『TAMPOPOの綿毛が風に飛んでいく ―ブラジルろう者「当事者主体」の奮闘の軌跡 (JICAプロジェクト・ヒストリー・シリーズ)』
盛上 真美 ・ 吉田 憲 佐伯コミュニケーションズ出版事業部
2025年5月 157頁 1,000円+税 ISBN978-4-910089-44-7
ブラジルは世界で所得格差が大きな国の一つであるが、中でも障害をもつ人たちは貧困に陥りやすい。それらへの保健やセクシャリティ教育・啓発は不十分で、特に字が読めずコミュニケーションを取ることが困難な聾唖者・難聴者は地域のサービスにアクセスすること自体が難しい。2008年からNPO法人DPI(障害者インターナショナル)日本会議による「ろう者組織の強化を通じた非識字層の障害者へのHIV/AIDS(ヒト免疫不全ウイルス/後天性免疫不全症候群)教育」―通称TAMPOPOプロジェクトが開始された。著者の盛上氏は2005~13年の間ブラジル北東部に住み、国際協力機構(JICA)草の根技術協力事業のプロジェクトマネージャーとしてTAMPOPOに従事し現地政府機関やブラジルろう者連盟と連携して活動した。
本書は著者がろう者と関わるソーシャルワーカーを志し米国で学び、世界銀行秘書を経てブラジルに渡り、レシフェにおいてTAMPOPOプロジェクトを立ち上げ、当事者仲間への愛情と共感に支えられ、JICAブラジル事務所と連携し(もう一人の著者吉田氏は当時次長)、ブラジルろう者たちと共に奮闘した著者の半生記であり、途上国で当事者主体の開発事業に邁進した熱い思いが読む者にも伝わってくる実録書。障害の有無にかかわらず、孤独を感じるかもしれない全ての人たちへのエールを込めた書でもある。
〔桜井 敏浩〕
〔『ラテンアメリカ時報』2025年夏号(No.1451)より〕