執筆者:桜井悌司(ラテンアメリカ協会常務理事)
2024年1月30日に、恒例の「2023年世界腐敗認識指数」(CORRUPTION PERCEPTIONS INDEX 2023)(https://images.transparencycdn.org/images/CPI-2023-Report.pdf)が発表された。この調査は、ドイツに本部を置くNGOのトランスペアレンシー・インターナショナルが、世界の180ヶ国を対象に腐敗のランキングを公表するもので、1995年から始まったものである。腐敗認識指数は国際機関やシンクタンクのデータを基に腐敗度を100点満点で数値化したもので、高くなればなるほどクリーン度が高いことになる。世界の3分の2以上の国が50を下回っており、世界平均は43点となっている。また経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均の66点である。
表1の「世界腐敗認識ランキングにより、2023年度の調査結果をみると、デンマーク(90点)、フィンランド(87点)、ニュージーランド(85点)、ノルウエー(84点)、シンガポール(83点)、スウエーデン(82点)、スイス(82点)、オランダ(79点)、ドイツ(78点)、ルクセンブルグ(78点)がベスト10に入っている。これらの国々は、ほぼ常連の国である。欧州とりわけ北欧の4ヶ国が上位を占めている。その中にあって、ニュージーランドとシンガポールが、3位、5位と健闘している。日本は、16位で、2022年度年版の18位から順位を上げた。ちなみに香港は、75点で14位、台湾は、67点で28位、韓国は、63点で31位、中国は、42点で76位となっている。
表1 世界腐敗認識指数ランキング(2023年)
世界 | 得点 | 順位 | LAC | 得点 | |
1 | デンマーク | 90 | 1(16) | ウルグアイ | 74 |
2 | フィンランド | 87 | 2(24) | バルバドス | 69 |
3 | ニュージーランド | 85 | 3(29) | チリ | 66 |
4 | ノルウエー | 84 | 4(30) | バハマ | 64 |
5 | シンガポール | 83 | 5(37) | セント・ヴィンセントG | 60 |
6 | スウエーデン | 82 | 6(42) | ドミニカ | 56 |
6 | スイス | 82 | 7(45) | セント・ルシア | 55 |
8 | オランダ | 79 | 7(45) | コスタリカ | 55 |
9 | ドイツ | 78 | 9(49) | グレナダ | 53 |
9 | ルクセンブルグ | 78 | 10(69) | ジャマイカ | 44 |
11 | アイルランド | 77 | 11(76) | キューバ | 42 |
12 | カナダ | 76 | 11(76) | トリニダードT | 42 |
12 | エストニア | 76 | 13(87) | ガイアナ | 40 |
14 | オーストラリア | 75 | 13(87) | スリナム | 40 |
14 | 香港 | 75 | 13(87) | コロンビア | 40 |
16 | ベルギー | 73 | 16(98) | アルゼンチン | 37 |
16 | 日本 | 73 | 16(104) | ブラジル | 36 |
16 | ウルグアイ | 73 | 18(108) | ドミニカ共和国 | 35 |
19 | アイスランド | 72 | 18(108) | パナマ | 35 |
20 | オーストリア | 71 | 18(115) | エクアドル | 34 |
28 | 台湾 | 67 | 21(121) | ペルー | 33 |
31 | 韓国 | 63 | 22(126) | エルサルバドル | 31 |
35 | ポルトガル | 61 | 22(126) | メキシコ | 31 |
37 | スペイン | 60 | 24(133) | ボリビア | 29 |
58 | マレーシア | 50 | 25(136) | パラグアイ | 28 |
76 | 中国 | 42 | 26(155) | グアテマラ | 23 |
86 | ベトナム | 41 | 26(155) | ホンジュラス | 23 |
114 | タイ | 35 | 28(172) | ハイチ | 17 |
116 | インドネシア | 34 | 28(172) | ニカラグア | 17 |
