アステカ王国は1521年にコルテスにより滅ぼされ、スペインのヌエバ・エスパーニャ副王領となったが、19世紀にスペイン支配から独立しメキシコとなった後も米国から侵略を受け国土の過半を失い、熾烈な内戦が終わるとフランス軍がメキシコシティを占領しナポレオン三世が送り込んできた皇帝の君主制に一時回帰したが、これを排除するとメスティーソのベニート・フアレス大統領の共和制へ復帰した。しかし後継者となったポルフィリオ・ディアスの独裁政治となり、これを打倒すべく1910年にメキシコ革命が勃発、政府軍と諸勢力間の戦闘が行われ、その後もカトリック教会の宗教体系とその大規模土地所有などの経済基盤の維持、既得権益をもつ保守層、農民の農地奪還要求、都市経済型への移行にともなう労働者の組織化などを巡って革命が進化していった過程(1940~60年)で、ラサロ・カルデナス大統領の石油資源国有化をはじめ穏健社会主義政策が推し進められ、後のPRI(制度的革命党)につながる一党独裁秩序が創り出されたが、それらのメカニズムが後に政治・階層間の亀裂を誘う道筋に至ることを示唆している。スペインによる征服と植民地時代に受容した遺産、米仏の侵略の痕跡を辿りながら、征服された国の歴史認識を多くの文献を基に解説した内容の濃いメキシコ通史。
著者は京都外国語大学で長年メキシコ史の研究を続け、メキシコの歴史アカデミーの客員にアジア人で初めて迎えられ、『メキシコの百年 1810−1910 ―権力者の列伝』(エンリケ・クラウセ著、現代企画室、2004年)、『物語 メキシコの歴史 ―太陽の国の英傑たち』(中公新書、2008年)などの多数の訳著書がある。
〔桜井 敏浩〕
(行路社 2023年11月 193頁 1,800円+税 ISBN978-4-87534-458-2)
〔『ラテンアメリカ時報』2024年春号(No.1446)より〕