不完全な市場であったこともあるが、政府と市場のいずれをも社会によって規制し、社会に適正に埋め込むための開発モデルとして、イノベーションを通じて経済をグローバルな市場に統合する一方で、教育や社会保障などの社会政策、科学技術政策を国家が担う経済体制、1990年以降模索されてきた国家・市場・市民社会からなる多元的な制度としての「社会自由主義国家」を追求しているブラジルの挑戦を探ろうというもの。
ブラジルの開発政策の変遷と「社会自由主義国家」の枠組みを議論し、それを支える参加型予算、連帯経済、CSR(企業の社会的責任)といった制度、その経済的基盤となり、持続的成長を左右する産業政策、科学技術・労働政策を持続的で公正な成長という観点から論じ、成功例といわれるクリチバ市の都市政策の虚実と社会包摂の観点からブラジルの都市政策を検証している。このブラジルで進められている国家改革への挑戦は、日本の改革に生かすべき教訓を学ぶことが出来ると著者は主張している。
〔桜井 敏浩〕
『ラテンアメリカ時報』2014年春号(No.1406)より
(小池 洋一 新評論 2014年3月238頁 2,800円+税)