143 | ロシア | 26 | 30(179) | ベネズエラ | 13 |
注: ( )内は世界における順位を表す。
表2と表3は、ラテンアメリカにおける腐敗度指数の過去5年間(コロナ前の2019年から最新の2023年まで)の順位と得点を示したものである。いくつかの特徴を紹介する。
今回の腐敗認識インデックス調査では、ラテンアメリカの30の対象国の内、世界平均の43点を上回っている国は、10ヶ国で、その内8ヶ国がカリブの人口少国である。その他の20ヶ国は平均以下である。
上位の国は、ウルグアイ(16位)がベスト20に、以下、バルバドス(24位)、チリ(29位)、バハマ(29位)がベスト30にランクインしているが、総じて、ラテンアメリカ諸国は、順位も得点も低いのが実情である。
最下位にランクされているのは、ベネズエラ(178位)、ハイチ(172位)、ニカラグア(172位)、ホンジュラス(154位)、グアテマラ(154位)である。
表2 ラテンアメリカ諸国の腐敗度指数の過去5年(2019~2023)のランキングの推移
国 名 | 世界順位
2023年 |
世界順位
2022年 |
世界順位
2021年 |
世界順位
2020年 |
世界順位
2019年 |
ウルグアイ | 16/180 | 14/180 | 21/180 | 21/180 | 21/180 |
バルバドス | 24/180 | 29/180 | 29/180 | 29/180 | 30/180 |
チリ | 29/180 | 27/180 | 27/180 | 25/180 | 26/180 |
バハマ | 30/180 | 30/180 | 30/180 | 30/180 | 29/180 |
セントヴィンセントG | 36/180 | 35/180 | 38/180 | 40/180 | 39/180 |
ドミニカ国 | 42/180 | 45/180 | 45/180 | 48/180 | 48/180 |
コスタリカ | 45/180 | 48/180 | 39/180 | 42/180 | 44/180 |
セントルシァ | 45/180 | 45/180 | 43/180 | 45/180 | 48/180 |
グレナダ | 49/180 | 51/180 | 52/180 | 52/180 | 51/180 |
ジャマイカ | 69/180 | 69/180 | 70/180 | 69/180 | 74/180 |
キューバ | 76/180 | 65/180 | 63/180 | 63/180 | 60/180 |
トリニダード&T | 76/180 | 77/180 | 82/180 | 86/180 | 85/180 |
ガイアナ | 87/180 | 85/180 | 87/180 | 83/180 | 85/180 |
コロンビア | 87/180 | 91/180 | 87/180 | 92/180 | 96/180 |
スリナム | 87/180 | 85/180 | 87/180 | 94/180 | 70/180 |
アルゼンチン | 96/180 | 94/180 | 96/180 | 76/180 | 66/180 |
ブラジル | 104/180 | 94/180 | 96/180 | 94/180 | 106/180 |
ドミニカ共和国 | 108/180 | 123/180 | 128/180 | 137/180 | 137/180 |
パナマ | 108/180 | 101/180 | 105/180 | 111/180 | 101/180 |
エクアドル | 115/180 | 101/180 | 105/180 | 92/180 | 93/180 |
ペルー | 121/180 | 101/180 | 105/180 | 94/180 | 101/180 |
エルサルバドル | 126/180 | 116/180 | 115/180 | 104/180 | 113/180 |
メキシコ | 126/180 | 126/180 | 124/180 | 124/180 | 130/180 |
ボリビア | 133/180 | 126/180 | 128/180 | 124/180 | 123/180 |
パラグアイ | 138/180 | 137/180 | 128/180 | 137/180 | 137/180 |
