連載エッセイ557:渡邉尚人「トランプ米政権の一年と環境政策」 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ557:渡邉尚人「トランプ米政権の一年と環境政策」


連載エッセイ 557

トランプ米政権の一年と環境政策

執筆者:渡邉尚人(マイアミ在住、地球環境情報フォーラム顧問 元在バルセロナ総領事)

1.トランプ政権の一年

(1)トランプ政権の一年目は、米国の衰退を憂い、失われた偉大さを取り戻すという「アメリカを再び偉大に(MAGA: Make America Great Again)」やアメリカの国益を最優先する「アメリカ・ファースト」の旗印を掲げ、毎日多数発出する大統領令により移民、経済、司法、外交、軍事、環境、医療、教育等の多方面での大胆な改革を強力に推し進めてきた年でした。

(2)毀誉褒貶のある大統領の傲慢ともいえる歯に衣を着せぬ発言、スキャンダラスな報道、野党やプレス、司法の反発、一時的な株価の乱高下や物価高等により、大統領の支持率は43%、不支持率は55%(昨年12月、レアル・クリア・ポーリング)ですが、大統領は、ものともせずにがむしゃらに目標達成に突き進んできたと言えます。

(3)当地報道
当地の報道は、フォックス・ニュースやCNN等右も左も毎日トランプの動静報道一色で、視聴者は、エプスタイン関連報道等ともすればスキャンダル中心のカオス的な批判的報道に流され見落としがちなのですが、実はトランプの強引な構造改革は着実に進んでおり、ある程度の目に見える結果を出しているのも事実なのです。

(4)企業家大統領
トランプ政権の政策には、大富豪、企業家としての大統領の強烈な個性と信念、自負心、負けず嫌いの気質が色濃く反映されています。実利主義で金銭的成功を重視し、長期よりも短期的な利益を優先、対外関係も多国間より二国間ディールによる解決を望み、決して損をする様なことはしないということです。並みの政治家ではなく、むしろ損得勘定に長けた良い意味での口八丁手八丁の商売人と言えます。

(5)戦争不介入
(ア)例えば、米国の歴代政権が民主主義、自由主義、人権擁護の名のもとにイラクやアフガニスタン等との戦争に長期に軍事介入し、巨額の軍事費、多数の米軍人死傷者、現地の民間人も含む膨大な人的犠牲と物的損害を払わされ、結局は解決に至らず、紛争国からの大量難民を引き受けざるを得なかったことを失策として強く非難し、米国に利益をもたらす様なアメリカ・ファーストの安全保障政策を進めています。
(イ)ウクライナ戦争に関しても、米国の歴代民主党政権がウクライナのNATO加盟をCIA等も使って拙速に画策し、ロシアを侵攻に追い詰めたと非難し、米国の直接軍事介入には反対、欧州諸国が中心となり対処すべきこと、これまでの米国のNATOへの無償武器供与を有償とし、NATO加盟国の防衛費目標をGDP2%から5%に増加させること等に成功しています。また、毎日多くの若者の血が流れているとして停戦に向けた仲介努力を根気よく続けています。
(ウ)更にハマスとイスラエルのガザ停戦、インド・パキスタン紛争、コンゴ・ルワンダ紛争、タイ・カンボジア紛争等の停戦仲介、イランの核施設空爆による核兵器開発阻止等短期的な成果も上げています。
(エ)トランプの戦争不介入は、ある意味米国の伝統的な対外政策である中立主義、孤立主義への回帰とも言えます。

(6)通商政策
(ア)通商関係においては、米国の歴代政権がグローバリズムと自由貿易の名の下、中国等との貿易に偏り過ぎ、国内産業が空洞化し、米国中西部のラストベルトの白人労働者階級の凋落を招いたことを強く非難しつつ、高関税を武器に通商交渉を有利に進め、貿易赤字解消、国内産業保護、製造業の回帰、メイド・オブ・アメリカ復活等につなげることを狙っています。
(イ)貿易相手国に対し、初めに高関税をふっかけ揺さぶり、関税引き下げをちらつかせながら譲渡を引き出し、最後は有利な取引につなげるトランプ流の交渉術です。フェンタニル等麻薬流入阻止、不法移民や麻薬マフィア流入阻止、地域紛争解決等にも二国間交渉で高関税政策を活用しています。
(ウ)高関税政策は、グローバリズムや自由貿易原則に逆行し、貿易戦争を惹起するとんでもないものとしてプレス等では非難轟轟ですが、大恐慌時代等米国の歴史の中では、しばしば用いられてきた米国のある意味伝統的な対外政策でもあり、今後の関税収入による経済の浮揚効果は注目されます。

