連載レポート129:桜井悌司「2023年世界腐敗認識指数ランキングとラテンアメリカ」 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載レポート129:桜井悌司「2023年世界腐敗認識指数ランキングとラテンアメリカ」


連載レポート129

2023年世界腐敗認識指数ランキングとラテンアメリカ

執筆者:桜井悌司(ラテンアメリカ協会常務理事)

「はじめに」

2024年1月30日に、恒例の「2023年世界腐敗認識指数」(CORRUPTION PERCEPTIONS INDEX 2023)(https://images.transparencycdn.org/images/CPI-2023-Report.pdf)が発表された。この調査は、ドイツに本部を置くNGOのトランスペアレンシー・インターナショナルが、世界の180ヶ国を対象に腐敗のランキングを公表するもので、1995年から始まったものである。腐敗認識指数は国際機関やシンクタンクのデータを基に腐敗度を100点満点で数値化したもので、高くなればなるほどクリーン度が高いことになる。世界の3分の2以上の国が50を下回っており、世界平均は43点となっている。また経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均の66点である。

表1の「世界腐敗認識ランキングにより、2023年度の調査結果をみると、デンマーク(90点)、フィンランド(87点)、ニュージーランド(85点)、ノルウエー(84点)、シンガポール(83点)、スウエーデン(82点)、スイス(82点)、オランダ(79点)、ドイツ(78点)、ルクセンブルグ(78点)がベスト10に入っている。これらの国々は、ほぼ常連の国である。欧州とりわけ北欧の4ヶ国が上位を占めている。その中にあって、ニュージーランドとシンガポールが、3位、5位と健闘している。日本は、16位で、2022年度年版の18位から順位を上げた。ちなみに香港は、75点で14位、台湾は、67点で28位、韓国は、63点で31位、中国は、42点で76位となっている。

表1 世界腐敗認識指数ランキング(2023年)

td順位
世界 得点 順位 LAC 得点
1 デンマーク 90 1(16) ウルグアイ 74
2 フィンランド 87 2(24) バルバドス 69
3 ニュージーランド 85 3(29) チリ 66
4 ノルウエー 84 4(30) バハマ 64
5 シンガポール 83 5(37) セント・ヴィンセントG 60
6 スウエーデン 82 6(42) ドミニカ 56
6 スイス 82 7(45) セント・ルシア 55
8 オランダ 79 7(45) コスタリカ 55
9 ドイツ 78 9(49) グレナダ 53
9 ルクセンブルグ 78 10(69) ジャマイカ 44
11 アイルランド 77 11(76) キューバ 42
12 カナダ 76 11(76) トリニダードT 42
12 エストニア 76 13(87) ガイアナ 40
14 オーストラリア 75 13(87) スリナム 40
14 香港 75 13(87) コロンビア 40
16 ベルギー 73 16(98) アルゼンチン 37
16 日本 73 16(104) ブラジル 36
16 ウルグアイ 73 18(108) ドミニカ共和国 35
19 アイスランド 72 18(108) パナマ 35
20 オーストリア 71 18(115) エクアドル 34
28 台湾 67 21(121) ペルー 33
31 韓国 63 22(126) エルサルバドル 31
35 ポルトガル 61 22(126) メキシコ 31
37 スペイン 60 24(133) ボリビア 29
58 マレーシア 50 25(136) パラグアイ 28
76 中国 42 26(155) グアテマラ 23
86 ベトナム 41 26(155) ホンジュラス 23
114 タイ 35 28(172) ハイチ 17
116 インドネシア 34 28(172) ニカラグア 17
143 ロシア 26 30(179) ベネズエラ 13

注: ( )内は世界における順位を表す。

「腐敗認識指数2023の結果にみるラテンアメリカ諸国の特徴」

表2と表3は、ラテンアメリカにおける腐敗度指数の過去5年間(コロナ前の2019年から最新の2023年まで)の順位と得点を示したものである。いくつかの特徴を紹介する。

今回の腐敗認識インデックス調査では、ラテンアメリカの30の対象国の内、世界平均の43点を上回っている国は、10ヶ国で、その内8ヶ国がカリブの人口少国である。その他の20ヶ国は平均以下である。

上位の国は、ウルグアイ(16位)がベスト20に、以下、バルバドス(24位)、チリ(29位)、バハマ(29位)がベスト30にランクインしているが、総じて、ラテンアメリカ諸国は、順位も得点も低いのが実情である。

