ドキュメンタリー映画『キューバ・センチメンタル』(2010年)制作も手がける文化人類学者が、キューバ市民の中で生活し、米国の経済封鎖とソヴィエト連邦からの支援物資が途絶えた経済危機の「非常期間」を、現実の課題である生活物資の確保と社会主義革命の理想との間で普通の人々がどのように人生を生き、妥協し、希望を見つけようとしたか、自分の社会をどのように説明しているかを、様々な交遊を通じて記録している。
革命後「新しい人間」を創ろうとするフィデル・カストロとチェ・ゲバラの理想と現実、革命同志たちの男女間関係を含む愛と友情が垣間見られても許されている革命、「非常期間」を生きるための非合法・合法な解決法、クエント(小咄)でみるポスト・ユートピアのアイロニー、出国しディアスポラとして「新しい人間」を選択した若者たちのそれぞれの物語りと故国を離れて孤独に苦しみ、つながりを求める姿を、メディアに載らないごく普通の人々の日常の出来事からキューバ革命を解釈しようとしたもので、これまでのあらかじめ書き手がもつ肯定もしくは否定的視点からの記述が多い著作と違って、キューバ社会の実情を知る上で興味深い記録になっている。
〔桜井 敏浩〕
〔『ラテンアメリカ時報』2014年夏号(No.1407)より〕
(田沼 幸子 人文書院 2014年2月 230頁 6,000円+税)