グアテマラ | 154/180 | 150/180 | 150/180 | 149/180 | 146/180 |
ホンジュラス | 154/180 | 157/180 | 167/180 | 157/180 | 146/180 |
ニカラグア | 172/180 | 167/180 | 164/180 | 159/180 | 161/180 |
ハイチ | 172/180 | 171/180 | 164/180 | 170/180 | 168/180 |
ベネズエラ | 178/180 | 177/180 | 177/180 | 176/180 | 173/180 |
表3 ラテンアメリカとカリブ海諸国の腐敗度指数の過去5年(2019年~202年)の得点の推移(100点満点)
国 名 | 2023年 | 2022年 | 2021年 | 2020年 | 2019年 |
ウルグアイ | 73 | 74 | 73 | 71 | 71 |
バルバドス | 69 | 65 | 65 | 64 | 62 |
チリ | 66 | 67 | 67 | 67 | 67 |
コスタリカ | 55 | 54 | 58 | 57 | 56 |
ジャマイカ | 44 | 44 | 44 | 44 | 43 |
キューバ | 42 | 45 | 46 | 47 | 48 |
トリニダード・トバゴ | 42 | 42 | 41 | 40 | 40 |
コロンビア | 40 | 39 | 39 | 39 | 37 |
アルゼンチン | 37 | 38 | 38 | 42 | 45 |
ブラジル | 36 | 38 | 38 | 38 | 35 |
ドミニカ共和国 | 35 | 32 | 31 | 28 | 28 |
パナマ | 35 | 36 | 36 | 35 | 36 |
エクアドル | 34 | 36 | 36 | 39 | 38 |
ペルー | 33 | 36 | 36 | 38 | 36 |
エルサルバドル | 31 | 32 | 34 | 36 | 34 |
メキシコ Mexico | 31 | 31 | 31 | 31 | 29 |
ボリビア | 29 | 31 | 30 | 31 | 31 |
パラグアイ | 28 | 28 | 30 | 28 | 28 |
グアテマラ | 23 | 24 | 25 | 25 | 26 |
ホンジュラス | 23 | 22 | 23 | 24 | 26 |
ニカラグア | 17 | 19 | 20 | 22 | 22 |
ハイチ | 17 | 17 | 20 | 18 | 18 |
ベネズエラ | 13 | 14 | 14 | 15 | 16 |
注)カリブ海諸国の人口少国のバハマ、セント・ヴィンセントG、ドミニカ国、セント・ルシア、グレナダ、ガイアナ、スリナムは省略した。
「2022年の結果との比較」
表4は「過去1年間でランクと得点を上げた国、下げた国」を表す。今回の調査と1年前の2022年の調査を比較すると、ランクを上げた国は、10ヶ国、下げた国は18ヶ国、変化のなかった国は4ヶ国となっている。
著しくランクを上げた国として、ドミニカ共和国を上げることができる。同国は、順位で15位を上昇させた。次いで、バルバドスが5位、コロンビアが4位、コスタリカ、ホンジュラス、ドミニカ国が3位、ランクを上げた。反対にランクを下げた国は、ペルーが、20位、エクアドルが14位、キューバが11位、ブラジルとエルサルバドルが10位、ランクを下げている。
表4 過去1年間(2022年~2023年)でランクと得点を上げた国、下げた国
ランクを上げた国 8ヶ国 | ランクを下げた国 18ヶ国 | 変化なし4ヶ国 |
ドミニカ共和国(+15・+3)、バルバドス(+5・+4)、コロンビア(+4・+1)、コスタリカ(+3・+1)、ホンジュラス(+3・+1)、ドミニカ国(+3・na)、グレナダ(+2・na)、トリニダードT(+1・0) | ペルー(-20・-3)、エクアドル(-14・-2)、キューバ(-11・-3)、ブラジル(-10・-2)、エルサルバドル(-10・-1)、パナマ(-7・-1)、ボリビア(-7・-2)、ニカラグア(-5・-2)、グアテマラ(-4・-1)、チリ(-2・-1)、ウルグアイ(-2・-1)、アルゼンチン(-2・-1)、パラグアイ(-1・0)、ハイチ(-1・0)、ベネズエラ(-1・-1)、ガイアナ(-1・na)、スリナム(-1・na)、セント・ヴィンセントG(-1・na) | メキシコ(0)、ジャマイカ(0)、バハマ(0)、セントルシア(0) |
