『料理と人生』 マリーズ・コンデ - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『料理と人生』  マリーズ・コンデ 


 アフリカから拉致された黒人奴隷の末裔が多く住むカリブ海地域のフランス語圏文学は、クレオール文学と呼ばれわが国でもこの20年ほどの間かなり翻訳書が刊行されている。フランス領グアドループに生まれ裕福な家庭に育った著者は、10代半ばでフランスに渡って英文学を学び、ソルボンヌ大学で博士論文を書き上げた後にギニア人と結婚、西アフリカにフランス語教師として赴き、再婚した英国人のリシャールとともに後に作家として活動するとともに米国のコロンビア大学で比較文学を講じるなどしてきた。作家としての代表作には『生命の樹 ―あるカリブの家系の物語』(管 啓次郎訳、平凡社、2019年。本誌2020年春号で紹介)などがある。
 本書は代表的なクレオール文学者といっていいマリーズ・コンデが人生と文学、旅を語っているが(神経系の病気で手を使って書けなくなった彼女に代わりリシャールが口述筆記)、それらの共通項に常に料理があるのが表題のゆえんである。女中たちから料理を教わる台所が隠れ家だった娘時代の母国グアドループでの思い出、欧米、アフリカをはじめ何度も訪れた日本の焼き鳥や少量の料理が次々と供された懐石料理(と思われる)、ラテンアメリカではキューバのラムとコーラのカクテルのキューバ・リーブレ、故アジェンデ大統領と詩人パブロ・ネルーダの痕跡を訪れたチリではスパークリングワインなどについて、忌憚のない評価を交えて各地での料理について多く語られているが、フランス人でもアフリカ人でもなくカリブ人であると自負した世界的黒人女性作家による面目躍如の20編の自伝的回想録。

〔桜井 敏浩〕

(大辻 都訳 左右社 2023年7月 302頁 3,800円+税ISBN978-4-86528-377-8 )
〔『ラテンアメリカ時報』2024年春号(No.1446)より〕