アンデス考古学の通史、入門書として1997年に出版された初版、2010年の改訂版(https://latin-america.jp/archives/5794 )の11年ぶりの新版。「自然環境と文化領域、編年」「最初のアメリカ人」「農耕と牧畜の発生」から始まり、「祭祀建造物の巨大化」と多様な地方文化の時代」「ティワナクとワリ」とシカンやチムー等の「王国の衝突」、最後に「アンデス最大の帝国-インカ」を解説し、理解を助ける編年表を載せた構成は変えていないが、随所に新たなデータを加え、場合によっては新しい解釈を示し、近年の新しい発見からもたらされたことを付け加えている。最新の動向も視野に入れた全般的な現代アンデス考古学の概論としての有用性もまた変わっていない。
序文で、ペルーのマクロ経済の発展により、ペルー人考古学者が調査資金を得て自前で研究調査やプロジェクト保存を企画・運営出来るようになり、研究成果の出版が頻繁に出来るようになったのがこの間の変化と述べているが、それによってこれまで外国人考古学者が提示してきた編年や社会像の変更(例えば、北海岸のモチェの国家像など)に繋がっているのは喜ばしいとしつつも、ややもすると自己主張が学術とナショナリズムの融合によってより強化され、学術的証拠がないまま地域や国家アイデンティティと結びつける議論が目立つようになった点は危惧するという指摘は一考に値する。
〔桜井 敏浩〕
(同成社 2021年12月 366頁 3,200円+税 ISBN978-4-8862-1877-3 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2022年春号(No.1438)より〕