執筆者:硯田一弘(アディルザス代表取締役)
これまでも御案内の通り、今週の月曜日に台北美福大飯店でパラグアイ商工省の貿易推進局REDIEXとパラグアイ畜肉振興協会CPCの共催によるパラグアイ肉紹介イベントが開催され、わざわざ日本からも多数の参加者にお集まりいただき、日本のお客様に優良なパラグアイ産畜産物をご提供する貴重な第一歩となりました。
この催しの様子は、当然本国でも報道され、新たな市場の開拓に大きな期待の声が上がっています。https://www.abc.com.py/economia/2025/02/25/noche-de-la-carne-paraguaya-en-taiwan-exploran-nuevas-oportunidades-comerciales-en-asia/
そもそも、牛や豚などの偶蹄類動物の畜産物というカテゴリーの畜肉の輸入は口蹄疫という偶蹄類動物の感染症防止の為に、取り扱える国が限定されています。
https://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/katiku_yobo/k_fmd/attach/pdf/index-71.pdf
パラグアイはFMD=口蹄疫の清浄地域ではあるものの、口蹄疫予防のワクチン接種を行っているために、接種の行われていない清浄国よりもステータスが低いとされ、現時点ではパラグアイ産肉の輸入は日本では認められていない訳です。

しかし、同じワクチン接種の清浄国であるウルグアイの肉は2019年に輸入が解禁されており、既に外食産業を中心に一定量の輸出が実現しています。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45599850T00C19A6QM8000/
一方、パラグアイ産の牛肉に関しては、同じステータスのアルゼンチン北部やブラジル等と同様に、まだ輸入が認められておらず、そうこうする一方で、ウクライナにロシアが進行した結果、それまで重要な市場だったロシアに向けての輸出が出来なくなる事態となり、パラグアイの畜産業界には厳しい環境が訪れました。
これを好機と中国が台湾と断交することを条件にパラグアイ産肉の購入意思を見せていましたが、台湾政府はこれを阻止する為に、牛肉のみならず台湾国内で多くの生産者がいる豚肉に関しても対パラグアイの輸入を解禁し、アジアで唯一パラグアイ産の畜肉を食することができる国になっている訳で、そういう訳で、今回の日本のお客様向けイベントは台湾で開催することになった次第です。

台湾ハウス食品で販売されているレトルトカレーには、しっかりと主原料パラグアイ産牛肉と表記されており、現時点ではパラグアイ産と記載された唯一のカレー製品となっています。
日本では胡麻ではパラグアイ産が多く使われていますので、御宅のキッチンのゴマをひっくり返して確認してみてください。
米不足による値上げや、天候不順によるキャベツ等の農産物の価格高騰が大きな社会問題になっていますが、牛肉も例外ではなく、質の良いパラグアイ産の肉を日本の食卓にお届けする為に、文字通り粉骨砕身しますので、応援よろしくお願いします。
トランプ政権が発足してまだ一カ月半ほどしか経過していませんが、この間に100以上の大統領令に署名をして、公約の実現に動いているそうです。それが良いかどうか、は別の話ですが。
一方、個人的にはお蔭様で昨日無事に退院してパラグアイに戻る準備を進めていますが、戻ったらすぐにオンラインでの外国との打ち合わせ予定なども入っているので、ちょっと気になって「いつ現行の夏時間から冬時間に戻るのか?」を調べてみました。その結果が今日の言葉です。 https://www.abc.com.py/politica/2024/10/14/pena-promulga-horario-de-verano-todo-el-ano/
例年なら秋分や春分の日前後で夏時間と冬時間の区切りをつけていたのですが、昨年10月にペニャ大統領によって公布された大統領令によって、パラグアイの時間は当面現行の夏時間=GMT-3=日本時間と12時間差、で固定されるようです。
現在住んでいるブラジル国境のエステ市周辺では、6:36に日の出、19:02に日の入りとなっていますが、例年なら3月の中下旬に冬時間への切り替えがあって、1時間時計が遅くなっていたので、日の出は05:30頃、日の入りは18時ころとなるところでした。
しかし、夏時間で固定されることになると、このまま日の出は遅くなって7時過ぎとなり、日の入りは少しずつ早まるので、南半球の冬至=北半球の夏至を迎えるころには、日の出の時間は7時半を過ぎていることになるようです。
https://www.timeanddate.com/sun/paraguay/asuncion?month=6&year=2025
かつてベネズエラのチャベス氏が大統領だった2007年、暗い時間帯に子供達が学校に通うのは良くない、という理由で国の時間を30分遅らせたことがありました。しかし、30分の時差というのは国際的にも極めて不評で、チャベスのやったことはほぼ変えないマドゥロ政権でも、これだけは2016年に戻さざるを得なかったという事情がありました。
https://jp.reuters.com/article/life/30-idUSKCN0XF0BC/
Daylight saving time=明るい時間の有効活用というコンセプトで各国で採用されていた夏冬の時差ですが、最近では世界的にも流行らなくなってきており、南米でもアルゼンチンが2009年、ブラジルは2019年に通年一本の時間としました。とは言っても、ブラジル国内には三つの時間帯があって、地域ごとに時差があるので、ブラジル旅行をするときにはお気をつけください。

