『ラテンアメリカ文化事典』 関 雄二編 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『ラテンアメリカ文化事典』  関 雄二編 


 メキシコから中米、カリブ、南米に至る広大なラテンアメリカには、古代よりマヤ、アステカ、インカ文化が栄え、コロンブスの「発見」から異文化折衝が始まり、その後300年間続いた植民地時代の抑圧下でも次第に独自の主体的文化を形成し、独立運動に向かうのだが、それぞれの地で花開いた文化を短いながら優れた文明史の概略を明らかにした序論から始まり、その文明・文化遺産、歴史、民族、現代文化と人の移動、農牧等の生業、食文化と嗜好品、観光、古代文明へのカトリックの布教、近年の解放の神学、プロテスタント等の多彩な宗教、奴隷貿易や言語とコミュニケーション、美術、音楽・映画、文学・思想、スポーツ、さらに政治・経済に至るまで取り上げ、最後にラテンアメリカと日本との関係についても1章を設けている。18人の編集委員と延べ201人の執筆者が17章323項目にわたって解説し、付録として各国事情と年表、項目・事項・人名索引を付している。
 多彩な、広く網羅した項目、それぞれの専門研究者が執筆した内容の濃さは、ラテンアメリカに関心のある学生から専門家、ビジネス関係者までが座右に置いておくにふさわしい有用な事典となっている。近年刊行され入手可能な類書に『【新版】ラテンアメリカを知る事典』(平凡社 2013年 7,000円https://latin-america.jp/archives/5927)があるが、こちらは全般を事項の五十音順項目編と地域・国名編、資料・索引編で構成していて編集の問題意識が異なる故に、知りたい掘り下げたいニーズに応じて両事典を適宜使い分ければ、ラテンアメリカ全般についての知識の源泉となるのは間違いない。

〔桜井 敏浩〕

(丸善出版 2021年1月 736頁 20,000円+税 ISBN978-4- 621-30585-0 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2021年春号(No.1434)より〕