連載エッセイ560:設楽知靖「世界秩序の崩壊が叫ばれ、グローバル世界・グローバルサウスの流れの中で『ラテン アメリカはどの方向へ行くのか』:世界情勢を読む」 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ560:設楽知靖「世界秩序の崩壊が叫ばれ、グローバル世界・グローバルサウスの流れの中で『ラテン アメリカはどの方向へ行くのか』:世界情勢を読む」


連載エッセイ560

世界情勢を読む
世界秩序の崩壊が叫ばれ、グローバル世界・グローバルサウスの流れの中で、ラテンアメリカはどの方向へ行くのか

執筆者:設楽知靖(元千代田化工建設・元ユニコインターナショナル)

はじめに:

私が出張してはじめて早稲田大学の故西川潤先生にお会いした時、先生はメキシコの大学院大学で教えておられた。

メキシコは米国との戦いで敗北し、北のリオグランデ川以北、すなわち国土の半分を失っていて米国に対しては一般の人々も含めて米国人を『グリンゴ』と称して反米感情を表していた。後の著者で先生はこの時のことを従属論に接したときにメキシコ人は『自分たちが不幸なのは北方の大国のせいである』という言説が支配的であったと述べられている。

また、欧米の『君たちが不幸なのは我々の市場に入っていないからだ』ともっと門戸を開いて我々に従い幸福になり給え』の言い分の裏返しだったとも述べられた。

さらにインドやタイなどの知恵では『自分たちが不幸なのは自分たちに原因がある。自分たちが変わることから世の中が変わる一歩が始まる』と教えている。

その一歩が豊かさ、貧しさの概念の見直しだと述べられている。(社会科学を再構築する、

P14)

これは長年の理論であり、その努力をそれぞれの地域で実行できたはずであるが、今は領土問題、宗教問題など『平和』どころか世界的混乱として逆方向へ動いているのでは。

そこで、世界の中の同盟、協定はラテンアメリカ地域でどのように変化してきたかについて振りかえってみて、この地域が向いている、あるいは向いてゆく方向について考察してみたい。

1.ラテンアメリカ地域の同盟、協定:=域内協定とその変化=:

北の方からNAFTA(北米自由貿易協定)はカナダ、米国、メキシコの三ヵ国による協定であるが米国トランプ政権最初の誕生から関税などの問題から『USMCA』という言い方に変化した。中米を中心とするSICA(中米統合機構)はさらにベリーゼ、パナマが加わりODECA

(中米機構)となり、さらにドミニカ共和国が参加した。カリブ海諸国はCARICOM(カリブ共同市場)として活動、CAN(アンデス共同体)はチリーが抜け、ベネズエラが脱退

コロンビア、エクアドル、ペルー、ボリビアで活動し、また中国がオブザーバーとして加わっている。

G3は1995年メキシコ、コロンビア、ベネズエラの三ヵ国で自由貿易協定を締結したが

2006年ベネズエラのチャベス政権により脱退。MERCOSUR(南米南部共同市場)は

ブラジル、アルゼンチン、パラグアイ、ウルグアイの四か国で結成後、一時はベネズエラが加わったが、その後除名された。太平洋同盟(Alianza del Pacifico)メキシコ、コロンビア、ペルー、チリーで結成、南北半球生産物の物流が注目されている。UNASUR(南米諸国連合)、2008年5月、ブラジリアでガイアナ、スリナムを含む12か国で結成したが、その後政策の不一致で2019年地域連合としてPROSUR(アルゼンチン、ブラジル、チリー、コロンビア、エクアドル、ガイアナ、パラグアイ、ペルー)に、ALBA(米州ボリバール同盟)2004年12月14日チャベス・カストロ間で設立、21世紀の社会主義を目標に加盟国はベネズエラ、キューバ、ニカラグア、ドミニカ国、アンティグア・バミューダ、セントビンセント・グラディーン、グラナダ、セント・クリストファー・ネイビース、ボリビアが加盟。そしてAPEC(アジア太平洋経済フォーラム)にメキシコ、ペルー。チリーが加盟している。