北中南米の時間帯だけでも結構大きく異なりますから、この際ジックリとご覧ください。
米国では未だ時差やサマータイムの扱いに関する議論は表には出ていないようですが、為政者の気分にも動かされる時間の取り扱い、これからも注意が必要ですね。
夏時間・冬時間の境が無くなった件は先週ご紹介しました。
骨折治療の為に日本から戻るのが予定より二週間遅れて、今週ようやく帰ってきましたが、ここで感じるのが時間への違和感です。もちろん、日本との12時間時差によって昼夜が逆転している点は織り込み済みですが、今回の違和感は、先週お伝えした冬時間への復帰が無くなったことです。
それについて、Ultima Hora紙が以下の様に報じています。
Cuando arranquemos con nuestra jornada, ya sea para ir al trabajo para llevar a los niños al colegio, todavía va a estar oscuro.(一日の始まりに出勤あるいは登校であろうと、その時間はまだ薄暗い)
永年の議論の末に導入された通年不変の時間運用に対する戸惑いを表した記事です。
では、冬の薄暗い朝はどの程度の暗さなのでしょうか? 北半球の夏至に相当する南半球の冬至に近い7月1日の日の出時間は07:36、日の入りは18:12になるようです。
学校の始業時間が朝8時とすると、日の出前に家を出なければならない生徒も居そうですが、暗い時間というほどではないように思います。
ちなみに、今年の東京の元旦の日の出と日の入り時間は06:51と16:39
https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/dni/2025/s1301.html
緯度の高い札幌では07:06と16:10、西の端にあたる那覇では07:17と17:49と、緯度や経度で随分と差があることがわかります。高緯度なオスロの1月1日の時間は、日の出が09:18・日の入りが15:23ですから、ノルウェーの冬場の通学時間は登校時も下校時も暗い時間帯であることが判ります。https://www.afs.or.jp/countries/norway/#afs-nav-%e5%ad%a6%e6%a0%a1%e7%94%9f%e6%b4%bb
チャベスが生きていて、ノルウェーの大統領だったら、学校の時間をずらしたのかもしれませんが、やはり地域によって時間差があることはある程度受け入れて、その土地の時間に慣れて行くしかないように感じた次第です。
一方、人為的にこれまでのシステムに変化をもたらしているのが、トランプ政権の米国ですが、大きく報道されている鉄やアルミの輸入関税の引き上げは、当然ながら南米にも大きな影響をもたらしています。特に鉄鉱石と鉄製品の主要産地であるブラジルでは、米国の関税措置で輸出収入の減少が懸念されています。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-03-14/ST34UST0AFB400
ブルームバーグの記事では、中国等アジア勢のダンピング輸出の方が問題、と指摘されていますが、パラグアイでも看過できない出来事が進行しています。
https://www.facebook.com/watch/?mibextid=wwXIfr&v=962005076111956&rdid=sYciTspUGYBu6zqs
中国資本による電炉の製鉄所の建設が日本人移住地であるイグアス市で進んでいるのです。計画では、ブラジルからスクラップの鉄原料を輸入して、安価なパラグアイの電力を活用した電炉で建材用の線材を製造、改めてブラジルに輸出する加工貿易を目指しているようです。

