『一神教のラテンアメリカ -ユダヤ教・キリスト教・イスラム教をめぐって』
乗 浩子 新評論
2025年11月 247頁 3,200円+税 ISBN978-4-7948-1299-5
地域研究はもとより駐在・出張で現地を訪れる際に、宗教についての知識を持っていると持っていないとでは理解に大差が生じる。本書はラテンアメリカ近現代史を常に宗教のからの視点をもって研究してきた著者(元帝京大学教授)が過去20年間の論考を纏め、一神教の歴史的展開を通じてラテンアメリカの思想的・社会的潮流を俯瞰しようとした有益な解説書である。
大航海時代にスペイン、ポルトガルから追われアメリカ大陸に移ったユダヤ教徒だが各国の独立にともない1820年頃に異端審問が閉鎖されるまで、迫害は熾烈を極めた。イベリア半島から逃れたユダヤ人が植民地時代に活躍の場としたのはカリブ海地域だった。第二次世界大戦直後からカトリックの退潮の兆しが顕著になり、解放の神学が一時的に退潮の歯止めとなったが、それに力を注いだ先住民神学指導者は中米では1990年代の軍政・準軍事組織に虐殺された。ブラジルでは軍政から民主化の移行期では教会が次第に軍部と対峙していった。近年カトリックの牙城のラテンアメリカでもプロテスタントの新派のペンテコスタが米国から流入し拡大したが、対するにカトリック側でも刷新運動が起きた。本書ではイスラムについても言及しており、新大陸への黒人奴隷を含むムスリムの流入、シリア移民のムスリム一族でカトリックに改宗したメネム大統領が登場したアルゼンチン、革命後キューバのムスリム世界との交流、モスクの建設についてまで言及している。
〔桜井 敏浩〕
〔『ラテンアメリカ時報』2025/26年冬号(No.1453)より〕