『ムーア人による報告』
レイラ・ララミ 木原 善彦訳 白水社
2025年6月 423頁 4,200円+税 ISBN978-4-560-09096-1
コルテスのアステカ征服後、金を求めて現在の米国フロリダ州に送り込まれた300余人のスペインの探検隊はさまよい、病気、物資・食料不足、先住民の襲撃で人員が激減、食べ物を得るためインディオの集落で仕事をさせられている間に、探検隊員の生存者は奴隷として主人と共に参加させられていたムスリムの黒人ムーア人でスペイン人からエステバニコと呼ばれていたムスタファを含め4人にまでなったが、それぞれが部族の女と結婚し、ムスタファはその治療知識から一帯の人たちから信奉者を集めるようになった。しかし、8年後スペインの奴隷狩り小隊と遭遇したことから、スペイン植民体制の世界に戻ったが、それはムスタファにとっては再び奴隷となることを意味した。そこで彼はさらなる新天地の征服を目指す総督の求めに応じ調査隊の先導を務めて妻とともに奥地に入り、エステバニコという奴隷身分から自らを解放する策を講じるまでを語っている。
探検隊は壊滅し生存者が4人にまで減ったこと、その一人がモロッコ出身のアラブ系黒人だったことは権力者側の記録に記載されている史実だが、著者はムスタファを主人公に探検隊の構成員、苦難の彷徨、内輪揉め、先住民部族間の抗争などを創作して、スペイン人の征服の手法、植民地体制の構築をも描いていて実に面白い。著者はモロッコ出身の女流作家で現在はカリフォルニア大学で創作の教鞭をとっている。
〔桜井 敏浩〕