米国の保護主義によってブラジルの鉄鋼輸出が減少し、更にパラグアイから新たな製品がブラジルに流入することになると、アルゼンチンが離脱提案して結束が乱れているメルコスールの今後にも影響を及ぼすかもしれません。
またブラジルでは食品のインフレ回避の為に一時的な関税撤廃を導入する方針も明らかにしていますhttps://jp.reuters.com/markets/commodities/NCWHU5Y45RIKNNPWB5BEPPBQYI-2025-03-14/
米国が仕掛ける壮大な社会実験が、今後どのような影響を世界に及ぼすのか、ジックリ観察しつつ、対処法を検討し、タイムリーに対応する力が各国に求められる時代となっています。
パラグアイで非現金のデジタル決済が進んでいることはこれまでもお伝えしましたが、クレジットカード決済が増え続けていることを受け、中央銀行はカードの決済手数料を減額する方針を定めました。
Crecimiento de transacciones digitales posibilita bajar tope de comisiones, segun BCP.
この報道によりますと、現在クレジットカード5%・デビットカード3%という店舗と銀行との間の決済手数料上限が、今年7月1日からクレジット4%・デビット3%となり、来年7月からは夫々3%と2%に引き下げられるとのこと。
過去6年間におけるクレジットカードの利用は、件数にして156万件から380万件に約2.4倍、金額にして3700億グアラニから7000億グアラニへと1.9倍の伸びを示しており、市場が急拡大している様子が良く理解できます。

ちなみに、7000億グアラニという金額は米ドル換算で9000万ドル・日本円で136億円で、パラグアイの人口700万人で割り戻すと一人当たり年間1942円となるので、まだ大した金額とは言えません。
日本のクレジットカード決済金額は111兆円で、1.2億人で割り戻すと92万5000円となるので、パラグアイでの一人当たりクレジット決済額は日本の476分の1という極めて小さな金額であることが判ります。ただ、デビットカードでの決済金額が少ない日本とは異なり、パラグアイではデビットでの決済金額が1兆6000億グアラニとクレジットでの決済金額を大きく上回っており、これらを合わせるとカード決済の金額は2兆6000億グアラニ≒505億円、一人当たり7200円という金額になります。勿論、それでも128分の1ですから、以前大した金額ではないと言えます。因みに一人当たりGDPは日本が32,000ドル、パラグアイが6,800ドルなので、日本の約5分の1という規模感になり、こうした数字だけみると、経済レベルがかなり劣後しているように見受けられます。
実際、銀行が発行する一般のクレジットカードの与信枠は6,000,000グアラニ≒12万円で、プラチナカードでも2千万グアラニ≒40万円なので、日本のカード与信枠の10分の1程度というイメージですが、与信枠が少ないことは、逆に多重債務の発生に歯止めをかける効果があると言えるかも知れません。
日本ではクレジットカードの債務残高の総額は公表されていませんが、クレジット先進国である米国では、コロナ禍以降悪化の一途をたどっているようです。
ちなみに、日本のクレジットカードの販売店手数料について調べてみたところ、各社とも3%台であると書かれていました。 https://www.rakuten-card.co.jp/minna-money/credit-card/knowledge/article_2206_90094/
ところで、おカネというのは、それぞれの国が自国の経済的信用力に基いて発行する約束手形のようなモノですが、コロナ禍での世界経済の停滞によって日本に限らず世界中の政府がおカネを刷って市中に回し、危機の回避に充ててきましたが、出回るおカネの総量が増えれば当然その価値は下がる訳で、価値の下がった通貨の評価を如何に引き上げるか、について各国政府は極力財政の情報を開示して、国民の協力を得ることに務めるべきですが、補助金が当たり前というアルゼンチンやベネズエラのような体質が身に染みてくると、債務残高で世界の先頭ランナーとなった日本にはもっと危ない状況が迫ってくることが懸念されます。https://www.fukurou.win/boj1/
ところで、世界幸福デーである木曜日、世界幸福度ランキング2025の発表がありました。2023年に66位、昨年57位だったパラグアイですが、今年も順位を上げて54位になりました。https://www.ultimahora.com/ranking-de-los-paises-mas-felices-del-mundo-en-el-2025-en-que-posicion-esta-paraguay
昨年51位だった日本は今年55位。つまりパラグアイの方が日本よりも上位に立ったわけです。https://data.worldhappiness.report/table?_gl=1*16k54q3*_gcl_au*NTU3NTY4MjIwLjE3NDI0ODk3ODU.
各国の幸福度をどういう基準で数値化して序列をつけるのか、細かい部分は判りませんが、パラグアイの順位が上がっているのは、人々が親切で他者との接点が多い、ことにあるようです。先の一時帰国でも感じましたが、今の日本は他人との関わりが減っているように思えます。人との交流に上限はありません。日本でも人々ができるだけ周りの人達との接点を増やし、人生を豊かにして、幸福度指数の高い国になってほしい、と感じます。
今週はブラジルのルラ大統領が国賓として日本を訪問しました。

