ボリビアのアンデス高原にある鉱山都市オルロのカーニバルは200年以上の歴史をもち、UNESCOの世界遺産の一つ「口承および無形文化遺産の傑作」として登録されている。本研究は、非識字階級がカーニバルを通じて継承してきた独自の世界観と歴史観と、識字階級の文化観と行政組織の解釈との差異を社会闘争と捉え、西欧政治・経済モデルに追従する国家主導に対する国民文化と位置付けている。
まずオルロのカーニバルの概要と歴史を述べ、その時々の社会状況との関係を、「悪魔の踊り」と神話儀礼との関係、革命や軍政などの政治的背景の推移、行政の関与、女性の参加、錫価格下落によって打撃を受けた鉱産業の代替としての観光産業化などから分析している。観光産業の立脚のための有効手段として世界遺産登録の働きかけ、登録後の1990年代後半のカーニバルに加えられた“国際的基準”への変更とそれまでの独自の基準との相違をめぐる文化規範を論じ、半世紀以上にわたる様相を、識字・有形文化とはことなるオルロのカーニバルを総括している。巻末に詳細なオルロとボリビアの出来事とカーニバル参加グループの設立についての年表、関連する社会運動の関係文献や法令の訳文なども付けられており、4度にわたるフィールドワークに基づく労作。
〔桜井 敏浩〕
(兒島 峰 明石書店 2014年1月 383頁 6,800円+税)
〔『ラテンアメリカ時報』2014年夏号(No.1407)より〕