【季刊誌サンプル】トランプ関税に揺れる?メキシコ -USMCA見直しに向けて 内山 直子(東京外国語大学 准教授) | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

【季刊誌サンプル】トランプ関税に揺れる?メキシコ -USMCA見直しに向けて 内山 直子(東京外国語大学 准教授)


【季刊誌サンプル】トランプ関税に揺れる?メキシコ -USMCA見直しに向けて

内山 直子(東京外国語大学 准教授)

本記事は、『ラテンアメリカ時報』2025年/26年冬号(No.1453)に掲載されている、特集記事のサンプルとなります。全容は当協会の会員となって頂くか、ご興味のある季刊誌を別途ご購入(1,250円+送料)頂くことで、ご高覧頂けます。

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原稿サンプル

はじめに
第2期トランプ政権は、第1期と同様、もしくはそれ以上に関税をてこに各国に対する「ディール外交」を展開している。2026年1月3日の米軍によるマドゥーロ大統領拘束でベネズエラ情勢が注目を集めたが、メキシコもまた米国との貿易赤字、「不法移民」1、違法薬物問題を抱えてきた。さらに、2026年に控える米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)見直しも注目の的である。
北米グローバル・バリューチェーン(以下、GVC)の核となるUSMCAは、北米自由貿易協定(NAFTA)の後継として、第1期トランプ政権下の2018年11月に三国間で合意され(内山 2019)、2020年7月に発効した。USMCAは発効から16年間の期限付きであるが、発効後6年目(2026年7月)に見直しを実施することが条文で定められており、三国が合意すれば、さらに16年間(2042年まで)有効期限が延長される。合意に至らなければ2036年にUSMCAは失効することになるものの、2027年以降も年単位で見直し交渉を続けることが可能である(Marroquín Bitar et al. 2025)。
本稿ではまず、第2期トランプ政権が発足して以降のメキシコに対するトランプ関税の経過をまとめる。続いて、北米GVC貿易およびその主要産業の一つである自動車産業を事例に、トランプ関税がメキシコに影響をもたらしたのか否かをデータを用いて検証する。最後にUSMCA見直しに向けた筆者個人としての見通しを提示する。

メキシコに対するトランプ関税
トランプ大統領は2期目の就任を前に、就任初日(2025年1月20日)にメキシコからの全輸入品に対し25%の追加関税を課し、「不法移民」と違法薬物(フェンタニル)の流入がなくなるまで同関税を維持すると発言していた。実際には大統領令によって上記25%の追加関税を2月4日から適用するとしたが、すぐに延期とされ、最終的に3月4日に発動された。ただし、USMCAの原産地規則を満たす品目(以下、USMCA品目)は3月7日から追加関税を免除されている。その後、トランプ大統領は対メキシコ貿易赤字やフェンタニル問題が解決していないことを理由に、8月1日からメキシコに対し30%の追加関税を賦課すると発表した。しかし、すぐに90日間の延期が決定され、さらには当初見込まれていた11月1日からの発動も見送られたままである。
上記のように、トランプ関税に関しては断続的に様々な発言や発表があったものの、本稿執筆時点(2026年1月)でメキシコに実際に適用されている追加関税は3月に発動された25%のみ(USMCA品目は対象外)である。USMCA品目はメキシコの対米輸出の83%に相当すると見られており、メキシコに対する実効関税率は結局のところ8%程度と試算されている(CEPAL 2025)。
一方、メキシコのシェインバウム大統領は9月、同国の一般(MFN)関税率を最大50%まで引き上げる輸出入関税法(LIGIE)改正案を議会に提出した。中国を含め、メキシコとFTAを結んでいない国を対象としたものだが、国内外からの反発により同改正案の最終策定期限が2027年8月末(議会会期末)まで延長されていた。ところが、一部品目の関税率引き上げ幅縮小などの変更を行ったうえで、同法案は12月8日に下院、続いて同10日に上院で可決された。2026年1月1日から新関税率が適用される。このMFN関税率引き上げに対する中国政府からの反発はもちろんだが、メキシコ国内(特に製造業)から生産コストの上昇に関して強い不満の声が出ていることも見逃せない。後述する通り、中国はすでにメキシコにおいて最終消費財だけでなく、自動車産業を含む製造業で用いられる資本財・中間財の重要な供給国でもある。