【季刊誌サンプル】在日ブラジル人の現在地と将来像 −数字に着目して アンジェロ・イシ(武蔵大学 教授) | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

【季刊誌サンプル】在日ブラジル人の現在地と将来像 −数字に着目して アンジェロ・イシ(武蔵大学 教授)


【季刊誌サンプル】在日ブラジル人の現在地と将来像 −数字に着目して

アンジェロ・イシ(武蔵大学 教授)

本記事は、『ラテンアメリカ時報』2025年秋号(No.1452)に掲載されている、特集記事のサンプルとなります。全容は当協会の会員となって頂くか、ご興味のある季刊誌を別途ご購入(1,250円+送料)頂くことで、ご高覧頂けます。

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在日ブラジル人の現在地と将来像 -数字に着目して -アンジェロ・イシ(武蔵大学 教授)

本誌の編集部より、「日本国内の日系人・日系社会の動向と課題」に関する原稿依頼をいただいたが、どの「動向」に注目し、どの「課題」が最優先されるべきか、選定基準は書き手によって大きく異なるだろう。しかし、せっかくの機会なので、あまり誤解を恐れず、そして網羅的な現状分析にこだわることもなく、私の視点や懸念点を読者と共有したい。なお、在日日系人といえば、ブラジル以外にもペルーなど、他の南米諸国からの人々などが在住しているが、圧倒的多数がブラジル出身であるという事実は、以前も今も変わりはない。具体的な数字でいえば、入管庁が公表する在留外国人数の統計でトップ10に入るのはブラジル人だけで、その人数は2024年末現在で21万1907人なのに対し、次に多いペルー人はわずか4万9247人にとどまり、国籍別のランキングでは全体の14位である(ボリビアなど他の国からの来日者数はさらに一桁少ない)。ブラジル出身者と他の南米出身者とでは、いろいろ異なる点もあると思われるが、とりわけ就労形態や日本の労働市場での位置付けにおいては共通点が多いのは周知のとおりである。本稿ではあくまでも私が精通しているブラジル人の例を中心に論じる。
私はサンパウロ生まれの日系3世であり、自称「在日ブラジル人1世」である。来日したのは出入国管理および難民認定法が改定される2か月前の1990年4月だが、これは偶然ではない。当時はすでに、日本国内でもブラジル国内でも、dekassegui(後にdecasséguiという表記で定着)が大きな話題になっていた。私はサンパウロ大学のジャーナリズム学科を卒業して、大手出版社に勤務していたが、文部科学省(当時は文部省)の国費留学制度を利用して日本の大学院を目指した。研究テーマはデカセギ移民の就労や生活の実態把握、アイデンティティや帰属意識をめぐる変容、メディア生産や文化活動等の考察であった。「日系人」の日本へのデカセギ移民の歩みを「最初」から見守り続けている研究者は、おそらく私が最も古いだろう。

相対的な存在感の低下
日本に住むブラジル人が約20万人であることは前述のとおりだが、この数字の意味はここ数年で大きく変化した。これが在日ブラジル人の現在地を論じる上で踏まえるべき最も重要な点の一つかもしれない。
ここ数年の統計を見れば、ブラジル人の人数はほぼ横ばいで推移している。たとえば2023年末から2024年末にかけては、67人の増加が見られた(ちなみにペルー人は133人増で同じく横ばい)。しかし、わずか数年の間に、ブラジル人の国籍別ランキングでの順位は劇的に下がった。図1のとおり、ブラジル人は、1990年代、2000年代、そして2010年代を通して、30年にわたって中国人と韓国人に次いで不動のトップ3の座を守っていた。しかし、2020年代には、まずはフィリピン人、そしてベトナム人の急増で5位に下がり、昨年(2024年)にはついにネパール人に抜かれて6位になった。ネパール人の増加ぶりは驚異的で、たった1年で5万6707人も増えた(つまり増えた人数だけでも、例えばペルー人の全体数を余裕で上回ったという計算だ)。
さらに数字を細かく見て行けば、7位のインドネシア人も8位のミャンマー人も、1年で約5万人増という激増ぶりである。このペースでは、ブラジル人が8位に転落するのは時間の問題である。
在留外国人数ランキングで3位から8位に転落することは、それ自体、直ちに個々人やコミュニティ全体に何らかの打撃を与えるわけではない、という楽観的な見方もあるだろう。しかし、中長期的に見れば、マスメディアは急増中の他の「外国人労働者」の話題に飛びつき、行政の様々な統計や指針作りでは上位から外れたブラジル人は不可視になる可能性がある。絶対数ではほぼ変化せずとも、相対的にはブラジル人の日本社会における「プレゼンス=存在感」は低下した。ゆえに、ブラジル人のことが話題