また、米州全体で統合するFTAA構想が見られたが実現できなかった。

2. ラテンアメリカ地域のイデオロギーと同盟:=冷戦終結後もキューバとベネズエラを中心に=

この地域では1959年のキューバ革命が成功しフィデル・カストロが政権を握り最初は米国との間で友好関係を維持しようとしたが当時の米国に拒否されてやむなくソ連に近ずき共産主義を選択することとなった。その後、チリーにおいて1970年の大統領選挙において民主選挙によるアジェンデ社会主義政権が誕生し域内で左傾化の波が生じた。

さらに米ソ冷戦体制になるとともに中米ではニカラグアのソモサ独裁政権が倒されて反政府組織FSLN(サンディ二スタ民族解放戦線)が政権を握ると、隣国エルサルバドルにも飛び火しFMLN(ファラブンド・マルチ民族解放戦線)が蜂起し東西代理闘争がエスカレートした。また南米ではペルーにおいてソ連と中国のイデオロギーを背景として反政府闘争としてセンデロ・ルミノソとMRTAによる国内でのテロ行為が活発化した。

これらの動向は米国の対ラテンアメリカ地域への影響力低下に伴って続いたが、米国のチリー・アジェンデ政権への強行手段により一旦は域内が安定の方向へ行くかとみられたがベネズエラの政変により誕生したチャベス政権によりキューバ、ニカラグア、ベネズエラを中心とする左派政権の同盟が今日まで継続されており、これに最近は『麻薬、移民、難民』という問題が絡み、さらにこの地域へのロシア、中国の進出があって複雑化している。

3. ラテンアメリカ地域の協定の太平洋側への流れ:=チリーのFTAの先行とAPEC,太平洋同盟など=

ラテンアメリカ地域の中で太平洋側への市場へ向いているのは日本を含む二国間FTAによるチリー、メキシコなどであるがAPECにはチリー、ペルー、メキシコが加盟している。

しかし、APECはこれ以上の加盟を認めない政策である。

そしてアジア方向を意識している同盟として太平洋同盟があり、ここから日本へも農水産品が輸出されている。この同盟の一つの特色を見てみると赤道を挟んで南北の気候を活用した産物の融通があげられるのでは、すなわち北半球で生産できない時期には南半球から補填し、また逆を活用しているような融通と流通がみられる。これらはアジア向けの知恵ではないか。また、MERCOSURもアジア向けの動きを示しており、特にブラジルなどは日本、中国へのアプローチが盛んである。今後資源面でもパナマ運河の拡張により大型輸送が期待できるので変化が起きるのではないか。

4. ラテンアメリカ地域の経済発展とG-20への位置:=G-20の中でのラテンアメリカ諸国=

G-20は19の主催国と欧州連合(EU)とアフリカ連合(AU)で構成される政府間フォーラムであるとされる。すなわち、先進7か国(G-7)とG8にいるロシア,新興11か国

(BRICS,アルゼンチン、オーストラリア、インドネシア)、メキシコ、韓国、サウジアラビア、トルコが加わっている。

そして金融危機などへの対応、調整のためにIMF,世銀、欧州中銀、国際エネルギー機関

(IEA)が参加しいている。ラテンアメリカ地域ではメキシコ、アルゼンチン、ブラジルの

3か国である。政治的な影響が強い集まりであるが、現在の米国トランプ政権は多国間協力や自由貿易に後ろ向きなことで以前の『第三世界』より経済力、政治力が向上した途上国が

この空間を埋める力を発揮するのがどこになるのか、先般の国連のブラジルのベレンで開催されたCOP30に見られるブラジルのイニシアチブは米国が不参加であったので注目される。今後、アマゾンの環境を守ることは世界の気候温暖化を食い止めるためにもブラジル環境省。下部機関のIBAMA(環境・再生可能天然資源院)への各国の支援が期待される。

5. 欧米とラテンアメリカの意識:以前と今日:=新モンロー主義、地域紛争の再発懸念=

米国が裏庭と考えていたラテンアメリカ地域は様々な面で米国が干渉し、基地などを保持していた。そして米州に対して米国は欧州の侵攻を避けるため『欧州は西半球に干渉しない』という協定を1823年『相互不干渉』(モンロー主義)を結んだ。

