『尼僧少尉カタリーナ・デ・エラウソ -時空を超える冒険者』 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『尼僧少尉カタリーナ・デ・エラウソ -時空を超える冒険者』


『尼僧少尉カタリーナ・デ・エラウソ -時空を超える冒険者』
坂田 幸子編訳 図書出版みぎわ
2025年5月 230頁 2,600円+税 ISBN978-4-911029-17-6

カタリーナ・デ・エラウソはスペイン北部で1592年頃生まれ、当時の良家の子女の慣例により修道院に入ったが、修道女になる誓願を立てる年に修道女との諍いがもとでそこを飛び出し、連れ戻しに来た父を避けてセビーリャに赴き新大陸に向かう艦隊に男装して乗り込み、見習い水夫になって現在のベネズエラ、パナマ、エクアドル、ペルー、チリ、アルゼンチン、ボリビア、コロンビアと各地で兵士(後に戦功で少尉に)、商人などとして移動したが、その過程で殺人等も繰り返し、しばしば官憲に追われ危うく死刑に処せられる寸前に至ることも一度ならずあった。同郷の者にもたびたび助けられたがついに地方長官に追い詰められ、教会に逃げ込んで司教に修道女であったことを告白し許されて、1624年にスペインに帰国、ローマ、ナポリへも訪れたが1630年に再びメキシコに向かい運搬業に従事しベラクルス港とメキシコ市を往復している間にベラクルス州オリサバで病におかされ没したという。
本書はエラウソの波乱万丈の生涯を、本人直筆の手記は発見されていないが他の人が書き写したという自伝の翻訳を中心に、17世紀前半の南米スペイン植民地、スペイン文化、当時のカトリック帝国におけるジェンダーとセクシュアリテイ、男装、エラウソの生涯を描いた演劇、メキシコ・スペイン映画、翻訳・翻案の比較研究の成果を記述した章を加えて、スペイン語圏文学を専門とする編者(慶應義塾大学名誉教授)はじめラテンアメリカ史、スペイン語圏文学の専門家の解説によって一層興味深く紹介している。

〔桜井 敏浩〕