石破首相との会談でのブラジル側の要求はブラジル産品の購入を日本に迫るもので、これに対する日本側は慎重姿勢を崩さなかったことは日本でも多く報道されています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN266ON0W5A320C2000000/
この首脳会談について、ブラジル側ではどのように報じられているのか、ご紹介します。
ルラは今年後半に日本・メルコスール協定の交渉開始を希望(Lula quer lançar negociação para acordo Japão-Mercosul no segundo semestre)
東京でブラジルが「保護主義的慣行」に反対すべきだと主張、日本の首相は提案に抵抗(Em Tóquio, brasileiro argumenta que é preciso se opor às ‘práticas protecionistas’; premiê japonês resiste à proposta)
ということで、国賓として歓待されたものの、実務者会談ではブラジルが希望する内容には至っていないことに失望の色がみられます。
牛肉やその他農産物の市場開放については、日本の農家を護る必要性から慎重姿勢を崩さない日本政府の対応は理解できるものの、メルコスル(ブラジル・アルゼンチン・ウルグアイ・パラグアイの地域経済同盟)との自由貿易協定への取り組みは日本にとって資する分野もある訳で、せめて交渉を開始することに関しては積極的であっても良い筈ですし、少なくとも対話を深化させてゆく中でメルコスル市場への日本企業の進出を推進する術を探るような動きになっても良いのではないか、と愚考します。
日本は3月の年度末で来年度予算成立に向けて与野党の攻防が激化している中での”国賓”来訪であったので、この時期のビジターへの対応に腰が入っていなかったように見えるのも仕方ないとは言え、日本のpráticas protecionistas=保護主義的慣行を崩さない姿勢は、BRICSやグローバルサウスの代表格として力を付けるブラジル側には頼りなく映ったことは否めない事実です。

今週の日経新聞には50年後には日本はGDPでもブラジルに劣後するという衝撃の予想が掲載されました。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA255OH0V20C25A3000000/
ブラジルは今や白物家電の生産量では中国に次ぐ世界二位の地位を確立していますし、日本が断念した中・小型旅客機の開発でも既に製品化して世界市場に販売していることからも判る様に、工業大国としての日本とブラジルの地位は既に逆転している分野もある訳で、目先の国内利権だけでなく、長期的な視野に立って南米南部の重要性をより実践的に検討すべきと思われます。
以 上