一方ラテンアメリカ諸国は自国の主権を守るために基本的には米国のラテンアメリカ地域への干渉に反対であった。このころは米州は米国のケネディー政権が提唱した米州機構(OAS)により軍事、経済支援を受けて共産主義のキューバを除いてその他の独立国でこの支援に守られていた。これは米ソ間のキューバ危機が勃発し、中米の東西冷戦期の代理闘争がおこり反政府闘争が起ころうとしていたからであった。

冷戦終結後は地域ごとに和平合意がなされ地域紛争は解決したかに見えたが、こんにち別の問題として麻薬、不法移民、難民という国境を越えた新たな問題に、そしてイデオロギー

問題としてキューバ、ベネズエラ、ニカラグアを主とする絡みが米国の強硬策で起こっている。

これに対して米国トランプ政権は強硬手段として新モンロー主義を打ち出している。

専門家の分析ではこの『Trump Corollary to the Monroe Doctrine』は長年の放置状態を経て西半球の優位性を回復し、国土防衛と地域の重点拠点を確保するためで中ロを西半球から排除する意識が強いと思われるとしている。ラテンアメリカへの中国の資源関連の投資、支援、ロシアのベネズエラの軍事介入などに対する米国の米州再回復ともみられる。

6. 中国とロシアのラテンアメリカ地域への動向:=台湾問題,一帯一路構想、ベネズエラ問題、etc.=

イデオロギー闘争の結果としてキューバ、ニカラグアに続いてベネズエラがチャベス政権誕生後、これに加わり米国トランプ政権再登場後、米国の影響力が低下していたラテンアメリカ地域に中国とロシアが政治、経済的アプローチを続けている。

特に中国は『台湾問題』を前面に政治的に中米とカリブ海諸国へのトップ圧力を展開している。また経済的には『一帯一路』構想で援助を強化して南米でも積極的に資源投資を行っている。

今注目されているベネズエラ問題に関してはチャベス政権誕生後石油産業分野への援助を強めており、これはチャベス政権が開発に従事していた米国勢が国有化に対して撤退した空間を埋める投資を行ったことである。ロシアもこれに負けずに資源分野への投資や経済低迷への資金援助を行っている。

これらの動向と最近のラテンアメリカ諸国の大統領選挙では再び『右派』と『左派』の政権に分かれつつあり分断の様相がみられる。

7. ラテンアメリカ地域とグローバルサウス:=『第三世界』と言われた時代と今の変化=

ソ連と米国の『冷戦時代』には東側へも西側へも属さない国、地域を第三世界と称していた。

すなわち、西側には先進資本主義陣営を東側には社会主義陣営をさす言葉としたが、、この時、第一世界は米国、日本、EU、第二世界はソ連、中国、東欧ともいわれた。

しかし、冷戦終結後は第二世界は消滅、第三世界は『発展途上国』『後発・発展途上国』

『グロ-バルサウス』などの言葉に置き換えられた。また当初はアフリカ、南米、オセアニア、アジアの植民地、その後、インドネシア、中国、インドなどのような新興工業国、そして植民地から独立した国々が第三世界から脱皮した。

ラテンアメリカ諸国の中で新興工業国に属する国がBRICS、G-20,APECなどの機構に参加することは『グローバルサウス』から独立する動きとなっている。

8. エネルギィー資源の動向とラテンアメリカ地域の資源:=中近東、米国、ベネズエラとガイアナ=

ラテンアメリカ地域には様々な天然資源が産出するが、その中で『石油資源の動向』に焦点を当ててみるとベネズエラには原油埋蔵量として中近東のサウジアラビアを抜いて世界一の3300億バーレルの原油が存在する。

米国はシェールオイルの開発で、それを含めて石油生産量は自国での自給体制が確立した。

それまではメジャーオイルを通して中近東諸国から原油を輸入するとともにエネルギィー安全保障の観点から近隣のメキシコとベネズエラをその供給先に確保していた。しかしながら、メキシコは国営企業ぺメックスが開発から石油製品の販売まで独占しており、外資に対して厳しく、ぺメックス自身の開発投資も資金難で原油生産量は下降気味である。一方