(7)その他の改革
更に、長期間の政府機関閉鎖を招いた医療保険改革、「大きな美しい法案」によるトランプ減税恒久化・チップ非課税等の大型税制・歳出改革、軍に大統領への忠誠を求め国防総省を戦争省に改称、軍や治安機関の再編・人事改革、軍備力強化、教育省の縮小と州への権限移譲等の教育改革、ジェンダー・LGBTQの過激なイデオロギー撤廃等を推し進めてきました。

(8)移民政策
(ア)トランプ大統領は就任早々、国境の塀建設、入国規制強化、違法入国者の把握・拘束・追放、出生時市民権獲得廃止等の大統領令を発出し、不法移民の取り締まり強化と大量強制送還を開始しました。
米移民関税執行局(ICE)職員に逮捕され強制送還される不法移民が後ろ手に手錠をかけられエルサルバドルのテロ監禁センター(CECOT)に連行される映像は、繰り返し報道され大きなインパクトを与えました。
(イ)一方で、合法移民の誤認逮捕・強制送還、家族離別、強制送還の予算問題、労働力不足(農業分野の働き手、スーパーのレジ係やレストランのボーイ数が目に見えて減少)等多くの問題を惹起し、ロスやニューヨーク、シカゴ等での大規模な反対運動と多くの訴訟を引き起こしています。
(ウ)米国には不法移民が約1580万人いますが、国土安全保障省は、40万人を強制送還、自主出国160万人で2百万人の不法移民が国外流出したとしています。また、ワシントンDCの州兵2名の銃撃犯がアフガン国籍だったことを受け、第三世界19ケ国からの移民申請の一時停止を発表しています。不法移民問題への厳しい対応は今後更に強化されてゆくものと思います。
(エ)在米の合法移民は、バイデン政権時代に不法移民が医療費無料等で合法移民よりも優遇されていたと感じているものが多く、トランプの不法移民対策を雇用、治安改善の面で概ね評価しています。しかしながら誤認逮捕や在留資格厳格化等で今後自分たちのステイタスが脅かされるのではないかと心配する声が多く聞かれます。

(9)ベネズエラ
(ア)トランプ大統領は、麻薬対策の名のもと、マドゥロ大統領を首謀者とする麻薬カルテル(カルテル・デ・ロス・ソレス)を国際テロ組織に指定し、経済制裁、ベネズエラ空域封鎖、麻薬運搬船への攻撃(28回、30隻、104人殺害)、制裁対象の石油タンカー拿捕、空母打撃群のカリブ海展開による軍事的威嚇等でマドゥロ政権に圧力をかけています。
(イ)右は、マドゥロ大統領の退陣、ノーベル平和賞受賞者のマリア・コリナ・マチャドの親米政権樹立、地政学的安全保障の観点から中国、ロシア、イラン等の西半球からの影響力排除、ベネズエラの石油権益確保、キューバ弱体化等を睨んだものと思われます。
(ウ)ベネズエラは豊富な石油資源により、かつては中南米一の繁栄を誇った民主国でしたが、チャベス、マドゥロ大統領の社会主義独裁と資源ナショナリズム、汚職、バラマキ、経済破綻によるハイパーインフレ、食料医療品不足、極度の貧困、麻薬ビジネス、治安悪化等で約8百万人のベネズエラ人が大量流出し、今や破綻国家寸前の状況です。米国には80万人のベネズエラ人が在住しています。
(エ)しかし、マドゥロ大統領は、司法と選挙管理委員会、治安機関を掌握し、軍部の支持を得て反体制派を締め付けているため、政権交代は、マチャド等の国内抵抗勢力の力のみでは極めて困難な状況です。このため在米ベネズエラ・コミュニティーは、一様にマドゥロ大統領退陣にむけたトランプの軍事的圧力行使を歓迎しているのです。
(オ)トランプ大統領には、対キューバ・ベネズエラ強硬派のキューバ系アメリカ人マルコ・ルビオ国務長官がついていることもあり、これまで米国の歴代政権が軽視してきた西半球の戦略的価値を見直し、地政学的安全保障や食糧エネルギー需給の観点から西半球への関与を強化してゆくものと思われます。
ルビオ国務長官は、昨年2月、米国務長官の就任後最初の訪問先としては極めて異例な、実に113年ぶりの中米・カリブ5ケ国(パナマ、エルサルバドル、コスタリカ、グアテマラ、ドミニカ共和国)訪問を行い、9月にはメキシコ、エクアドルを訪問。移民、麻薬対策の強化、貿易不均衡是正、関税問題、メキシコ湾のアメリカ湾への名称変更、パナマ運河返還要求等を行っています。

