執筆者:硯田一弘(アデイルザス代表取締役、在パラグアイ)
2026年、新年明けましておめでとうございます。
いやー、ほのぼのしたパラグアイの新春ニュースをお届けしようとしていたところ、ベネズエラから凄いニュースが飛び込んできましたので、今年の第一稿はベネズエラから、ということになります。
既に日本国内でも多くの媒体が報道していますから、多くの皆さんはご覧になっていると思いますし、ベネズエラ国内でも深夜から未明にかけての急襲以降、具体的な情報は得られておらず、各種の憶測が錯綜している状態ですので、1988年の初駐在以来40年近くに亘って関わっている第二の故郷のような国についての個人的な見解をお届けします。
まず、日本のみならず多くの国で「大統領を拘束」という表現が多く見受けられますが、この稿ではこれまで何度も書いてきた通り、ニコラス・マドゥロ氏はこれまで一度も正当に民主的な選挙で選ばれたことはなく、故チャベス大統領の臨終に際して後継指名を受けたことから、身内の推挙によって2013年から今日まで権力の座に居座った稀有な”元首”であったわけで、今回の騒動でようやくその座から引きずり降ろされることになったことに対して、多くの国民は歓喜の反応を見せています。

現地の状況としては、1989年のカラカソ大暴動、1992年2月のチャベスクーデターと11月の救出クーデター、2002年の米国主導クーデターとチャベス救済劇、03年の反チャベスゼネストなど、軍事行動を含む大騒動に慣れている国民は、生活必需品の確保のために近くのスーパーやファーマシーに押しかけて、今後想定されるモノ不足に備えている模様です。
一方、形式的な親玉を誘拐されたチャベス派”政権”では急遽デルシー・ロドリゲス副大統領を暫定大統領に指名して、今後の収拾を図る体制を整えたようです。

しかし、これはキューバから亡命した両親の元フロリダで育ち中南米との太いパイプを持つマルコ・ルビオ国務長官があらかじめデルシー女史と事前に合意したシナリオで、今後はデルシーを軸に米国主導の暫定政権が次の選挙の準備が行われるという見方が出ています。

昨年のノーベル平和賞を受賞したマリア・コリナ・マチャド氏について、トランプ氏が指導者としての人気や資質に欠けると論評していることは、正月の漫談のようなメッセージで思い切り笑わせてもらいましたが、男の嫉妬の怖さを見せつけられたようでもありますし、もしかすると彼女をいきなり政権の座に就かせると、今回の”暴挙を裏で支援した悪女”というイメージが発生することを回避した遠望な深慮が働いたのかも、という裏読みも出来て、いろいろと考えさせられるコメントと言えるのかもしれません。
マドゥロが裁かれるべき存在ということに関しては、南米の周辺諸国でも違和感なく受け止められていると思いますが、ブラジルを筆頭とする左派政権諸国にとっては米国の覇権主義を許すな!という論調で後ろ盾となっているアジアの大国に対する忖度姿勢を強めてくるものと思われます。
トランプ氏のベネズエラ占領作戦の背景には、ベネズエラの豊富な資源を狙っているという報道も見受けられますが、1999年に大統領に就任したチャベス氏が、2002年子ブッシュ大統領の差し金によるクーデターを受けたことによって完全な反米姿勢に転じ、石油ガス関連だけでなく、ガラス製造会社に至るまで米国資本の会社を国有化という名の接収を行ってきたので、1959年のキューバ革命でいきなり多くの資産を不本意にもぎ取られた米国にとって、自国資産の主権回復という大義名分があることは周知されなければならないことです。
ところで、今回の騒動に関する報道で、本当の黒幕であるディオスダード・カベジョ氏や、デルシーの兄ホルヘ・ロドリゲス氏の動きが見受けられません。チャベスが1992年2月に主導したクーデター未遂の仲間である彼らや、チャベスの師匠でもあったブラジル・ルラ大統領が今後どのような動きを見せるか、というところに注目したいところです。
さて、正月休みも終わりますが、昨年末にApple TVで公開されたPluribusというシリーズ作品がパラグアイで話題になっています。
https://cinemandrake.com/pluribus-drama
作品の舞台は米国ですが、コロンビア人俳優が演じるパラグアイ人キャラが重要な役割を演じているようです。次のお休みの時に是非ご覧ください。
3日未明のマドゥロ夫妻拘束ニュースから一週間、日本でもベネズエラ関連の報道が毎日のように流れていました。これほどの頻度でベネズエラが日本のマスコミに登場したのは後にも先にも初めてのことだと思います。お蔭でベネズエラの知名度が一気に上がったことは、トランプ政権に感謝すべきポイントだと思います。
色々なメディアに登場したことで、世の中にこんなに大勢のベネズエラウォッチャーが居たのかと驚かされる一方で、怪しい内容をもっともらしく語っている解説者が沢山いるようにも思います。
出回っている多くの分析の中で、最も信頼度の高い情報はアジア経済研究所の坂口安紀さんの解説です。彼女も95-97年と09-11年の計4年、二度にわたってベネズエラで生活したことがあるようなので、現地の肌感覚も含めて今のカラカスの雰囲気を伝えています。https://www.youtube.com/watch?v=mjWVaM1PAc4
筆者も88-93年と08-12年の二回計10年のカラカス駐在と、13年以降も現地仲間と同じ南米大陸内から連絡を取り合っていますので、より詳しい現地レポートが出来ると思っています。
今回の拘束劇を実質的にリードしたのが米国ルビオ国務長官であることは周知の情報ですし、先週もルビオ氏とキューバの因縁について書きましたが、マドゥロ排除後のベネズエラ国政運営について不安も生じてきていますので、今回はその辺について解説します。
先週も書いた通り、マドゥロ拘束後の政権はDelcy Rodriguez女史が暫定大統領となっているものの、彼女の兄であり精神科医でもあるJorge Rodriguezと共に、76年に獄中死した反政府ゲリラJorge Antonio Rodriguez氏の子供たちであり、その出自からチャベス以前の既得権益グループに強い反感を抱いていたことから、チャベスに重用されることになった兄妹という点で、チャベス派内部ではインテリ組と目される人達です。
下の図はチャベス政権を支えた副大統領たちですが、注目すべきは子ブッシュ政権下で実行された2002年の反チャベスクーデター以後に強烈に反米色を強め、同時にキューバの支援を得て社会主義思想を前面に押し出すことになってからの面々です。