最下位にランクされているのは、ベネズエラ(178位)、ハイチ(172位)、ニカラグア(172位)、ホンジュラス(154位)、グアテマラ(154位)である。

表2 ラテンアメリカ諸国の腐敗度指数の過去5年(2019~2023)のランキングの推移

国  名 世界順位

2023年

世界順位

2022年

世界順位

2021年

世界順位

2020年

世界順位

2019年

ウルグアイ 16/180 14/180 21/180 21/180 21/180
バルバドス 24/180 29/180 29/180 29/180 30/180
チリ 29/180 27/180 27/180 25/180 26/180
バハマ 30/180 30/180 30/180 30/180 29/180
セントヴィンセントG 36/180 35/180 38/180 40/180 39/180
ドミニカ国 42/180 45/180 45/180 48/180 48/180
コスタリカ 45/180 48/180 39/180 42/180 44/180
セントルシァ 45/180 45/180 43/180 45/180 48/180
グレナダ 49/180 51/180 52/180 52/180 51/180
ジャマイカ 69/180 69/180 70/180 69/180 74/180
キューバ 76/180 65/180 63/180 63/180 60/180
トリニダード&T 76/180 77/180 82/180 86/180 85/180
ガイアナ 87/180 85/180 87/180 83/180 85/180
コロンビア 87/180 91/180 87/180 92/180 96/180
スリナム 87/180 85/180 87/180 94/180 70/180
アルゼンチン 96/180 94/180 96/180 76/180 66/180
ブラジル 104/180 94/180 96/180 94/180 106/180
ドミニカ共和国 108/180 123/180 128/180 137/180 137/180
パナマ 108/180 101/180 105/180 111/180 101/180
エクアドル 115/180 101/180 105/180 92/180 93/180
ペルー 121/180 101/180 105/180 94/180 101/180
エルサルバドル 126/180 116/180 115/180 104/180 113/180
メキシコ 126/180 126/180 124/180 124/180 130/180
ボリビア 133/180 126/180 128/180 124/180 123/180
パラグアイ 138/180 137/180 128/180 137/180 137/180
グアテマラ 154/180 150/180 150/180 149/180 146/180
ホンジュラス 154/180 157/180 167/180 157/180 146/180
ニカラグア 172/180 167/180 164/180 159/180 161/180
ハイチ 172/180 171/180 164/180 170/180 168/180
ベネズエラ 178/180 177/180 177/180 176/180 173/180

 

表3 ラテンアメリカとカリブ海諸国の腐敗度指数の過去5年(2019年~202年)の得点の推移(100点満点)

国  名 2023年 2022年 2021年 2020年 2019年
ウルグアイ 73 74 73 71 71
バルバドス 69 65 65 64 62
チリ 66 67 67 67 67
コスタリカ 55 54 58 57 56
ジャマイカ 44 44 44 44 43
キューバ 42 45 46 47 48
トリニダード・トバゴ 42 42 41 40 40
コロンビア 40 39 39 39 37
アルゼンチン 37 38 38 42 45
ブラジル 36 38 38 38 35
ドミニカ共和国 35 32 31 28 28
パナマ 35 36 36 35 36
エクアドル 34 36 36 39 38
ペルー 33 36 36 38 36
エルサルバドル 31 32 34 36 34
メキシコ Mexico 31 31 31 31 29
ボリビア 29 31 30 31 31
パラグアイ 28 28 30 28 28
グアテマラ 23 24 25 25 26
ホンジュラス 23 22 23 24 26
ニカラグア 17 19 20 22 22
ハイチ 17 17 20 18 18
ベネズエラ 13 14 14 15 16

注)カリブ海諸国の人口少国のバハマ、セント・ヴィンセントG、ドミニカ国、セント・ルシア、グレナダ、ガイアナ、スリナムは省略した。

「2022年の結果との比較」

表4は「過去1年間でランクと得点を上げた国、下げた国」を表す。今回の調査と1年前の2022年の調査を比較すると、ランクを上げた国は、10ヶ国、下げた国は18ヶ国、変化のなかった国は4ヶ国となっている。

著しくランクを上げた国として、ドミニカ共和国を上げることができる。同国は、順位で15位を上昇させた。次いで、バルバドスが5位、コロンビアが4位、コスタリカ、ホンジュラス、ドミニカ国が3位、ランクを上げた。反対にランクを下げた国は、ペルーが、20位、エクアドルが14位、キューバが11位、ブラジルとエルサルバドルが10位、ランクを下げている。

表4 過去1年間(2022年~2023年)でランクと得点を上げた国、下げた国

ランクを上げた国 8ヶ国 ランクを下げた国 18ヶ国 変化なし4ヶ国
ドミニカ共和国(+15・+3)、バルバドス(+5・+4)、コロンビア(+4・+1)、コスタリカ(+3・+1)、ホンジュラス(+3・+1)、ドミニカ国(+3・na)、グレナダ(+2・na)、トリニダードT(+1・0) ペルー(-20・-3)、エクアドル(-14・-2)、キューバ(-11・-3)、ブラジル(-10・-2)、エルサルバドル(-10・-1)、パナマ(-7・-1)、ボリビア(-7・-2)、ニカラグア(-5・-2)、グアテマラ(-4・-1)、チリ(-2・-1)、ウルグアイ(-2・-1)、アルゼンチン(-2・-1)、パラグアイ(-1・0)、ハイチ(-1・0)、ベネズエラ(-1・-1)、ガイアナ(-1・na)、スリナム(-1・na)、セント・ヴィンセントG(-1・na) メキシコ(0)、ジャマイカ(0)、バハマ(0)、セントルシア(0)

