スペイン領キューバで1898年にハバナ湾で起きた米海軍艦の等の爆沈事件を契機に米国がスペインに宣戦布告し勝利を収めた後、独立したキューバから1903年に東部のグアンタナモ湾に海軍基地の租借権を獲得した。1959年1月のキューバ革命成立以来、革命政権はこのグアンタナモ海軍基地の返還を求め続け、国際世論の喚起に努めてきたが、両国間関係が1962年にソヴィエトが密かに持ち込んだミサイルによる戦争の一触即発の危機の後に改善した時でも、米国政府は一貫して対キューバ経済制裁の撤廃とグアンタナモ湾海軍基地の返還交渉を拒否し続けている。2001年の9.11同時多発テロ事件後の容疑者収容所として用いられ、米国法の縛りを受けない場所として尋問という名の拷問が行われたことが世界に大きく報道され、同基地の存続でさらに悪名を高めたこともあり、米国内でも閉鎖論と維持論が交錯している。
本書は、グアンタナモの地理と地誌、スペイン人の到来以降の米国・キューバ関係史、返還を求めるキューバの立場、国際法的観点からの検証、グアンタナモ収容所の組織、経緯、キューバの反応と返還要求を詳細に記し、最後に米国政府の見解、維持論と不要論の内容、考慮すべき事情とこの問題の進展の将来について明解に述べている。
著者は、外交官としてスペイン、ラテンアメリカ等各地に在勤した前キューバ大使で、現在は防衛大学校教授。『知られざるキューバ -外交官の見たキューバのリアル』(2018年 ベレ出版。 https://latin-america.jp/archives/33909 )の著書がある。
〔桜井 敏浩〕
(彩流社 2020年3月 256頁 3,000円+税 ISBN978-4-7791-2655-0 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2020年春号(No.1430)より〕