2002年のクーデター時に暫定大統領を務めたCabello氏と2007-08年に副大統領となったJorge Rodriguez氏はバリバリの現役中核メンバーで、チャベス氏が亡くなる直前にマドゥロ氏が副大統領になっていますが、マドゥロ氏が後継指名を受けた時に多くの国民は何故?という疑問を抱いていました。しかしマドゥロ氏がキューバ政府の強い意向でチャベス後のベネズエラ政権トップに就くと、カベジョ氏は後方支援に回ったふりをしつつ、マドゥロ氏を傀儡として操り続けたというのが実態で、その間にキューバ政府から派遣された軍人や諜報部員との距離感を保ちつつも、カラカスの貧民街の若者を中心メンバーとするゴロツキ集団Colectivosを組織化して支配下に置き、反政府の動きを見せる市民を不当に逮捕して収監するという恐怖政治を展開してきました。
今回のもうひとりのキーパーソンとしてVladimir Padrino Lopez国防大臣の名前が挙がっていますが、彼は92年のチャベスクーデターに加わった訳ではなく、95年に米国の陸軍士官学校に派遣されて顕彰されていることからも、米国にも一定の人脈を維持している人物と思われ、92年クーデター未遂でチャベスと蜂起して収監されたカベジョとの間にどういう関係が存在するのか分かりませんが、米国政府がパドリーノ氏をどのように処遇するのか?も注目に値します。
いずれにしても、現在のベネズエラは依然としてカベジョ氏が睨みを利かせているコレクティボスやカベジョ親衛隊が市民の行動を監視していますので、本当の民主化が回復されるかどうか、は予測困難な状況であると言えます。
コレクティボスに関するレポートは以下の記事をご参照ください。
Los colectivos y su influencia en el poder en Venezuela(ベネズエラの権力におけるコレクティボスの影響力)

https://insightcrime.org/es/noticias/papel-colectivos-lucha-poder-venezuela-salida-maduro/
コレクティボスの面々は基本的にゴロツキで、寅さんのセリフのようにインテリを忌避する傾向もありますので、ロドリゲス兄妹とは反りが合わないとも思われ、チャベス時代から与えられた大量の武器を手に市中をウロつく彼らの統制を如何にとるか?が今後の民主化の大きな指標となります。
ちなみに、Colectivoという単語は本来は集団とか集合を意味する単語で、他の南米諸国では乗り合いの小型バスを指す単語としても使われています。というわけで、日常生活で馴染みの言葉ですが、ベネズエラでは使い方に注意が必要です。
添付ファイル領域
日本でも報道されましたが、昨日アスンシオンでメルコスールとEUとの間で両地域連合の間でのFTA(Free Trade Agreement=自由貿易協定)の締結を目指すパートナーシップ協定の署名式が開催されました。
少々遠回しな表現となっているのは、本格的なFTA締結のためには欧州連合内での合意が形成されておらず、農産物の保護を訴えるフランスやポーランド・ハンガリー・オーストリア・アイルランドなどの国々が各論で反意を唱えているからです。
https://news.yahoo.co.jp/articles/070e9ea3ae4667f31a792e3470c4588432f7d727
とは言うものの、両地域が経済の自由化で結びつきを強めると、総人口8億人、GDP25兆米ドルの巨大経済圏となり、欧州側でも将来の食糧確保に重要な一歩をようやく記したという認識が持たれています。

