『呪医とPTSDと幻覚キノコの医療人類学 ―マヤの伝統医療とトラウマケア』
宮西 照夫 遠見書房
2023年11月 239頁 2,300円+税 ISBN978-4-86616-182-2
著者は和歌山県生まれ、和歌山県立医科大学卒業の医療人類学者、精神科医。精神科医としては若者のひきこもり、統合失調症を主に治療、研究してきた和歌山大学名誉教授。20代はじめにマヤ文明の滅亡要因に興味をもちメキシコを訪れた著者が、以後40年以上続いた旅でマヤ人の文化や社会、呪医による伝統医療や儀式を観察し体験した記録とともに、内戦被害者の支援、古代マヤ遺跡の探索といった活動についても語っている。
マヤ地域での統合失調症と伝統的な癒し・呪医の治療技術、グアテマラ内戦と貧困で傷ついた子どもたちの心を癒やすキノコの集会での共感する仲間セラピストの重要性、グアテマラのアティトラン湖畔のマヤ人の近年の伝統的文化の崩壊による生活文化の変化と異文化の受容、内戦で近親者を殺害され、伝統的な癒しのシステムが崩壊した女性たちの外傷記憶慢性化によるPTSD(トラウマ)の依存的側面、最後にマヤ系儀式にみる死生観・他界観を述べている。
〔桜井 敏浩〕
〔『ラテンアメリカ時報』2025年春号(No.1450)より〕