『格差社会考 -ブラジルの貧困問題から考える公正な社会』 奥田 若菜 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『格差社会考 -ブラジルの貧困問題から考える公正な社会』  奥田 若菜 


格差と貧困を、なぜそれらが解決しないか? を考えるために、ブラジルでの格差を数でマジョリティであるインフォーマルセクター就労者、都市部・農村部貧困層の実態、貧困層と中間層・富裕層間の移動、貧困を解決する義務者は誰か、そして社会問題と格差の具体的事例として中絶、人種問題、黒人・混血・先住民・障害者に対するアファーマティブ・アクションに至るまでを考察し、最後により公正な社会を目指すために、懸念すべきは格差社会そのものではなく、格差を容認することにあり、それは日本にも当てはまる問題でもあるという著者の所見を述べている。手頃な新書版であるが、貧困を数値化し、社会階層区分、歴史的に不平等な社会構造にも目を配り、貧困の責任論、貧困層への支援のあり方から、人工妊娠中絶やハンディキャップを負った弱者への対応など、近年世界の多くの国でも論争が活発になっている問題に切り込んでいて、今後の社会のあり方を考える上で示唆するものは多い。
著者は文化人類学を専攻し、都市部と彼らの故郷のブラジル北東部での路上商人の生活から見た貧困(『貧困と連帯の人類学』 春秋社 2017年。https://latin-america.jp/archives/24544 )や、同地域でのジカ熱との医療関係者の対決を通じた調査など、一貫して社会格差と貧困問題を研究してきた神田外国語大学准教授。

〔桜井 敏浩〕

(神田外語大学出版局発行・ぺりかん社発売 2021年4月 181頁 1,200円+税 ISBN978-4-8315-3014-1)
〔『ラテンアメリカ時報』 2021年春号(No.1434)より〕