(10)トランプ大統領の今後
(ア)トランプ大統領は、2度の暗殺未遂を天佑もあってか奇跡的に乗り越えたことでアメリカを偉大にすることに神がかった使命を抱くに至っており、79歳ながらも気力、体力、知力の続く限りこれからもMAGA実現のための構造改革に突き進むものと思われます。そして善かれ悪しかれ目に見える結果を出しつつあることも事実です。
(イ)トランプ大統領は、毀誉褒貶があり公私混同的なところはありますが、“憎まれっ子世に憚る”の如く、本年の中間選挙更に2028年の次期大統領選挙までは、トランプ旋風は収まりそうになく、その成否は、やはり歴史の判断に委ねざるを得ないところがあります。

2.トランプ政権の環境政策

(1)トランプ大統領は、就任日に署名した大統領令により、国際環境合意分野でのアメリカ・ファーストを打ち出し、気候変動枠組み条約パリ協定からの離脱を宣言、枠組み条約の融資コミットや気候融資計画等を撤回、また気候危機や気候変動に関するバイデン前政権の規則を撤廃しました。更に国家エネルギー緊急事態宣言、アラスカの天然資源利用許可拡大、石炭火力発電に関する大気汚染防止規定の2年実施延期、EV義務化撤廃等の大統領令等に署名しました。また、紙ストローの使用削減やプラステイック・ストローの規制廃止の大統領令も出しています。

(2)環境政策の今後
トランプ政権の環境政策の今後は、米国の基幹産業であるエネルギー産業の保護や経済安全保障等の国益を優先するエネルギー・ドミナンスの旗の下、化石燃料の生産・輸出拡大、環境規制緩和、再生エネルギー見直し等が強力に推進されることとなります。
特に気候変動危機の否定論者で化石燃料推進者のクリス・ライト・エネルギー長官や気候変動の影響を否定し米自動車産業の保護再興を掲げるリー・ゼルディン環境保護長官により、気候変動、脱炭素化に逆行する具体的な環境措置が確実に取られてゆくこととなります。

(3)極端な環境主義への警鐘
(ア)これはこれまでの気候変動、地球温暖化への世界の取り組みに明からさまに逆行するものの、これまで世界で主流となってきた極端な環境主義に警鐘を鳴らし、全面的に見直すきっかけにもなるものです。
(イ)昨年10月CO2排出削減提唱者のビル・ゲイツは、気候変動は人類滅亡につながらず、排出量や気温変化より更に重視すべき指標である生活向上や貧困疾病削減を優先すべしと述べています。
(ウ)プレスは、グテーレス国連事務総長の「地球は沸騰している」との発言をしばしば引用して人為的要因による気候変動の危機を煽り続けています。しかし、自然変動を考慮に入れず、人為的CO2増加が気候変動の全ての原因であるとして、2050年までの1.5℃の気温上昇が地球の命運を分かつとするのは、複雑な地球や宇宙の力をあまりに単純化し矮小化した人類の独りよがりの様に思えてなりません。
これらの地球環境の絶望的報道に右往左往するのではなく、自分で考え、問いかけ、科学技術のみではないホリステイックで柔軟な発想で気候変動をとらえ、自然との折り合いをつけつつ、自然環境を保護改善してゆくことが、個人や社会にとってより重要なことです。
(エ)地球温暖化はゆっくりと進み待ったなしの気候危機ではないこと、気候変動が人為的なCO2増加が全ての原因ではなく、自然変動が主な原因であること、気候変動問題は、富裕先進国の責任であるとの先進国の加害者意識、途上国の被害者意識、世代間の責任のなすりつけ等倫理問題として扱うべきものではなく、全ての国々、全ての世代が老いも若きもそれぞれの利点、長所を持ち寄りながら協力して対応すべき問題であること等が今一度問いかけられているのです。