注)( )内の最初の数字は、順位の上昇を表し、+はランクの上昇、-はランクを下落をあらわす。・の後の数字は得点の上下をあらわす。0は変化なし。
コロナ前の2019年と最新の2023年の過去5年間での変化をみると、ランクを上げた国が12ヶ国、下げた国が18ヶ国となっている。ここでも著しくランクアップした国をみるとドミニカ共和国が挙げられる。一気に29位もランクアップした。以下、トリニダードT、コロンビア(9位)、バルバドス、ドミニカ国(6位)、ウルグアイ、ジャマイカ(5位)、メキシコ(4位)と続く。
一方、ランクを大きく下げた国は、アルゼンチン(30位)、エクアドル(22位)、ペルー(20位)、スリナム(17位)、キューバ(16位)、エルサルバドル(13位)、ニカラグア(11位)、ボリビア(10位)である。
表5 過去5年間(2019年~2023年)でランクと得点を上げた国、下げた国
ランクを上げた国 12ヶ国 | ランクを下げた国 18ヶ国 |
ドミニカ共和国(+29・+7)、トリニダードT(+9・+2)、コロンビア(+9・+3)、バルバドス(+6・+7)、ドミニカ国(+6・na)、ウルグアイ(+5・+2)、ジャマイカ(+5・+1)、メキシコ(+4・+2)、セント・ヴィンセントG(+3・na)、セント・ルシア(+3・na)、ブラジル(+2・+1)、グレナダ(+2・na) | アルゼンチン(―30・-8)、エクアドル(-22・-4)、ペルー(-20・-3)、スリナム(-17・na)、キューバ(-16・-6)、エルサルバドル(-13・-3)、ニカラグア(-11・-5)、ボリビア(-10・-2)、パナマ(-8・-1)、グアテマラ(-8・-3)、ホンジュラス(-8・-3)、ベネズエラ(-5・-3)、ハイチ(-4・-1)、チリ(-3・-1)、ガイアナ(-2・na)、バハマ(-1・na)、コスタリカ(-1・-1)、パラグアイ(-1・0) |
今回の報告書の地域別ハイライトでは、米州について下記のようなコメントを記している。少し長くなるが、下記引用である。
「米州 米州の3分の2の国が腐敗認識指数で100点満点中50点未満であることから、米州は汚職との闘いにおいてかなりの課題を抱えていることがわかる。この地域における司法の独立性の欠如は、主な問題のひとつである。それは法の支配を弱体化させ、権力者や犯罪者の不処罰を助長し、国民と公益を害している。
ラテンアメリカとカリブ海諸国では、不透明性と不当な影響力のために、地域全体の多くの司法制度が、公平な方法で法律を効果的に適用したり、すべての十分に機能する民主主義国家の基本である、政府の他の部門に対するチェック機能を行使したりすることができない。
不処罰の意識と、検察官や裁判官が公平に裁判を進め、公正な裁判と法の下の平等を保証できないことが、司法に対する国民の信頼に大きく影響している。その結果、司法機関は腐敗し、信頼できず、安全でないと認識されるため、通報を抑制することになる。最も深刻な影響を受けるのは、女性、先住民、アフリカ系住民、性的マイノリティ、移民など、最も貧しく脆弱なグループである。
これらのグループは、司法を求める際にしばしば差別を経験する。アメリカ大陸は、司法を強化し、不処罰に取り組み、国境を越えた腐敗ネットワークの拡大に立ち向かうために、より強固で独立した司法を緊急に必要としている。また、司法・検察官の任免は、干渉を防ぐため、透明性があり、経験と実績に基づくものでなければならない。」
筆者は今までに4回にわたりこの関連の情報を取り上げてきた。2023年3月のレポートでは、左翼政権と腐敗の関係、ラテンアメリカでの腐敗をなくするにはどうすれば良いかについても触れている。
2020年2月「統計にみるラテンアメリカその2」
https://latin-america.jp/archives/41783
2022年3月 「世界腐敗認識指数2021年版」
https://latin-america.jp/archives/52135
2022年10月 「世界ランキング最新7調査に観るラテンアメリカ」
https://latin-america.jp/archives/54984
2023年3月「2023年世界腐敗認識指数について」
https://latin-america.jp/archives/57036
以 上