細川 多美子(サンパウロ人文科学研究所 理事)
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新たな局面、新たな役割を持つブラジルの「日系社会」 -細川 多美子(サンパウロ人文科学研究所 理事)
現在私は、メッセージアプリWhatsAppで3つの日系グループに入っている。日系社会での出来事、イベント告知や地域間交流など、情報共有を目的としたグループで、いずれも300~350人ほどが参加している。地域のリーダー的存在か、その関係者で構成され、よく知った名前もあるが、ほとんどの人を私は知らない。日系二世、三世を中心に、非日系も混ざっている。ここではサンパウロ州の住人が多いようだが、北はアマゾンから南の寒冷地域までの情報をカバーして、毎日いくつものイベント案内が回ってくる。
運動会、七夕、盆踊り、春祭り、移民祭り、日本祭りといった、日系団体(ブラジル各地にある文化協会系、県人会系、介護や養護の慈善団体系、宗教系等の団体)が主催するイベントや、日系人の講演会のお知らせ、日系人の活躍、関係者の訃報、人探しなどが主な内容だ。この3つのグループはそれぞれ守備範囲や参加者の年齢層が若干違っているので、内容がダブることはあまりない。
それらの情報がまとめられているのがニッケイウェブ(https://nikkeyweb.org.br/)で、すべてが網羅されているわけではないものの、毎週末どこかで大きな日系イベントが開催されていることがわかる。試しに9月下旬のイベント情報をAIではじき出してみたら、サンパウロ市近郊だけで5か所(アチバイア、サンカエタノドスール、ピラシカーバ、カンピーナス、サンパウロ)が上がってきて、調べてみると実際に行われている。私も先週は、いちご祭りに行くか盆踊りに行くか迷ったくらいだ。
このような情報の中に、興味深い現象が含まれている。
日系社会実態調査で浮き彫りになったこと
サンパウロ人文科学研究所(以下、人文研)では、2018年時点の「日系社会実態調査」で、ブラジル全国に430程度存在している日系団体(文化協会系)の運営状況の良し悪しを、5段階に分けた。「苦境、下降線、今後が読めない(19%)」と「実質ほぼ閉鎖状態(5%)」の合わせて24%が、今後の見通しが暗いと見られた。
日系人の日系的アイデンティティの喪失、日本への無関心、日本語能力の低下など、半世紀も前から言われてきた「日系社会と日系人は消えていく運命」説は、新型コロナ禍で一気に加速すると見た人たちも多かった。
そして2023年、人文研は外務省の委託調査として、新型コロナ禍後の団体の活動復活状況を追跡した。ここでは約350の団体から回答を得ることができた。
一時的にすべての活動が制限されたブラジルだが、調査からは、2024年時点で90%以上の団体が活動を再開していたことがわかった。残り約10%は、閉鎖または活動停止中、一部合併等となっており、理由を聞くと、実態としては2018年時点ですでに活動が停止していたものをこの機に閉鎖処理を進めたものが大半だった。
今から見れば、実は身動きのできなかったあの制限が、日系社会に刺激を与えていたと思われる。あのときには苦肉の策だったとはいえ、それまで利用していなかったオンラインを取り入れたこと、また、活動制限の緩和とともに、デリバリーやドライブスルーなどの販売方式を採用し、日本食や食料の販売