https://www.lanacion.com.py/politica/2026/01/17/integracion-y-democracia-lideres-regionales-aludieron-a-venezuela-en-la-firma-uemercosur/
世界の人口はアフリカ・アジアを中心に今後も増え続けるという予想ですが、日本をはじめとする先進国では既に減少に転じており、先進国の集まりであるヨーロッパでは地域全体の人口が減少しているという現実を前にして、生き残りのためにも豊饒な大地と水源を持ち、食糧生産性の高い南米と地域連合を形成することは極めて重要という捉え方がされています。もちろん、欧州域内の農業などの産業保護も重要ではあるものの、長期的視点に立って産業の維持と国民生活の保護のためには、今回の合意は大いに意義深いものであることは確実と言えます。

また今回の会議では、米国政府が介入を試みているベネズエラ情勢についても討議され、参加したアルゼンチン・ボリビア・パナマの代表者達から米国の行為に賛同するコメントが発せられました。
https://www.ultimahora.com/nace-en-asuncion-la-mayor-zona-de-libre-comercio-del-mundo
ではベネズエラでは現在どのような動きが見られるのでしょうか?
かつて反チャベスの旗頭で、現在はチャベス派に蹂躙された最大新聞のEl Universal紙の電子版では、毎日多くの反米デモが開催されているように報じられています。
しかし、こういう報道は筆者がベネズエラに住んでいた15年前から、一部の塊の部分を写真にして、それがあたかも国中の動きであるかのように映しだすのです。赤い帽子やシャツでチャベス派であることを誇示しますし、8つの星のついた国旗を持って行進します。

しかし、ベネズエラ国旗の星の数は本来独立宣言をした1811年の州の数を表す7でしたが、チャベスが2006年に解釈を変えて8つに変更されました。
この変更も国民の合意を得たものでないために、偽政権に嫌悪感を持つ人たちの間では今でも7星の国旗で政府に抗議の意を示しています。
ベネズエラでの居座り政権への攻撃では米国に賛同したものの、その後のグリーンランドをめぐる新規の関税による脅迫に反するというのも、今回の南米と欧州の合意が、裏に秘められた北米と距離感を持とうとする覚悟の表れと読み取ることもできる動きでした。
今年もカーニバルの季節がやってきました。ん?カーニバルは二月の行事じゃなかったっけ?とお思いの皆様。
カーニバルというのはカトリックでキリストの復活祭の40日前から肉食を断って懺悔を行う四旬節となり、その直前に肉を食べ酒を飲んで仮装して楽しむお祭りということで、復活祭の日程が「春分の日の後の最初の満月の次の日曜日」というややこしい設定となっているので、2026年の復活祭は4月5日、その40日前は2月24日で、その直前の週末は2月22日(日)なので、21日22日にどんちゃん騒ぎをするのがカトリック的に正しい日付ですが、世界各地で商業的な大イベントとなっているので、その設定は宗教上の教義を離れた日程で組まれることが多くなっています。
ちなみに、世界三大カーニバルと言われるブラジル・リオデジャネイロでは2月13日~21日、イタリア・ベネチアでは2月7日~17日、トリニダード・トバゴでは2月16・17日となっていますが、三大カーニバルは他にもフランス・ニース(2月11日~3月1日)、米ニューオリンズ(3月10日~17日)といった具合に、地域差があります。
パラグアイでも最南端アルゼンチンとの国境の町Encarnacionでド派手なカーニバルが開催されており、すでに先週末1月17日から、2月14日までの毎週土曜日にカーニバルの為だけに建設された常設のサンボドロモというパレード場でお祭りを楽しむことができます。htps://www.carnavalencarnaceno.com.py/

サンボドロモ(SambaDrome)で一番有名なのはリオですが、サンパウロの会場も非常に立派で、その規模も迫力も物凄いのでリオに行けなくても楽しめます。
今回ご紹介するパラグアイのエンカルナシオン会場も、ブラジルの会場を知らなければ感動すること請け合いです。
専用の会場でなくても、トリニダードやブラジル・サルバドルのように町中がカーニバル会場になって通りのあちこちでお祭り騒ぎが繰り広げられるイベントが各地にありますので、この時期にラテンアメリカに来られる方々は、お近くのカーニバルの予定を確認してみてください。
以 上