1987年NPO PIH(パートナーズ・イン・ヘルス)の創設に参画、ハイチやペルー、ルアンダ等の開発途上国での医療提供活動を実践している医師で医療人類学者である著者による、2010年1月12日に起きたハイチ大地震後の奮闘の記録。
04年と08年のハリケーンに痛めつけられた傷も癒えないハイチは、30万人以上の犠牲が出たが、もともと医療予算は乏しく、国立大学病院も、余震と混乱に加え施設・人員などのあらゆるものが不足していた。米国のクリントン元大統領も物資を携行して現地視察に乗り込み、米軍の病院船、様々な国や国際機関からの支援が届き始めた。しかし、ハイチはもともと貧困と経済開発の遅れによる大量の失業者を抱え、政治の混乱が続き、政府は非効率、汚職、能力が批判され、地震で物理的にも大きな痛手を被り、何十億ドルもの復興支援金を配分するための暫定ハイチ復興委員会の立ち上げにも時間がかかった。
著者たちは救援活動に奔走しながら、クリントン元大統領はじめ国際機関やNGO、ハイチ政府と交渉、調整を行いつつ奮闘し、復興のシナリオにも思いをめぐらす。今世紀最悪といわれる緊急事態の中で行動する医師の闘いの記録。
〔桜井 敏浩〕
〔『ラテンアメリカ時報』2014年夏号(No.1407)より〕
(ポール・ファーマー 岩田健太郎訳 みすず書房 2014年3月 340頁 4,300円+税)