様々な移民等により植民地化が進んだ1500年以降建設が始まったブラジルの都市は、ブラジルという同一の地平にありながら人間環境形成はまちまちであり変化をともない個性に満ちていて、世界に類を見ない人間環境に関する壮大な実験であるとの著者の観点から、大西洋岸にあって大湿地を開発した丘と湾の景観都市リオデジャネイロ、サトウキビ大農園地帯の中心地だったオリンダと河口の水の都レシーフェ(ともにペルナンブーコ州)、1763年に総督府がリオデジャネイロに移転するまで首都であった植民都市のひな形サルヴァドール、内陸の奥地と鉄道で結ぶ高原のサンパウロ、金採掘鉱山の中心地であったオウロプレット、最南部の辺境にあってドイツ系やイタリア移民によって造られた都市、同じく南部パラナ州で日本人開拓者が拓いたミニ国家としての都市ウライなど、様々な12の都市を取り上げ、終章でコーヒー農園(ファゼンダ)の農場主の邸宅カーザグランデの建物の建築が20世紀のル・コルビュジエ等の建築家に与えた影響を紹介し、近代の建築がブラジルの都市に関わったことを指摘して締めくくっている。多くの写真、図版を使って、それぞれの歴史、特色、町造りの過程などを紹介した、読む者の好奇心に応える都市物語。
著者の中岡氏は京都大学で建築を修めた工学博士で2000年から日本学術振興会サンパウロ研究連絡センター長として2年間滞在、川西氏は学校教育学で博士号を持ち、サンパウロ人文科学研究所特別研究員としてブラジルにも滞在し、学校教育に比較都市研究の視点を取り入れるべくブラジルの都市などを研究している。両氏の共著で『首都ブラジリア モデルニズモ都市の誕生』(鹿島出版会 2015年。https://latin-america.jp/archives/15238 )という優れた解説書もある。
〔桜井 敏浩〕
(明石書店 2020年1月 402頁 4,800円+税 ISBN978-4-7503-4937-4 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2020年春号(No.1430)より〕