執筆者:Ruben Rodriguez Samudio(早稲田大学法学研究科講師・パナマ共和国弁護士)
A.社会保険庁改正
社会保険庁総合法の改正は、3月14日にパナマ国会で可決され、18日にムリノ大統領により署名された。改正後、資金不足に対応するため、政府は毎年約10億ドルの支援を提供し、最も注目された定年年齢の変更は行われなかった(男性62歳、女性57歳)が、2030年に社会保険庁の状況に応じて引上げを検討することが規定されている。また、改正により入会義務が拡張され、改正前には対象とされていなかった個人事業主が含まれるほか、国民・外国人を問わず、パナマで労働するすべての者の年金拠出金の納付義務が定められている。個人事業主の拠出金は収入の9.36%とされ、健康保険や育児休暇制度に入会したい者は更に8.5%を納付しなければならない。社会保険庁は、被保険者が拠出金の金額、予定年金額等を確認できるよう、オンラインポータルを作成する。また、企業側年金拠出金は3%引き上げ、4月1日から13.25%、その後、徐々に上がって最終的に2029年に15.25%に上がる。
年金制度に関して、「一定利益システム」(Sistema de Beneficio Definido)は改正されず、「混合システム」(Sistema Mixto)に新たな制度が追加され、4月1日以降、新労働者は自動的に新しい制度に入会し、その他の労働者は任意で変更することができるが、2036年にすべての労働者は新しい制度の対象となる予定とされている。
B. マルティネリ元大統領のセーフ・コンダクト(安導権)
3月28日に、パナマ政府はマルティネリ元大統領がグアテマラへの政治亡命をするため、セーフ・コンダクトを認め、3月29日に、SNSでマルティネリ元大統領はニカラグアに移動することを発表した。セーフ・コンダクトの発行に対して、政治家、法律家からの批判の声が上がっている。
2024年2月に、パナマ国庫から約4400万ドルを利用し新聞の出版会社EPASAを買収したマネーロンダリング事件において有罪判決が確定したマルティネリ元大統領は、ニカラグア大使館に政治亡命を申請し同日に認められたが、コルティソ政権(2019-2024)は、マネーロンダリングを政治的犯罪として認めず、ニカラグアに移動するのに必要なセーフ・コンダクトを発行しなかった。それ以降、マルティネリ元大統領は在パナマニカラグア大使館で亡命し、逮捕できないこととなっている。政府は、マルティネリ元大統領の体調不良に基づき「人道的な理由」という根拠でニカラグアへの亡命を認めたが、有罪判決の効果は継続し、他国への移動は禁止されていると発表している。
セーフ・コンダクトは3月31日までの期限があり、ニカラグア政府は従う義務があるという意見が出ている。期限までに亡命が行われない場合、国際法に基づいてパナマ政府はニカラグア大使、その大使館の職員をペルソナ・ノン・グラータとした上、外交官としての資格を失う場合もある。2024年の判決では禁固刑128か月、および1900万ドルの罰金刑に処せられたマルティネリ元大統領は、パナマ憲法第180条に基づいて、史上初の大統領選挙での出馬が禁止されている候補者となった。
A.港譲渡契約
3月7日に、アメリカの資産運用会社であるブラックロックは、パナマ運河の港を運営するPanama Ports Company(PPC)を管理している香港企業Hutchison Port Holdings Limited(HPH)を228億ドルで買収することが分かった。契約は4月2日に結ばれる予定であったが、3月27日に、中国政府と香港政府が買収に反対しているため、契約の締結が見送りになったと報道されている。中国メディアはPPCの買収は「裏切り」とし、中国政府は国営企業に対してPPCと同じグループの会社との取引を控えるよう要請している。また、パナマ政府は、買収交渉内容は通知されておらず、パナマ法への順守を確認するため、両社から情報提供を求めると発表している。
パナマ運河には5港があり、PPCは大西洋と太平洋にて2港を運営し、アメリカのSSA Marineは大西洋に1港、台湾のEvergreenは太平洋に1港、シンガポールのPSA Internationalは1港を管理している。PPCの管理しているバルボア港とクリストバル港は合わせて381万TEUを取扱っており、これはトランプ大統領が批判している中国政府の影響だと考えられる。HPHの買収が行われると、アメリカの会社は運河の3港を管理することとなる。
パナマ政府は、コンセッション方式契約不履行を理由として、PPCに対する監査を行っている。また、2021年のコンセッション方式契約の自動更新についての裁判が最高裁判所で行われる。更新が違法と判断されると、PPCは管理している港について権利がないことになるため、ブラックロックの買収の対象外とされる。その際、パナマ政府と新たな契約を結ぶ必要があるが、取引相手は国際調達手続きで選択され、ブラックロックがコンセッション方式契約の相手として選ばれる保証はない。
A.ペトロ大統領の公式訪問
3月28日に、コロンビアのペトロ大統領はムリノ大統領と移民問題、ダリエン県の国境、両国間の電力系統について対談を行うため、パナマを訪問した。対談後に開催された記者会見において、ペトロ大統領はパナマの独立および運河についての管轄を認め、両国の友好関係を強調しつつ電力系統によって中南米のマーケットに電力を提供できると述べた。また、移民問題に関して、移民の人道的な扱いが必要と述べた。
パナマのファルプ国家鉄道局長は、パナマとコロンビアを繋げる鉄道が検討されていると発表し、ペトロ大統領は大歓迎した。
以 上