカのリサイクル現場から見た生活と多様性」 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ451:井上詠美子「コスタリカのリサイクル現場から見た生活と多様性」


連載エッセイ451

コスタリカのリサイクル現場から見た生活と多様性

執筆者:井上詠美子 デサンパラドス市役所公共課 青年海外協力隊

コスタリカは多様な生態系を持ち、国土の約25%が国立公園や保護地域に指定される世界有数の環境保護国であり、エコツーリズムが重視されている。また、再生可能エネルギー(太陽光や風力など、自然から得られるエネルギー)の利用率が非常に高く、2020年時点で、約90%以上の電力が再生可能エネルギーから供給されている。そのため、環境やリサイクルに対しても進んでいるイメージを持つ方も多いかもしれない。しかし、現在のコスタリカの状況は、日本が家庭ごみの分別を本格的に始める前の時期に似ている。

1900年代頃の日本では、焼却システムが整備されておらず、廃棄物の多くは焼却されたり、不適切に処分されたりしていた。家庭ごみの分別回収も厳密には実施されておらず、多くの家庭ではごみを一つの袋にまとめて出すことが一般的であった。現在のコスタリカでは、日本でいう資源ごみ(リサイクルできる廃棄物)が一つの袋にまとめて出されており、リサイクルできる廃棄物の種類も日本とは異なっている。

デサンパラドス市のリサイクル分別

私が活動しているデサンパラドス市は首都サンホセに隣接し、人口も3番目に多い253,199人の大都市である。ここでは“Soy generador responsable”(私は責任ある排出者)という環境プログラムのもと、以下の廃棄物がリサイクル資源として回収されている。

  1. PET 1 (ポリエチレンテレフタレート)、HDPE 2(高密度ポリエチレン)
    ペットボトル、プラスチック容器、牛乳パックや洗剤ボトルなど
  2. 金属類(鉄、アルミニウム、銅、ブリキ、ステンレス)
    例えば,食品缶、飲料缶、フライパンなど
  3. 紙・段ボール: 本、雑誌、ノート、新聞紙など
  4. ガラス容器:飲料容器、香水容器など
  5. 家電:携帯電話、タブレット、音響機器、洗濯機など
  6. PVC(ポリ塩化ビニル):配線被覆、衣類や玩具などの緩衝用プラスチック

また、2020年10月以来、ここデサンパラドス市ではコスタリカで唯一「Especial」という特別廃棄物を収集するプログラムが実施されている。これらはセメント会社の燃料として処理され、埋立地に廃棄するごみを最小限に抑えることを目的としている。しかし、まだ多くの市民がこのプログラムの存在や内容を理解していないのが現状である。

Especialとして分類される廃棄物

<プラスチック類>

PET 1: 飲料用以外のボトルや果物が入った透明の容器など
LDPE 4 (低密度ポリエチレン): スーパーマーケットや小売店の買い物袋、食品保存袋など
PP 5 (ポリプロピレン): ヨーグルトのカップ、弁当箱、食品保存容器、飲料用ストローなど
PS 6 (ポリスチレン): 使い捨てコップや皿、食品トレイなど

<紙類>

食品や日用品のパッケージに使われるクラフトボール紙、カートンボード、卵パック
容器、トイレットペーパーの紙芯、アルミ箔、写真など

リサイクルが身近な日本人でも、資源ごみとEspecialの区別は難しいと思う。しかし、この地域では、埋立地の問題を深刻に受け止め、その解決に向けた取り組みを進めているのだ。

リサイクル現場から見たコスタリカの生活

ある日、リサイクルセンターで黒い袋を開けたら、中からフライドチキンの骨、洗っていないツナ缶、灰皿として使われた飲料缶、さらにケチャップやマヨネーズが漏れてペットボトルに付着していたものが出てきた。この光景を見たときに、大きな驚きと無責任な廃棄方法に小さな怒りが沸いた。この経験は、コスタリカにおけるリサイクルの現状を物語っているだけでなく、私自身もこの現実に直面し、改善の必要性を強く感じた。

私はリサイクルの現状を知るために、事務所に隣接するリサイクルセンターで作業を手伝っている。そこでは、色とりどりのリサイクル物が山積みになっている。資源ごみとして袋に詰められた廃棄物の中身はまったく異なってみえる。ある袋には、丁寧に洗われたペットボトルや缶が揃えられ、ラベルまできれいに剥がされている。一方で、別の袋には、ジュースの残ったペットボトルや、食べかすのついたプラスチック容器がそのまま詰め込まれている。さらに、スーパーのレジ袋に包まれた廃棄物もある。その中身をよく見ると、安価なプライベートブランド商品のパッケージが多い一方で、別の透明な袋には高級スーパーのロゴが入ったワインボトルや輸入食品の容器が並んでいる。これらはただの廃棄物ではなく、生活のあり方や価値観、そして社会の一面を映し出している。家庭から出る資源ごみを通じて、その家庭の生活様式や価値観が垣間見える。袋の中身だけでなく、袋自体にも社会の価値観が表れている。リサイクルで使う袋の色も関係している。日本では透明、半透明なゴミ袋を使用する。それはなぜか?作業員の安全性と市民の環境意識向上のためである。