ベネズエラはチャベス政権誕生により石油産業国有化で欧米企業の資本引き上げにより原油生産は低迷し、製油設備のメインテナンスも資金難でできず、この間隙を縫って進出してきているのがロシアと中国である。

しかしながら、ベネズエラ東部、ガイアナ地域のオリノコ原油は超重質原油(API7~10)で開発、精製には高度な技術が必要とされている。米国企業は現在ガイアナ、スリナム沖の

オフシャーで開発を進めており有望視されている。一方自給自足の米国はパナマ運河の拡張により大型タンカーの輸送が可能となってアジア方面への輸出が可能になるのではないか。

9. 世界の混迷の中でラテンアメリカ地域のリーダーは出るか(?)=混乱の原因はさまざま:領土、宗教、不法移民、麻薬,難民、ETC.=

現在の混乱の世界ではその予測は大変難しいが、いくつかの混迷の原因を考察して、現在その中で比較的安定しているラテンアメリカ地域でのリーダーについてみてみたい。

その原因は第一に『領土問題』があげられる。これはご承知の『ウクライナ問題』であろう。

これはロシアのウクライナ軍事侵攻が発端で、そこに米国が絡むことでEU、中国、北朝鮮までが入り東西の紛争に発展してしまっている。同時期に『ガザ問題』が生じ、イスラエルとハマスの戦闘と発展し、これは中近東の基本的な宗教問題に拡大し周辺のレバノン、イラン,イエ―メンへと展開した。その原因はハマスがイスラエルへ侵攻して人質を連れ去ったことから始まった。またイラク、シリアなど『9.11.』からの問題が解決しておらず、イランの核問題(ウラン開発)への拡大は米国のトランプ政権の強行と話し合いの間で進展がないのも原因とされる。

中近東の大国、サウジアラビアは自国の政策を『石油依存から解放的路線への転換』へ変更している。いくつかの混乱の中でEUとトランプ政権の駆け引き、トランプ政権とロシア、中国の駆け引きで、さらに複雑化している。

片や、米州の方へ目を向けてみると『トランプ関税』にかき回され、その対応、解決に集中せざるを得ない状況にある。そして米国との間に『麻薬と不法移民』でメキシコのクラウディア・シエンバウム政権も、もっぱらこの問題を抱えて『USMCA』の経済問題、{G-20,APEC}の政治問題には積極的な発言姿勢は見られない。

唯一、ブラジルのルーラ政権が『BRICS』『G-20』、{COP30}で比較的に前向きに対応している。

また、ラテンアメリカ地域の最近の大統領選挙ではチリー。ホンジュラス、で『右傾化』の方向が現れ、ラテンアメリカの政権は『左派』がメキシコ、グアテマラ、キューバ、ニカラグア、コロンビア、ベネズエラ、ブラジル、ウルグアイ、『右派』としてエルサルバドル、コスタリカ、エクアドル、パラグアイ、アルゼンチンに主な分かれがみられる。

しかしながら、ラテンアメリカ地域の中からのリーダーの出現は冒頭に西川先生が経験された『我々の市場へ入らなければ幸せにならない』そのためには『門戸を自ら開く必要がある』との欧米の途上国への考えは、いま同盟、協力、などの多国間協力を通してグローバルサウス側も努力し話し合いを続けている国も多いが、昔から『国際秩序』には様々な文化、宗教、文明、イデオロギーなどが地域を問わず同時に存在してきた.そして今日新たな問題としての『麻薬、不法移民、難民、領土』などの複雑な絡みは『和平・幸福』にはいまだに到達できないでいる。

その面では、人間の欲と過去の反省の欠如の何物でもないのではないか。 (以上)

<参考資料>

1.『社会科学を再構築する』=地域平和と内発的発展=西川潤、八木尚志、清水和巳 著、明石書店、2007.1.17.
2.『グローバル時代の世界と日本』、2014年武蔵野市・寄付講座 現代教養特講・講義録、亜細亜大学
3.『ラテンアメリカ時報』2025年・秋号 TICADとラテンアメリカ諸国
4.朝日新聞朝刊、2025年12月16日&20日,含む;多文化共生問題
5.Wikipedia