『非公式帝国の盛衰 ―英・アルゼンチン関係史』
佐藤 純 同文舘出版
2025年2月 191頁 3,200円+税 ISBN978-4-495-44305-4
1950年代初頭に植民地や自治領を擁する公式帝国は氷山の一角であり、海面下には政治・外交上の独立は保ちつつも経済面、とりわけ金融面で英国に従属していたエジプト、ラテンアメリカ諸国、中国、ペルシャ湾諸国の「非公式帝国」の存在を主張する史家が現われた。これら諸国との英国との関係は対等な主権国間のそれとは異なり、うちアルゼンチンは貿易決済システム、為替管理体制面で軍事的恫喝、搾取、暴力を伴わない英資本に対する従属性を強めた。アルゼンチンは食肉輸出量保証と引き換えに英国の工業製品関税を引き下げ、非公式支配により第二次大戦時に戦争協力を余儀なくされた。
本書ではさらにアルゼンチンの経済官僚が英米覇権の交代を見据え、主体的・積極的な対外政策の展開と帰結を検討し「非公式帝国」の終焉の様相、アルゼンチンの金融制度改革、それとの比較のためのエルサルバドルの制度改革の事例研究を付している。著者は東北学院大学経済学部教授。
〔桜井 敏浩〕
〔『ラテンアメリカ時報』2025年夏号(No.1451)より〕