アルベルト 松本(イデア・ネットワーク 代表)
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日系人のネットワーク強化と日本との連携 -アルベルト松本(イデア・ネットワーク 代表)
日系人と日本
2015年前後から日本政府は海外の日系人を単なる支援や交流の対象ではなく、さまざまな事業の連携先として位置づけるようになり、総理大臣や閣僚がラテンアメリカ諸国を訪問する際には既存の日本人会や日系団体の幹部だけではなく、若手リーダーや元留学生・研修生のOB会、または日系団体に所属していなくとも社会で活躍している日系人と懇談するようになった。転換期は当時の安倍晋三総理が、2014年8月ブラジルのサンパウロで中南米政策に対するスピーチで、「プログレジール・ジュントス(progredir juntos・発展を共に)、リデラール・ジュントス(liderar juntos・主導力を共に)、そして、インスピラール・ジュントス(inspirar juntos・啓発を共に)」を掲げ、「三つの指導理念」を強調したことからはじまる1。この中南米戦略には、当時の山田彰・外務省中南米局長が多くの日系人からも様々な意見を徴収し、「有識者懇談会」で新たな日系社会との連携方針を外務副大臣に提出したことで成立した2。その結果、各国のニーズや日系社会と関わりのある非日系人の国際協力機構(JICA)研修生も2018年から来日が実現し、日系人にとって今やとてもよい刺激になっているだけではなく、社会への貢献やビジネス開拓には幅広いネットワークの必要性を認識するようになった。日本留学や独学で高い日本語力を身につけている非日系人は増えており、日本語を教えたり、自ら日本文化事業を企画したり、祭りのための浴衣の制作や和食の食材製造にも従事している起業家もおり、柔軟な発想で日系社会に新しい風を吹き込んでいる。
この方針以降、日系人も日本との交流や連携の重要性をそれまで以上に認識するようになり、自分たちがどのような役割を果たせばもっと日本との関係強化に貢献できるかを模索するようになった。しかし、多くの国の日系社会では、世代交代や若者の日系団体離れが進んでおり、不透明な運営に対する不信感や中核団体の求心力低下という現象は深刻である。そこに追い打ちをかけたのが外出制限や集会禁止措置を定めたコロナ禍であり、多くの団体は収益性の高いビックイベントができなくなり、財政的に厳しい状況に追い込まれた。パンデミック前に実施された日本財団や日本政府(外務省)の日系団体実態調査でも、日系社会内での連携や協力体制の不十分さ、会費や寄付収入の減少とスポンサーとして参加する地元企業等の減少によって、多くの団体は財政的に持続できないと指摘されている。
とはいえ、デジタルツールを駆使している世代にとってここ数年は大きなチャンスになり、単なるオンライン会議だけではなくzoomやそれに類似したツールを活用してフォーラムや講演会を企画し、インターネットやSNSの広報によって地域や国境を超えて誰もが参加できるようにし、パネルにもテーマによっては複数国の日本国大使やJICA所長も出演したことで、若い世代にとっては日本がかなり身近になったのも事実である。アナログの世界ではあまり会えない人たちがパソコンやスマートフォンの画面に登場し、フランクに意見を述べている姿は大きな親近感を与えたのである。それ以来、祭りや盆踊り、フェスティバルというイベントにはさまざまな工夫が施され、出店を拡大しながら多様なメニューを導入し、企画の段階からプロ集団のアドバイス等にも耳を傾けて質の向上を実現するようになった。日本のサブカルチャーである漫画、アニメ、J-POP、和食、和菓子、コスプレ、そして伝統的な茶道、生け花、墨絵等をもっとフレンドリーかつ分かりやすい「表現」にしたのである。踊りや歌にもデジタル的な仕組みやドローン動画の編集で若者好みのリズムを導入して、誰にとっても楽しいひと時を過ごせるというメッセージを強化し、日本文化を体験しながら、食べて、踊って、買い物しながらエンジョイさせ、また次のイベントにも新たな仲間と参加したくなるように工夫する団体も増えたのである。
さまざまなイベントに多くの日系人と非日系人が参加することで、それが日本への親近感や関心を高め、研修、留学、旅行、ワーキングホリデー、ビジネスチャンスにつながっている。JICAの日系研修員事業も、これには大いに役立っていると日系人たちは評価している。しか