連載パナマ・レポート63:ルベン・ロドリゲス 2025年07月分 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載パナマ・レポート63:ルベン・ロドリゲス 2025年07月分


連載パナマ・レポート 63: ルベン・ロドリゲス 2025年07月分

執筆者:Ruben Rodriguez Samudio(早稲田大学講師・パナマ共和国弁護士)

I. 政治

A.パナマ横断鉄道

 パナマ県とチリキ県を繋げる鉄道建設の準備が進んでいる。6月下旬、2024年7月創設のパナマの鉄道局は、鉄道建設予定のルートの地盤調査について契約を締結した。また、7月8日に発令された政令により、住宅都市開発省(西:Ministerio de Vivienda y Ordenamiento Territorial, MIVIOT)と鉄道局は鉄道の建設に必要な土地の特定を託された。さらに、同政令により、会計検査院を通して鉄道局は90日以内に該当する土地の市場価値を鑑定するよう命じられ、市場価値は24ヶ月ごとに更新されることとなっている。7月18日時点では、鉄道局はパナマ県からヘレラ県の間の必要な土地を特定していると発表しており、近々そのリストを公開する予定である。さらに、鉄道局は7月24日、鑑定に関する調達手続きの内容を公開した。

 パナマ横断鉄道は、ムリノ大統領の公約である。パナマ県とチリキ県は約600㎞離れており、現在バスで約5時間かかっている。計画されている列車は、この距離を2時間半で走れると想定され、建設には6年間、40億から45億ドルの投資が必要と予測されている。パナマ横断鉄道計画は海外でも注目されている。2024年5月、在パナマ中国大使は記者会見にて、バレーラ政権期(2014-2019)に中国政府がパナマ県―ダビッド県列車建設実行可能性調査を作成したと述べ、中国政府が建設に必要な支援や協力を提供できると強調した。鉄道は国境まで続く予定のため、コスタリカの交通当局もパナマ政府と鉄道に関する情報交換を行っている。さらに、6月30日のムリノ大統領のスペイン公式訪問では、スペインのサンチェス大統領がスペイン企業は鉄道建設で有名だと強調し、国際調達手続きに参加する意思があると述べた。

II. 経済

A.港の管理問題

 バルボア港(太平洋)とクリストバル港(大西洋)の管理契約の交渉が継続している。3月上旬にアメリカの資産運用会社であるブラックロックは、バルボア港とクリストバル港を運営しているPanama Ports Company(PPC)を管理する香港企業Hutchison Port Holdings Limited(HPH)を228億ドルで買収する意思を発表したが、中国政府と香港政府が買収に反対しているため、同月下旬に契約の締結が見送りになった。ブラックロックとHPHの交渉は、パナマの港を含めて23ヵ国において49港を対象とし、7月27日に交渉の締切りが定められていたが、延長される可能性が高い。

 現在パナマ運河は5港を利用している。バルボア港とクリストバル港はPPC、マンザニージョ港(大西洋)はアメリカのSSA Marine、コロン港(Colon Container Terminal、大西洋)は台湾のEvergreen、そしてロッドマン港(太平洋)はシンガポールのPSA Internationalに属するPSA Panama International Terminalに管理されている。マンザニージョ港のコンテナ取扱貨物量は270万TEUを取扱うため国内最大となっているが、バルボア港とクリストバル港は合わせて381万TEUを取扱っている。米国のトランプ大統領がパナマ運河における中国の影響を批判する理由は、HPHの運営であると思われる。

3月に、パナマ政府は、コンセッション方式契約不履行を理由として、PPCに対する監査を行っている。さらに、2021年のコンセッション方式契約の自動更新が最高裁判所で争われている。最高裁が更新を違法と判断した場合、PPCの港管理権利は無効となるため、ブラックロックの買収の対象外とされる。その際、パナマ政府と新たな契約を結ぶ必要があるため、ブラックロックは多国の大手企業と同じように国際調達手続きに参加しなければならない。

B.海運と物流問題

 7月23日に開催された海運と物流フォーラムにおいて、海運大手APモラー・マースクマースクのカリブ海・ラテンアメリカ地域の代表者であるアントニオ・ドミンゲスはパナマの海運問題を解説した。ドミンゲス氏は、パナマの港はコンテナを取扱う余裕がなくなったため5000個のコンテナを他国の港に送ったと説明した上、パナマの港インフラ等は15年遅れていると主張している。さらに、この問題の解決案は既に提案されているが、実行されないまま問題が悪化しているため、直ちに対応すべきだと発表した。同じフォーラムに参加した米国の戦略コンサルティングファームのマッキンゼー・アンド・カンパニーのパートナーのリカルド・モヤ・キロガは、パナマの港の稼働率は65%であり、国際基準によると稼働率70%は切迫した飽和状態を指すと述べた上で、港や物流のインフラ投資は20年以上の単位で考えるものだと説明した。

III. 外交

A.英利アルフィヤ外務大臣政務官の公式訪問

 7月24日に、日本の英利アルフィヤ外務大臣政務官はパナマのアチャ外務大臣と技術協力、持続可能性、投資誘致の推進について対談を行った。9月上旬に予定されたムリノ大統領の日本への公式訪問、日本企業のパナマにおけるラテンアメリカ地域の地域本部および生産拠点の設立、およびパナマと日本の直行便運営の開始可能性についても会談した上、アチャ外務大臣は、改めて日本政府が「パナマ運河の永久中立と運営に関する条約の附属議定書」に加入することを求めた。

以  上