連載パナマ・レポート60:ルベン・ロドリゲス 2025年04月分 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載パナマ・レポート60:ルベン・ロドリゲス 2025年04月分


連載パナマ・レポート 60: ルベン・ロドリゲス 2025年04月分

執筆者:Ruben Rodriguez Samudio(早稲田大学法学研究科講師・パナマ共和国弁護士)

I. 政治

A.マルティネリ元大統領の亡命

4月1日に、ニカラグア政府は、パナマ政府がニカラグアの中米統合機構(SICA)の事務局長就任を支持しないことを理由として、マルティネリ元大統領の入国を拒否した。 2024年に、ニカラグア政府がマルティネリ元大統領の政治亡命申請を認め、同月にパナマ政府に移動許可(セーフ・コンダクト(安導権))を求めたが、コルティソ政権(2019-2024)は、マルティネリ元大統領の有罪判決の原因となったマネーロンダリングは政治的犯罪に該当しない理由であるとして、移動許可の発行を拒否した。
2025年3月末に、ムリノ政権は、同月31日期限の移動許可を発行したが、ニカラグア政府による入国拒否の発表を受け、安導権の期限を72時間に延長したものの、期限内に移動が行われなかった。また、判決を下した法廷は国際刑事警察機構を通じて、国際指名手配を発行したが、パナマ警察庁は、国際刑事警察機構に協力しないことを明らかにした。
マルティネリ元大統領の事件は、パナマ政界に大きな影響を与えている。2024年にマルティネリ元大統領が創設したRM党の議員は政治的犯罪の定義を改正する目的で「恩赦法案」を提出したが、国会の委員会で批判を受け、廃止された。ニカラグアの入国拒否を理由とし、RM党およびPRD党の議員は改めて法案を提出したが、国民および他の議員に反対され、法案は廃止された。パナマ憲法において、恩赦は政治的犯罪に限られ、最高裁判所の判決では、恩赦対象犯罪の特徴と恩赦が認められている事例等が明示されているため、国会がその解釈を変更する法律を発布しない限り、マルティネリ元大統領は恩赦を受けることができない。

B. 採掘権契約
 4月22日に、ムリノ大統領はコンセッション式の契約法(contrato ley)に頼らずに、政府が直接的に鉱業を担当することを検討していると公表した。2023年11月に、パナマ最高裁判所はカナダのFirst Quantum子会社である鉱業会社Minera Panamáの採掘権契約に関する法律は憲法、パナマ政府が批准した国際条約、および様々な法律に違反すると判示し、コルティソ前大統領は判決に従って、採掘停止を命令した。当時、最高裁判所は採掘権契約自体を違憲だと判断していないが、同年12月に採掘権契約を禁止とする法律が発布され、2025年4月に違憲訴訟の開始を拒否したため、現在新たな契約法の成立は不可能となっている。
ムリノ大統領は、法律を通さず政府直接管理で採掘を行い、民間企業は技術の提供という立場で参加すると説明した上で、国会に法案を提出すると国民の反対と不満によって改めて国民不安が懸念されると述べた。直接管理という方式は法律または憲法を違反しないという政府の方針を受けて、First Quantumが交渉に参加する意思を明らかにしている。これに対して、弁護士のセデニィオ議員は、2023年の法律を廃止しなければならないため、国会の協力が必要と述べた。さらに、環境保護団体は批判の声を上げている。

II.外交

A. パナマ・アメリカとの合意文書
 4月9日に、パナマのアブレゴ国防大臣とアメリカのヘグセス国防長官が防衛協力に関する合意書に署名した。合意書は両国協力関係の強化を目標として、パナマ法に基づいてアメリカの軍人・民間スタッフがパナマでの活動に必要な設備および施設を無償で利用できると規定している。これらの施設等の所有権はパナマにあり、パナマ国防省が管理するとされているが、アメリカ専用のエリアもあり、パナマ側のスタッフ等が許可なしに立ち入りできない。合意書は3年間の期限および自動更新も規定しているが、パナマ政府は6か月前の通知によって一方的に解約できると定められている。
 パナマ外務省は、合意書の解説において軍基地の設立は認められていないと説明したが、専門家は、アメリカ軍が無償でパナマの国防施設を利用できるため事実用の軍基地だと批判している。また、施設の管理はパナマ国防省に託されているが、いくつかの場合、アメリカ政府の許可が必要と明示されているため、パナマの独立を侵害するという批判もある。さらに、合意書は「パナマ運河の永久中立と運営に関する条約」または、パナマとアメリカのその他の条約を参照していないため、法的根拠も明らかではない。
 さらに、合意書についての共同声明も問題となっている。スペイン語で公表されたパナマ側の共同声明ではパナマの主権が強調されているが、英語の共同声明では主権保障は記載されていない。また、アメリカ側は、パナマ政府からアメリカ軍艦の運河通行料免除および優先取扱い(free and first)が保証されたとしているが、パナマ政府は、通行料免除ではなく後日の相殺や返済だと説明している。これに対して、トランプ大統領は4月29日に、SNSで、パナマ運河とスエズ運河において軍艦に加え商船についても特別扱いを求めている。
批判の声に対して、アメリカとの外交関係を担当したヘルナンデス副大臣は新聞のコラムで合意書の妥当性を説明したが、政府内では合意書交渉においてヘルナンデス副大臣の立場について評価が分かれたため、4月10日に辞任届を作成し15日に提出した。