ここデサンパラドス市では、日本で廃棄物管理の研修を受けた市役所職員が、日本と同様にリサイクル用のゴミ袋を透明にし、無料で市民に配布している。とはいえ、市民の多くは今でも黒や緑などの中身が見えない袋を使っている。資源ごみを分別していると、黒い袋を開けるとき、何が出てくるかわからない恐怖がある。色付き袋の中身には、パーティーが終わった後に出されたと思われる紙コップや紙皿、ペットボトルやビール缶が混ざっており、残飯なども入っていて非常に汚れているものが多い。ゴミの中からお宝を探すような気持ちで仕分けをしなければならない。

一方で透明な袋の中身は、外からも見えるので安心して作業ができる。市民の多くが黒や緑の袋を使うのは、おそらく中身を見られたくないからであろう。実際、日本でも昔はゴミのプライバシーを守るために黒い袋を使う人が多かった。しかし、透明な袋の導入によって、分別が進んだ経緯がある。

活動をはじめて間もない頃、リサイクルセンターで働く作業員に、仕分け作業ではどのような問題があるかアンケートを取った。結果は、袋の色が問題であるという回答が一番多かった。やはり、中身の見える袋は作業している人に安心と安全をもたらしているようだ。

リサイクルに関心がある人、そうでもない人は袋の色や中身を見ればわかる。そして、資源ごみから得られる情報も興味深い。日本ではほとんど見かけない3Lの炭酸飲料、限定フレーバーの飲料缶や様々な種類のアルコール飲料など、コスタリカの生活を知る手掛かりが得られる。これは、コスタリカの生活を理解する上でとても面白い経験だ。

リサイクルセンター

廃棄物処理の仕組みと社会の関係性

日本では2000年代に入ってから、「3R(Reduce, Reuse, Recycle)」の理念に基づき、リサイクルの取り組みが進められた。政府は「資源有効利用促進法」、「環境基本法」や「環境省の基本計画」を策定し、リサイクル推進のための法律や政策を整備した。これらの政策や法律で企業や市民がリサイクルを行う義務が明確化された。これにより、リサイクルが日常生活の一部として定着していった。

たとえばレジ袋有料化でエコバックが普及した。また、企業のリサイクル義務によりプラスチック製品のリサイクル率が2010年の約20%から2020年には約25%に増加し、家電リサイクル法が施行されてからは、家電リサイクル率が大幅に向上し、環境への負荷が軽減された。

一方で、コスタリカでは2020年に法律8839(Ley No. 8839)が制定された。この法律は、持続可能な開発を促進することを目的としている。市役所はリサイクル教育プログラムを実施し、市民にリサイクルの重要性を伝えることが求められている。また、リサイクル施設の設置や運営も市役所の責任とされている。

デサンパラドス市では、環境イベントが月に一度程度各地で開催されている。しかし、来場者の多くは景品を目的としている。資源ごみとコンポストを交換するイベントでは、同じ人が何度も訪れ、コンポスト以外のものを要求することもあった。私が身につけていた帽子などだ。また、無料で配布しているリサイクルの袋についても、袋がないからリサイクル出来ない、リサイクルしないという市民の声を市役所のFacebookの投稿などで見かける。リサイクルを習慣化するためには経済的なメリットが重要だが、それだけが動機となってしまうと持続的な習慣にはなりにくい。

また、リサイクルできる資源を分かっていない市民が多くいると感じる。今の日本のように、資源物の収集が個別に出来たら区分も分かりやすいと思うが、コスタリカでは、リサイクル加工の会社が少なく資源物は海外へ売却されるのが通常だ。これもリサイクルが定着しないひとつの理由だと思う。リサイクルは単なる廃棄物管理ではなく、社会の価値観や経済的要因とも密接に関係している。リサイクルを『社会のルール』にするには、日本のように法律や学校教育や地域の取り組みを強化することが必要である。

日本では廃棄物の約80%がリサイクル・焼却処理され、約1%が埋め立て処理される、四国と九州を合わせた面積程度のコスタリカでは、廃棄物の約95%が埋立地に運ばれる。

しかし、コスタリカ内にある8つの埋立地のうち2つの埋立地は、廃棄物を受け入れる能力がもうほとんどない。環境保護国として、真摯にそして早急に取り組まなければならない大きな環境の問題である。

デサンパラドス市の環境プログラム“Soy generador responsable”(責任ある排出者)の名の通り、私たちは責任ある排出者としての役割を果たさなければならないし、国として「責任ある排出者」の意識を持てるかどうかが、未来に大きく影響するだろう。

コスタリカのリサイクルや環境の取り組みが発展することを願い、これからも注視していきたい。

環境イベント

以  上