3.フロリダ州マイアミ

(1)フロリダ州
(ア)トランプ大統領のお膝元であるフロリダ州では、既にデサンティス・フロリダ州知事が、バイデン前大統領が推進し日本でももてはやされたESG投資(企業投資において非財務情報である環境・社会・ガバナンスの要素を考慮する投資)を禁止する法案に署名し成立しています。これは州・地方レベルの投資決定におけるESG使用禁止、財務要因のみの考慮の保証、債券発行の際のESG要素使用禁止等です。更に州法から気候変動の文言を削除する法案が成立しています。また、人工的に気候や気象状況に変更を与える事を禁止する法令にも署名しています。
(イ)反ESGの動きが加速化しており、米証券取引委員会の気候関連リスク開示規則は撤回され、格付け会社グローバル・レーティングは、ESG点数評価公表を取り止めています。投資家は、今や政治的圧力と市場の現実とのバランスを取りつつ対応する必要があるのです。
(2)マイアミ・デイド郡アネイシャ廃棄物処理部長の話
(ア)マイアミは、明るい太陽、美しい海とビーチのある国際色豊かな世界的リゾート地で環境先進都市でもあります。毎年ハリケーンが襲来するにも拘わらず、熱帯植物の街路樹や白い浜辺は落ち葉もなく常に奇麗で街にはポイ捨てゴミも見られません。
(イ)その秘密を知りたいと思い、マイアミ・デード郡のアネイシャ廃棄物処理部長に話を聞きました。
①廃棄物処理部は、アールデコ風の奇麗な建物の5階で、広々としたフロアはゴミ
一つなく驚くほど奇麗に整理整頓されていました。やはり自らの仕事場を奇麗にできなければ他の場所は綺麗にできないのだと感心しました。
②マイアミ・デイド郡は10市34万世帯の廃棄物処理を行っており、400台のアーム
付きゴミ収集車、167台の大型収集車で毎日清掃しており、住宅地では、週二回設置された指定の青と緑のゴミ箱を人力ではなく機械アームで収集している由です。公共の場所にもデザイン性豊かなゴミ箱が設置されています。
③収集されたゴミは土地が広いため焼却ではなくマイアミ・デード郡内の2か所に
埋め立てている由です。異臭等の問題は特に無い由。将来的には、焼却炉やコンポスト等を有する持続的固定廃棄物キャンパスを建設予定とのことです。
④定期的に市民とのタウン・ホーム・ミーテイングでゴミ処理についての意見を聞き、
小学校を廃棄物処理部の係官が訪問し、ゴミ・リサイクルの重要性を次世代の若者達に啓蒙しているそうです。標語は、リデュース、リユーズ、リサイクルとのこと。
⑤(トランプ政権の環境政策の影響につき質したところ)資源保護回復法(RCRA)や
大気汚染防止法(Clean Air Act)等法制面での見直しは行われつつあるが、予算面や人事面での影響は今のところ無い由。また郡としてもロビー活動は行っている由。

4.最後に

(1)フロリダ州マイアミのビジネス界は現在マイアミ・ファーストで盛り上がっています。
トランプ大統領のお膝元であり、今年はサッカー・ワールドカップやG20等の大型イベントがマイアミでも開催されるのです。
(2)また中南米のゲートウエーとして米国と中南米カリブ地域の貿易総額の3分の1がマイアミを通じて行われ、更に農業や観光のみでなく、製造業、宇宙産業、ライフサイエンス、金融、貿易・ロジステイック、IT等スタートアップも含めた様々なビジネスが隆盛し、大量の資金が回っているのを肌で感じます。 
(3)アメリカの経済力の底力には大変なものがあり、毀誉褒貶はあるもトランプ大統領率いる米国は引き続き世界経済を牽引してゆくものと思われます。(了)