『混迷の国 ベネズエラ潜入記』 北澤 豊雄 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『混迷の国 ベネズエラ潜入記』  北澤 豊雄


 コロンビアに拠点を置いてラテンアメリカ14か国を取材していて、パナマとコロンビア国境を徒歩で移動した『ダリエン地峡決死行』(本誌2019年秋号で紹介。https://latin-america.jp/archives/40707)の著作もあるノンフィクションライターが、報道では経済が破綻して食料・医薬品も枯渇して飢えに苦しみ400万人と言われる国外脱出者を出しているベネズエラの実態を、自分の目で確かめようと思い立つ。初めはサッカー取材と称してコロンビア国境から陸路ククタから入るが、メリダに着いてすぐ同行の記者が強盗に遭い身ぐるみ奪われて断念してコロンビアに戻り、2週間後に今度はボゴタからカラカスへ空路で入国した。日本人駐在員が帰国して閉鎖されている日本人学校の留守番を務めるオマルの案内で取材計画を立て、会った人たちに物価や賃金などのヒアリングを始めた。インフレと政府財政の逼迫から紙幣の流通がままならぬ中でスマホのアプリ決済などを工夫するなど人びとはしぶとく生きており、報道は「半分は本当、半分は嘘」であったが、誰しもが指摘したのは電力や医療施設等のインフラが資機材・人材不足から機能が大幅にダウンしている窮状だった。しかし通貨の交換で見知った女に手持ち現金をすべて持ち去られてそれ以上の滞在は頓挫した。三度目はコロンビアでコックをしているベネズエラ人の妻がカラカスに踏みとどまっているのを頼って再訪、ベネズエラでコカイン密輸がばれて刑務所に2年余収監された日本人がいた話しを聞き、一緒に西部の石油生産の中心都市マラカイボに車で向かったが、国境越え時の検問で係官に200ドルの賄賂を巻き上げられ這々の体でコロンビアに戻った。国境での外国人は警官もタクシー運転手もグルで行動を監視されているのだという。

 現地で庶民の生活の中に入って取材したルポは少ないので、次々トラブルが発生して旅程もままならなかったドキュメンタリーだが、それなりにベネズエラの実情を垣間見ることが出来る。後半100頁は、メキシコの「野獣列車」と呼ばれる貨物列車に飛び乗って中米から米国への移住を夢見て危険を冒す人たちの実態を、15の沿線の町で取材したルポも付録として載せている。

〔桜井 敏浩〕

(産業編集センター 2021年 3月 328頁 1,200円+税 ISBN978-4-86311-287-2 )

〔『ラテンアメリカ時報』 2021年夏号(No.1435)より〕