『チェ・ゲバラ 革命の人生(上・下)』
ジョン・リー・アンダーソン 山形 浩生、森本 正史訳 みすず書房
2024年10月 上・下計2011頁 各5,600円+税 ISBN978-4-622-09681-8、09682-5
上巻は出生から50年前のキューバ革命の成功、その後の旧体制の粛正まで、下巻は革命政権での政治家としての活動、革命戦争を広めるためのコンゴとボリビアでの活動、ボリビアでの死までを扱っている。著者は、良家出身で医師免許を持ったアルゼンチン知識人を世界変革の試みに駆り立てたのは何かを解き明かすために取材を重ねた。
著者は『ニューヨーカー』誌のスタッフライターで、リオデジャネイロのギャング、2010年のハイチの大地震、ペルー・アマゾン地域の孤立民族、カラカスのスラム等で多くの取材をし、アウグスト・ピノチェト、フィデル・カストロ、ウゴ・チャベス、ガルシア・マルケスについての著述がある。本書執筆のためにゲバラ未亡人のアレイダ・マルチのインタビューやキューバの調査のために1992年から3年近くハバナに滞在、 ボリビアへも取材し1995年にはゲバラの処刑を指揮した政府軍将校のバルガス・サリナスに会い、ゲバラとその同志の遺体を秘密墓地に埋めたことを認める告白を聞き出したことが、36年ぶりに秘密の集団墓地からの遺体発見につながった。これまで出たゲバラを扱った本は、キューバ政府公認の聖人、偶像視する賞賛かイデオロギーの敵対者が書いた政治的に悪魔視するものに分かれるが、そのいずれにも偏らないチェ・ゲバラの生涯の詳細な記録である。
〔桜井 敏浩〕
〔『ラテンアメリカ時報』2025年春号(No.1450)より〕