注)( )内の最初の数字は、順位の上昇を表し、+はランクの上昇、-はランクを下落をあらわす。・の後の数字は得点の上下をあらわす。0は変化なし。

「過去5年で見ると」

コロナ前の2019年と最新の2023年の過去5年間での変化をみると、ランクを上げた国が12ヶ国、下げた国が18ヶ国となっている。ここでも著しくランクアップした国をみるとドミニカ共和国が挙げられる。一気に29位もランクアップした。以下、トリニダードT、コロンビア(9位)、バルバドス、ドミニカ国(6位)、ウルグアイ、ジャマイカ(5位)、メキシコ(4位)と続く。

一方、ランクを大きく下げた国は、アルゼンチン(30位)、エクアドル(22位)、ペルー(20位)、スリナム(17位)、キューバ(16位)、エルサルバドル(13位)、ニカラグア(11位)、ボリビア(10位)である。

表5 過去5年間(2019年~2023年)でランクと得点を上げた国、下げた国

ランクを上げた国 12ヶ国 ランクを下げた国 18ヶ国
ドミニカ共和国(+29・+7)、トリニダードT(+9・+2)、コロンビア(+9・+3)、バルバドス(+6・+7)、ドミニカ国(+6・na)、ウルグアイ(+5・+2)、ジャマイカ(+5・+1)、メキシコ(+4・+2)、セント・ヴィンセントG(+3・na)、セント・ルシア(+3・na)、ブラジル(+2・+1)、グレナダ(+2・na) アルゼンチン(―30・-8)、エクアドル(-22・-4)、ペルー(-20・-3)、スリナム(-17・na)、キューバ(-16・-6)、エルサルバドル(-13・-3)、ニカラグア(-11・-5)、ボリビア(-10・-2)、パナマ(-8・-1)、グアテマラ(-8・-3)、ホンジュラス(-8・-3)、ベネズエラ(-5・-3)、ハイチ(-4・-1)、チリ(-3・-1)、ガイアナ(-2・na)、バハマ(-1・na)、コスタリカ(-1・-1)、パラグアイ(-1・0)

「トランスパレンシー・インターナショナルによる地域別ハイライトの解説」

今回の報告書の地域別ハイライトでは、米州について下記のようなコメントを記している。少し長くなるが、下記引用である。

「米州 米州の3分の2の国が腐敗認識指数で100点満点中50点未満であることから、米州は汚職との闘いにおいてかなりの課題を抱えていることがわかる。この地域における司法の独立性の欠如は、主な問題のひとつである。それは法の支配を弱体化させ、権力者や犯罪者の不処罰を助長し、国民と公益を害している。

ラテンアメリカとカリブ海諸国では、不透明性と不当な影響力のために、地域全体の多くの司法制度が、公平な方法で法律を効果的に適用したり、すべての十分に機能する民主主義国家の基本である、政府の他の部門に対するチェック機能を行使したりすることができない。

不処罰の意識と、検察官や裁判官が公平に裁判を進め、公正な裁判と法の下の平等を保証できないことが、司法に対する国民の信頼に大きく影響している。その結果、司法機関は腐敗し、信頼できず、安全でないと認識されるため、通報を抑制することになる。最も深刻な影響を受けるのは、女性、先住民、アフリカ系住民、性的マイノリティ、移民など、最も貧しく脆弱なグループである。

これらのグループは、司法を求める際にしばしば差別を経験する。アメリカ大陸は、司法を強化し、不処罰に取り組み、国境を越えた腐敗ネットワークの拡大に立ち向かうために、より強固で独立した司法を緊急に必要としている。また、司法・検察官の任免は、干渉を防ぐため、透明性があり、経験と実績に基づくものでなければならない。」

「終わりに」

筆者は今までに4回にわたりこの関連の情報を取り上げてきた。2023年3月のレポートでは、左翼政権と腐敗の関係、ラテンアメリカでの腐敗をなくするにはどうすれば良いかについても触れている。

2020年2月「統計にみるラテンアメリカその2」
https://latin-america.jp/archives/41783

2022年3月 「世界腐敗認識指数2021年版」
https://latin-america.jp/archives/52135

2022年10月 「世界ランキング最新7調査に観るラテンアメリカ」
https://latin-america.jp/archives/54984

2023年3月「2023年世界腐敗認識指数について」
https://latin-america.jp/archives/57036

以   上