『愛と孤独のフォルクローレ ―ボリビア音楽家と生の人類学』
相田 豊 世界思想社
2024年12月 333頁 4,500円+税 ISBN978-4-7907-1795-9
ケーナ(葦等の縦笛)、サンポーニャ(長さの異なる葦のパンフルート)、チャランゴ(複弦弦楽器)などによるフォルクローレは伝統民俗音楽との先入観をもつ者が多いが、1970年代にボリビア各地でばらばらに演奏されてきた民俗楽器を西洋音階基準に調律し組み合わせ合奏しようとする新しい音楽スタイルだった。著者は文化人類学を専攻し、自らもサンポーニャを演奏してプロとして音楽活動をしており、本書は2010年代に3年半にわたってボリビアでフィールドワークと演奏活動を行って纏めた博士論文を改稿したものである。
本書はそもそもボリビアのフォルクローレ音楽が実は20世紀以降国家主導の民俗文化創成と左派の草の根文化活動という政治的潮流の中から発生したものであり、先住民文化を低く見る風潮へ反抗の精神で形成されたが、反抗とつながりきれない音楽家の集合性を指摘し、他者に抗するフォルクローレ音楽家は「孤独」であると著者はいう。著者の視点は同業者間、楽器製作者と音楽家との関係性、さらに楽器のための木の伐採を生業とするアマゾンの家族まで拡がり、アンデスとアマゾンの様々な立場の人々の実践に共通して見られるつながりの呪縛を考察しているが、実に多くの関係者と濃密な対話を行い、音楽家たちが時には練習そっちのけで会話するアネクドタ(逸話)の中に本音を探る。先住民とは全く別な形での楽器演奏として、バンド演奏は調和が前提との思いこみに対してフォルクローレは他者とのつながりに抗して孤独が本質にある音楽であるという指摘は、芸術文化人類学のアプローチとして評価できる。
〔桜井 敏浩〕
〔『ラテンアメリカ時報』2025年春号(No.1450)より〕