『コロンビア共和国憲政史』寺尾 辰麿 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『コロンビア共和国憲政史』寺尾 辰麿


『コロンビア共和国憲政史』
寺尾 辰麿 風行社 
2022年9月 353頁 4,000円+税 ISBN978-4-86258-147-1

 本書はわが国において概括的に取り上げた研究論文のないコロンビア共和国の200年以上にわたる憲政史の変遷を、経済社会情勢との関連をも考慮しながら概要を述べるとともに、105年ぶりに民主的な制定過程を経て改正が成立した現行の1991年憲法を分析することによりコロンビアの立憲政治の特質を明らかにしようとしたものである。
 まず1810年の独立宣言を起源にコロンビアの憲法制定の動きが始まり、1821~32年のグラン・コロンビア期、その分解後の1832~53年の憲法と二大政党制成立の経緯から始まったことから説き起こし、連邦制期、中央集権期を経て1991年憲法の制定過程とその特色、その後の諸改正、憲法裁判所の創設、2012年に行われた非合法武装グループFARC-EP(コロンビア革命軍)との和平合意のための暫定的改正について論じ、最後にコロンビアの政治憲政史がわが国の憲法改正の参考として検討されるべき論点を述べている。
 著者は大蔵省で国税庁長官を最後に退官、2007年から2010年の間在コロンビア大使を務め、この間館員有志で本文が380条、各条文が長いコロンビア政治憲法を翻訳し議論したものを基にし、山下和明元山梨学院法科大学院教授の校閲を受けた全訳を167~343頁に収録している。わが国ではとかく米欧の政治体制が参照されるが、コロンビア固有の憲政をはぐくんできた長い歴史は、明治以来独自の発展を遂げてきたわが国の民主主義と憲法のあり方に大きな示唆を与えてくれると、本書の意義を強調している。

〔桜井 敏浩〕

〔『ラテンアメリカ時報』2025年春号(No.1450)より〕