連載パナマ・レポート66:ルベン・ロドリゲス 2025年10月分 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載パナマ・レポート66:ルベン・ロドリゲス 2025年10月分


連載パナマ・レポート 66: ルベン・ロドリゲス 2025年10月分

執筆者:Ruben Rodriguez Samudio(早稲田大学講師・パナマ共和国弁護士)

I. 政治

A. 司法試験の緩和
 10月22日に、国会は弁護士資格取得の必須条件としての司法試験に関する法律を改正する法律第168号を強制的に可決した。9月中旬に、弁護士であるセデニオ議員が提出したパナマ司法試験制度を改正する法案が国会で採択されたが、長年にわたって弁護士として勤めたムリノ大統領は、弁護士の質を確保できなくなり、むしろ悪影響となる懸念があるという理由で法案全体の署名を拒否した。パナマ憲法では、大統領が法案の署名を拒否した際、国会に差し戻され、再び議論を行った上で議員の2/3以上で改めて可決した場合、最高裁判所で違憲性についての裁判が行われ、合憲と判断された場合、大統領が署名しなければならないとされている。合憲性の判断が下された後、大統領が続けて署名を拒否する場合、院長の署名で発布される。
 新たな制度の元では、法学部を卒業した者は司法試験、論文、または実習のいずれかを選択して、弁護士の資格を取得することができる。さらに、司法試験の管理権限は最高裁判所からパナマ大学に移転することが決定された。パナマ弁護士連合会会長は、パナマは質の高い弁護士の必要性が増えているにもかかわらず、司法試験の改正は制度の劣化につながるとして批判した。

B. パナマ市のモノレール
 10月3日、パナマメトロ局が、2億7,800万ドルを基準価格として、パナマ県のパナマ区とサン・ミゲリト区を繋げるモノレール建設の調達を行うことを発表した。サン・ミゲリト区は住宅街が多く、最も人口が多い区である。4月にパナマ企業と海外企業で構成される二つのコンソーシアムには調達参加資格が認められ、11月17日までにメトロ局に対して提案を行わなければならない。日本政府のローンで建設されているパナマ首都圏交通第3線、および計画段階のパナマ横断列車のような交通手段の建設が注目されている。

C. 国民の信頼
10月上旬にLa Estrella新聞が公開した9月の世論調査によると、回答者の8%が月収で必要な費用を賄えるのに対して、36%は月収のみでは不足していることがわかった。しかし、回答者にとってパナマの最も重要な問題の順位は①汚職(31.1%)、②失業(24.7%)、③物価(21.5%)、④貧困(5.5%)、⑤治安(4.7%)とされ、経済的な状況(物価と貧困)より政府の汚職が着目されている。かねてからパナマ人は汚職に関心を持っており、特に、出勤せず給与を受け取る公務員(Botella「瓶」)の任命による政府の人件費激増、返済義務なしの教育支援のような無駄歳出スキャンダルがすべての政権で問題となっている。この問題に加えて、会計検査院が8月に公開した報告書では、地方自治体、運河局を除き、1月から8月の間の政府の人件費は34億ドル(前年同期比2,114万1,000ドル増)、平均月4,000万ドル更に上がる傾向を示している。

回答者がパナマで最も信頼できる組織・団体は、①カトリック教(14%)と②福音主義教会(8%)、③パナマ運河局(6.8%)、④大学機関(5.9%)、⑤消防団(4.9%)、⑥マスメディア(4.1%)、⑦市民保護局(3.7%)、⑧選挙裁判所(3.7%)となっている。国立機関のみに限ると多くの回答者(30%)は「回答なし」と答え、実際の回答の順位は、①メトロ局(3.6%)、②警察(3%)、③検察庁(2.5%)、④会計検査院(2.4%)、⑤消費者保護局(2.3%)、⑥最高裁判所(2.1%)、⑦社会保険庁(1.7%)となっており、国立機関はほとんど信頼されていないことがわかった。

II. 経済

A. パナマのクレジット市場
 パナマの信用調査会社は、9月時点でクレジットカード、自宅ローン、その他のローンを含めてパナマのクレジット市場の債権額は420億ドルで、延滞率は6.5%(前年同期は7.4%)と発表した。銀行による住宅ローンの総合貸出額は212億ドル、延滞率は4.7%、平均ローン額は6万3,000ドルであり、銀行のフリーローンの総合貸出額は84億ドル、延滞率は4%、銀行のマイカーローンの貸出額は21億ドル、延滞率は2.1%となっている。これに対して、協同組合のフリーローンの総合貸出額は21億ドル、延滞率は15.6%となっている。また、2024年6月から2025年6月の1年間、銀行のローンは15.6%、協同組合のローンは2%増加した。