水野裕紀子訳 化学同人 2025年1月 385頁 2,800円+税 ISBN978-4-7598-2399-8
英ロイター・ニュースで地球規模の気候・環境問題を担当する通信記者が、世界で現存する8種のクマを追って南米、インド・中国・ベトナムのアジア、米国・カナダの北米と世界各地を訪れ、クマたちの現状を野生動物と人との過去と現在、そして未来の共生のあり方を探る科学ジャーナリズムのドキュメンタリー。
クマ科はかあつて最も人間に近縁の動物の一つであり、世界各地の神話・伝承にもよく登場するが、現在世界に残るクマは8種のみであるが、身体的特徴、外見、習性は多様である。著者がまずアンデス(P,29~70)のエクアドル、ペルーの雲に棲むメガネクマを追ってペルーのクスコからアンデス山脈東麓のマヌー国立公園へ向かい、雲霧林に分け入り生物学者が標高600~3700mに仕掛けた自動撮影カメラの映像を確認して回る。熱帯低地を海岸の中間に位置する古代文明の神殿遺跡チャビン・デ・ワンタルのランソン(神体)のジャガーといわれる像は直立後ろ足だけで立っているからと保全生物学者はクマだと言うが、インカ・アマゾン河文化でクマは不在である。半分人間、半分メガネクマの「ウクク」という神話上の生き物が信じられ、ペルーの農民の間でのアンデス山脈を巡りながら若い女性を掠う熊男の伝承があるが、祭礼で気候変動による氷河の縮小でウククに扮して登り氷塊を切り出して帰る慣習は止めた。エクアドルのカハス国立公園では、鉱業開発と気候変動により温暖化にともない生息地が狭まっている。
〔桜井 敏浩〕