連載パナマ・レポート67:ルベン・ロドリゲス 2025年11月分 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載パナマ・レポート67:ルベン・ロドリゲス 2025年11月分


連載パナマ・レポート 67: ルベン・ロドリゲス 2025年11月分

執筆者:Ruben Rodriguez Samudio(早稲田大学講師・パナマ共和国弁護士)

I. 政治

A. カリゾ前副大統領財産の差し押さえ

  11月上旬、パナマ会計検査院は不正蓄財罪の調査において、130万ドルに値するカリゾ前副大統領の銀行口座、自動車、不動産、その他の財産の差押えを命令した。検察庁も2024年9月から様々な調査を行っているが、ゴメズ検事長は、現時点では不正蓄財罪の調査は行政法の問題であると説明した。パナマ法の下では、検査院の調査報告次第で、刑事責任を問われる可能性もある。

カリゾ氏は、前副大統領として中央アメリカ議会議員になる資格を持っており、2024年10月に申請したが、同機関のパナマ議員は就任に反対している。中央アメリカ議会は今年11月下旬にカリゾ氏とコルティソ前大統領の就任に関して議論を行う予定と発表した。議会の議員として就任できれば、カリゾ氏に様々な特権が認められ、会計検査院および検察庁の調査は停止となる。

B. 1セント硬貨の製造終了

 11月12日、アメリカ政府が1セント硬貨の製造終了を決定したため、パナマ政府も同額の硬貨の製造を終了すると発表した。1904年の法律により、パナマの通貨であるバルボアは米国のドルと同額に固定されている。以上をもって、パナマ国立銀行は、現金取引における端数調整を可能にする法律に関する提案を経済財務省に送付すると発表した。執筆時点では、提案では、支払い総額の端数が1-2セントで終わる場合には0へ丸め(=切り捨て)、3-7セントで終わる場合には5セントに丸め、8-9セントで終わる場合には10セントへ切り上げとすると規定している。

パナマ国家銀行のエスキベル総裁は、現在約400万相当の1セント硬貨が有効であるため取引に利用できるが、段階的な廃止を目指していると説明し、製造終了によるデジタル支払い方法の促進効果も期待されると述べている。

II. 経済

A. パナマ運河拡張の仲裁

 10月30日、パナマ運河拡張費用に関する仲裁判決が下された。仲裁廷は、仲裁手続きを開始したスペイン企業のSacyrのすべての主張を否定して、裁判費用としてパナマ政府に650万ドルの支払いを命じた。 

Sacyrの他、イタリア、ベルギー、パナマ企業から構成される建設共同事業体GUPCは、2009年に32億ドルの提案で国際調達手続きの落札を確保できた。しかし、その後、GUPCとパナマ運河局の間で契約内容および建設費用について複数の争いが生じた。建設費用の超過を理由としてGUPCが運河局に対して追加の16億ドルの支払いを求めたが、運河局は、契約においては請求の根拠がないため支払いを拒否した。

 パナマ企業であるCUSA を除き、GUPCは、パナマ運河拡張の建設は2016年の完了時点で、拡張費用が30億ドル以上超過しているため、パナマに対して損害賠償支払いを目的とする5つの仲裁手続きを提起した。これらの仲裁は、国際機関の下で行われた後、すべてが運河局の主張を認めている。

2017年に建設期間延長と追加の1億9,400万ドルを求めた仲裁では、仲裁法廷がGUPCの請求を拒否した上、裁判費用として2,200万ドルの支払いを命令した。また、2018年に下された仲裁判決では、パナマ運河局が前払いした2億6,000万ドルの返還請求が認められた。拡張に利用された建築材料のクオリティーは契約に定められた基準を満たさないとして損害賠賞を求めた事件では、仲裁廷は2020年にGUPCに対して2億6,500万ドルの損害賠償支払いを判示した。この仲裁判決に対して、GUPCはアメリカ法廷で判決の無効を求めたが、2023年に最高裁判所が事件の受理を拒否したため、仲裁廷の決定が確定した。そして、2023年の水門および労働費用に関する仲裁の判決では、GUPCは運河局に対して6億7,100万ドルの賠償を請求した。法廷はその主張を拒否した上、裁判費用としてGUPCに2,000万ドルの支払いを命じた。ただし、建設延長請求についてGUPCが3,400万ドルの損害を被った可能性は否定できず、手続きは継続している。

10月31日に下された判決では、スペインのSacyrは、運河局の支払い拒否はパナマとスペインの二国間投資協定の侵害に該当すると主張し、運河局ではなく、パナマ政府に対して損害賠償を求めたが、仲裁廷はSacyrと運河局の争いは契約履行の問題であり、協定とは関係がないと判示した。

B. チキータ・ブランドの復帰

今年5月に行われた社会保険庁改正に対するデモの影響によりストライキした労働者を解雇し、コスタリカに移動した、米国のバナナプランテーション運営会社チキータ・ブランドは、11月11日からボカス・デル・トーロ県で労働者募集を開始すると発表した。

8月下旬、ムリノ大統領のブラジル公式訪問中、大統領とチキータが基本合意書に署名し、パナマへの復帰を合意した。運営の再開により、2026年までに5,000件の新規雇用が創出される見込みとされている。

以    上