『コーヒーと内戦 -エルサルバドル ヒル家三代の物語』 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『コーヒーと内戦 -エルサルバドル ヒル家三代の物語』


『コーヒーと内戦 -エルサルバドル ヒル家三代の物語』
 川島 良彰・山下 加夏 平凡社
 2025年9月 307頁 3,200円+税 ISBN978-4-582-83991-3

 エルサルバドルへ1889年に英国から移住したヒル一族がコーヒー大農園・精選工場の一大企業を築いた創業から発展、その後の内戦(1979~92年)で翻弄されながら守りぬいた一族の歩みを綴ったノンフィクション。エルサルバドルについては14家族が政治を支配し、ヒル一族を含む綿花・コーヒー農園主が貧しい労働者を搾取した貧富の格差が内戦の主因との説がまかり通っているが、実際は14ではなく30余のファミリーが姻戚関係で結ばれていて軍部の影響力も大きかったこと、ヒル家は従業員や納入コーヒー農家と対等にコーヒー産業の発展と輸出振興に努め、内戦の惨禍と無定見な政治で大打撃を受けたが、後継者達が再生への道を歩み始めていることを明らかにしている。
 著者(川島)は1975年に高校卒業と同時にエルサルバドルへ留学、14家族の一つと目されたベネケ家の一員で当時のワルテル・ベネケ駐日大使の妹の家に下宿してコーヒー栽培技術等を学び内戦も経験し、帰国後も世界各地でコーヒー産業に携わってきた。安定しより豊かな生活を望んで努力する人たちへのゲリラと政府側との無秩序で凄惨な暴力応酬であった内戦は誰のためだったのか?という述懐は、エルサルバドル現代史を知るうえで大きな示唆を与えてくれる。

〔桜井 敏浩〕

〔『ラテンアメリカ時報』2025/26年冬号(No.1453)より〕