執筆者:Ruben Rodriguez Samudio(早稲田大学講師・パナマ共和国弁護士)
A. 採掘権契約の国際仲裁
9月10日に、米国に本部が置かれている投資紛争解決国際センター (International Centre for Settlement of Investment Disputes、ICSID) は、カナダのFirst Quantumと韓国のKorea Mine Rehabilitation and Mineral Resources Corpが、採掘権契約取消を根拠にパナマに対して損害賠償として200億ドルを求める国際手続きの仲裁法廷が確定したと発表した。仲裁法廷はスイス人(当事者の合意で任命)、ベルギー人(企業側任命)、アルゼンチン人(パナマ政府任命)から構成されている。
ムリノ大統領は仲裁が継続する限り採掘権契約の再交渉に応じないと述べ、企業側は交渉手段として仲裁の一時停止を申請しており、交渉決裂の場合、仲裁手続きを再開すると公表している。2023年11月に、パナマ最高裁判所は、カナダのFirst Quantum子会社である鉱業会社Minera Panamáの採掘権契約に関する法律が憲法、法律、パナマ政府が批准した国際条約を違反するため無効であると判断した。そもそも、仲裁は民事紛争解決を目的とする手続きであるため、パナマ最高裁判所の違憲判決により無効とされた契約関連の法律はその条件を満たすか否か明確ではない。
判決文では採掘自体は禁止されておらず、憲法、その他の法令を遵守するプロセスで成立する契約であれば、有効と判断される可能性が高いと考えられる。しかし、一つの条件として、環境保護に関する法令に基づく環境影響評価が必要とされ、これに基づく調達手続きを行わなければならないため、政府が直接First Quantumと新たな契約を締結することはできないという見解がある。
B. パナマ運河2025-2035戦略
9月17日にパナマ運河のバスケス局長は、①水資源セキュリティ(seguridad hídrica)と②サービス拡張による長期の成長という2軸を中心とするパナマ運河2025-2035戦略を公表した。パナマ運河では、2023年、普段は1日35-38隻の通航を24隻までに制限する通航制限が設けられたが、2024年4月に始まった雨季に伴い徐々に解除された。これをふまえて、運河の円滑な運営を保障するために給水源となる新たな貯水池が必要とされており、コロン県にあるリオ・インディオ地域での建設が予定されているが、住民からは反対の声も上がっている。
②に関しては、アメリカ産のガスを日本、韓国、中国、インド等に運ぶため運河を横断する天然ガスパイプライン計画を公表した。バスケズ局長はパイプラインが長さ76kmであり、設計等に応じて20-80億ドルの投資が必要と説明し、2027年に建設の開始を目指している。バスケズ局長は19日にパナマ、米国、日本、他国の企業の代表者にパイプライン計画の詳細を紹介し、2031年から2050年にかけて350億ドルの利益が予測されていると述べた。さらに、調達手続きなどに参加希望の企業は10月10日までに運河局に対してその旨を明示する必要があり、調達は2026年後半に行う予定であることが分かった。
また、パイプライン計画とともに、②のプロジェクトとして、複数の新たな港の建設も公表された。
A. 最低賃金の改正
労働省は11月に、政府、労働者、および民間企業の代表者で構成される最低賃金委員会を設け、2026-2027年の最低賃金改正を検討すると発表した。パナマ労働法において、最低賃金は委員会の推薦に基づいて政令により決定されると定められている。パナマの最低賃金は73の業界と2つの地域ごとに定められており、全部で53種類に分かれている。これに応じて2023年に制定された最低賃金は341-1,015ドル、平均は636ドルとなっている。
米国の人事マネジメント・コンサルティング会社マーサーの調査によると、パナマは失業率8%、インフレ率0.5%だが、近年、全労働者の報酬平均は増加傾向にあり、2024年は3.4%、2025年も3.4%、そして2026年にはさらに3.5%の増加が見込まれている。2024-2025年の収入変動を見ると、企業の役員(前年同期比4%減)を除き、社員の平均収入は1%(部長・課長相当)から32%(管理者)引き上がっている。また、2025年の人員増加計画に関しては、62%の企業は社員人数を変更せず、17%は積極的に採用し、5%は削減する予定と明らかになった。、2026年には21%の企業が新たな社員を採用し、わずか2%が削減を検討していると判明した。
ラテンアメリカの平均収入ランキングでは1,044ドルでコスタリカが1位、892ドルでウルグアイが2位、827ドルでパナマは3位となっている。
A. パナマ大統領公式訪日
ムリノ大統領とパナマ政府関係者が9月2日から7日にかけて、公式訪日を行った。訪日中、ムリノ大統領が日本政府および民間企業関係者とビジネスハブとしてのパナマの魅力、パナマ-日本直行便の可能性、両国の協力について対談した。日本の海運業界企業が特に注目され、パナマ政府側は船舶登記法改正、運河通行料、そしてパイプライン建設計画を説明した。9月4日の朝、ジェトロ本部で開催されたパナマビジネストークでは、ムリノ大統領、フリオ・モルト商工大臣が講演を行い、同日の夜に東京のホテルでは大統領訪日歓迎レセプションが開催され、両国政府関係者、民間企業、在日パナマ人が参加した。5日に、石破総理とムリノ大統領が二国間関係および地域・国際情勢について首脳会談とワーキング・ランチを行った。6日に大阪・関西万博のナショナルデー行事に参加し、大統領の帰国後、アチャ外務大臣は日本で民間企業との対談を継続した。
以 上