『ガラパゴスを歩いた男 ―朝枝利男の太平洋探検記』
丹羽 典生 教育評論社
2025年1月 255頁 2,400円+税 ISBN978-4-86624-110-4
著者は社会人類学、オセアニア地域研究を専門とする国立民族学博物館教授。朝枝利男(1893~1968年)は1932年に米カリフォルニア科学アカデミーの第2回ガラパゴス探検に写真撮影、標本のスケッチ、彩色の技師として参加し、約6000枚の写真と130点の水彩画、手書きの探検記を遺した。その資料が遺族によって民博に寄贈されたものを見た著者が、日本人のガラパゴス諸島探検のパイオニアであった朝枝の生涯と仕事を纏めたもの。
東京高等師範を卒業し地理の教職に就いたがすぐ1923年に留学のため渡米、ニューヨーク、カリフォルニアで写真・標本画の技量を身につけ、1930~37年に米国の資産家クロッカーが催した太平洋各地への探検旅行に写真撮影、標本・剥製製作の専門家として参加したが、特に1932年と35年に訪れたガラパゴス諸島では風景、鳥類、植物、動物、樹木の観察を日記、絵、写真とともに詳細な記録を遺している。その一部は1932年の東京朝日新聞や月刊誌への寄稿などで日本に紹介する試みもなされた。朝枝はこのほかイースター島やソロモン諸島等も訪れており、1935年に到着したイースター島では米自然史博物館が欲しがっていたモアイ像の複製製作のための石膏型取りを行った。
朝枝の探検家としての時代は第二次世界大戦によって突然終焉し、1942年には米西海岸にいる日本人の強制収容所送りで妻とともに召喚され(その間収容所の風景画を40点以上描いている)、戦後カリフォルニア科学アカデミーで資料や展示の準学芸員の仕事に就き1966年まで16年間勤め上げた。
〔桜井 敏浩〕
〔『ラテンアメリカ時報』2025年夏号(No.1451)より〕