連載エッセイ458:渡邉愛里「コスタリカの水事情について」 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ458:渡邉愛里「コスタリカの水事情について」


連載エッセイ458

コスタリカの水事情について

執筆者 渡邉愛里(コスタリカ上下水道公社 国立水研究所、青年海外協力隊員)

1 コスタリカについて

コスタリカは中米に位置し、九州と四国を合わせたほどの面積を持つ国で、人口は約521万人である。中南米で安定した民主主義体制を持つ国の一つで、常備軍の不保持、高い教育水準を持つ国として知られている。主要産業はバナナ、パイナップルやコーヒー等の農産物や観光業となっているが、近年では海外企業の進出が相次いでいる。

また、コスタリカはエコツーリズムの発祥の地として知られ、国を挙げてエコツーリズムの推進に取り組んでおり、国土の約1/4を保護区や国立公園に指定している。自然豊かなこの国の水事情について紹介したい。

2 コスタリカの水事情

コスタリカの首都サンホセに来てまず驚いたことは水道水が飲めることである。周りにいるコスタリカ人が普通に蛇口から出た水を飲んでいたので、私も試してみたところ、思ったより美味しくて驚いた。今日まで毎日飲んでいるが今のところ水道水が原因でお腹を壊したことはないように思う。そんな「実は水道水が飲める国」コスタリカの実情について、下水処理の状況も含めて紹介する。

水道について

コスタリカの水道普及率は95%を超えており、国民のほとんどがサービスを享受している。コスタリカの水道事業は主に4つの団体によって運営されている。

(1)Instituto Costarricense de Acueductos y Alcantarillados(AyA)

コスタリカ全域に上下水道サービスを提供する公的機関であるが、主に都市部に水を供給している 供給率:50%

(2)Las Asociaciones Administradoras de Sistema de Acueductos y Alcantarillados Comunales (ASADAS)

地方を中心に地域住民等で構成される上下水道運営組合、AyAの子会社のようなもの 供給率:25%

(3)Las municipalidades

地方自治体(市役所) 供給率16%

(4)La Empresa de Servicios Públicos de Heredia (ESPH)

エレディア地区公共サービス会社 供給率:5%

水源については、3つのカテゴリーに分類されている。

(1)Naciente o subsuperficial

湧水 供給数:約4,000本

(2)Subterránea o pozo

地下水 供給数:約1,400本

(3)Superficial

表流水 供給数:約380本

湧水や地下水の水源が多いので国全体として濁度が低くきれいな原水を使用しているといえるだろう。それぞれの水質に応じて浄水処理を行っているが、ごく一部の水道施設では塩素消毒も行っていない施設が存在している。また、水道普及率は高いが全ての水道水が飲用水として供給されているわけではない。

2022年のデータによると、水道がある地域のうち約11%(55万人)が、飲用に適さない水の供給を受けている。人口で比較するとASADAS管轄の水道水が全体の65.7%を占めており不適の割合が高い。主な不適の要因としては、低残留塩素、大腸菌やアルミニウムの検出などが挙げられる。残留塩素については、基準値が0.3~0.6 mg/Lと定められており、日本の基準値(0.1 mg/L以上)と比較すると厳しい。そのため、全く残留塩素が検出されていない施設ばかりというわけではない。コスタリカでは多くの水道で飲用に適している水を供給しているといえる。しかし、一方で飲用に適さない水の供給を受けている国民もいるので、水道水の水質を高めていくことも重要な課題である。

下水道について

コスタリカの下水処理状況については普及が遅れているといえるだろう。下水道普及率は、国全体で28%(都市部35%、農村部11%)しかない。2015年に日本の円借款「サンホセ首都圏環境改善計画」によりロスタホス下水処理場が建設され首都圏の下水処理を行っているが、一次処理(ゴミを取り除く物理的処理のこと)しか行われていない。二次処理(微生物処理)については今後導入予定となっており、現在のところ一次処理のみ行ったあと河川に放流されている状況である。

その他の汚水はほとんどがセプティックタンク(浄化槽)で処理されているが、一部の生活排水がそのまま河川に流れており、水質悪化の要因の一つとされている。


写真:ロスタホス下水処理場にて撮影

Laboratorio Nacional de Aguas(LNA)国立水研究所について

AyAではそれぞれの水道施設の供給人口に応じて、水道水や下水のサンプリングを行い必要な水質検査を行っている。その検査を担っているのが私の配属先でもあるLaboratorio Nacional de Aguas(LNA)国立水研究所である。ここでは、コスタリカ各地から上下水のサンプルが集められ、様々な機器を使って水質検査を行っている。

写真:水質検査風景

3 最後に

AyAに配属されてから目先の水質検査を優先してきた結果、コスタリカの水道水は飲めるけど水質はどうなっているのだろうという問いは後回しになっていたので、今回エッセイを投稿するにあたっていろいろな状況を知ることができた。日本でも水質検査関係の仕事をしていたので、日本とコスタリカの水道水の違いを比較するのは楽しかった。コスタリカの水道水は「基本的には飲めるが、地域による」といった結論になるが、今後さらに詳しく調査を進めていきたい。

参考資料

https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/costarica/data.html#section1

https://www.aya.go.cr/SitePages/Principal.aspx

https://aresep.go.cr/agua-potable/

https://cgrfiles.cgr.go.cr/publico/docs_cgr/2024/SIGYD_D/SIGYD_D_2024022683.pdf