連載レポート147:桜井悌司「世界幸福度調査2025に見るラテンアメリカ」 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載レポート147:桜井悌司「世界幸福度調査2025に見るラテンアメリカ」


連載レポート147

世界幸福度調査2025に見るラテンアメリカ

執筆者:桜井悌司(ラテンアメリカ協会顧問)

「はじめに」

2025年3月20日、恒例の世界幸福度調査報告2025年版(World Happiness Report 2025)が発表された。毎年「国際幸福デー」(3月20日)に合わせて公表される。国連の支援を受けて、「持続可能な開発ソリューションネットワーク」(Sustainable Development Solution Network)によるものである。このレポートは、2012年に開始され、今年は14回目を迎えるが、昨年より3ヶ国増え世界の147ヶ国をカバーしている。

レポートは、260ページにおよび、開発論で世界的に有名なJeffrey Sachs, John F.Helliwell, Richard Layard, John-Emmanuel de Neve、Lara B.Atkin、Shun Wangの6名の錚々たるメンバーの協力の下で、「持続可能な開発ソリューションネットワーク」が作成したもので、世論調査で有名な「Gallup World Poll data」も関与している。

各国の国民に「どれくらい幸せと感じているか」を評価してもらった調査に加えて、1人当たりのGDP(GDP per capita) 社会的支援(Social Support)、健康寿命(Health Life Expectancy)、人生の選択の自由度(Freedom to make Life Choices)、寛容性の度合Generocity)、腐敗の認識(Perception of Corruption)といった要素をもとに幸福度を計るものとなっている。幸福度を最低のゼロから最高の10までの数字で表す。米ギャラップ社がまとめる調査データを、今回は英オックスフォード大学率いる国際チームが分析し、過去3年の平均から順位を算定したものである。

表1は、左側に今回の幸福度調査のベスト15の国のリストと得点、その他日本、スペイン、アジアの諸国の順位と得点、右側には、ラテンアメリカ諸国21カ国の順位と得点を示した。

上位に位置する国は、北欧諸国、欧州諸国がほとんどで、ベスト15の内10ヶ国が入っている。今回の調査で注目すべき点は、ラテンアメリカの2ヶ国、コスタリカ(6位)、メキシコ(10位)とベスト10に堂々ランクインに入っていることである。専門家によると、コスタリカとメキシコの順位の上昇の原因は、家族の絆の強さということである。欧州以外の国でベスト15に入っている国は、イスラエル(8位)、オーストラリア(11位)、ニュージーランド(12位)の5ヶ国のみである。日本はランクを4ポイント下げ、55位であった。日本は、2023年の47位を最高に振るわない。今後も、日本人の完璧主義、悲観主義的傾向、萎縮傾向、経済の低迷、格差の拡大等によって上位は望めないように思える。昨年の調査では、世代別の得点、順位を紹介していたが、今回は実施されなかった。

表1 2025年版世界幸福度調査報告書にみる世界ランキングと得点

世界順位 国名 得点 順位

LAC

国名 得点
1位 フィンランド(1) 7,736 ① 6位 コスタリカ 7.274
2位 デンマーク(2) 7.521 ② 10位 メキシコ 6.979
3位 アイスランド(3) 7.515 ③ 25位 ベリーズ 6.711
4位 スウエーデン(4) 7.345 ④ 28位 ウルグアイ 6.661
5位 オランダ(6) 7.306 ⑤ 36位 ブラジル 6.494
6位 コスタリカ(12) 7.274 ⑥ 37位 エルサルバドル 6.492
7位 ノルウエー(7) 7.262 ⑦ 41位 パナマ 6.407
8位 イスラエル(5) 7.234 ⑧ 42位 アルゼンチン 6.397
9位 ルクセンブルグ(8) 7.122 ⑨ 44位 グアテマラ 6.362
10位 メキシコ(25) 6.979 ⑩ 45位 チリ 6.361
11位 オーストラリア(10) 6.974 ⑪ 47位 ニカラグア 6.330
12位 ニュージーランド(11) 6.952 ⑿ 54位 パラグアイ 6.172
13位 スイス(9) 6.935 ⑬ 61位 コロンビア 6.004
14位 ベルギー(24) 6.910 ⑭ 62位 エクアドル 5.965
15位 アイルランド(21) 6.889 ⑮ 63位 ホンジュラス 5.964
38位 スペイン(36) 6.466 ⑯ 65位 ペルー 5.947
27位 台湾(31) 6.669 ⑰ 70位 トリニダードT 5.905
55位 日本(51) 6.147 ⑱ 73位 ジャマイカ 5.870
56位 韓国(52) 6.038 ⑲ 74位 ボリビア 5.868
68位 中国(60) 5.921 ⑳ 76位 ドミニカ共和国 5.846
81位 香港(74) 5.491 ㉑ 82位 ベネズエラ 5.683
  調査対象国 147     LAC調査対象国 21  

「ラテンアメリカ・カリブ諸国の幸福度は?」

ラテンアメリカ・カリブ海諸国のランキングは、表2と表3の通りであるが、コスタリカ、メキシコ、ベリーズ、ウルグアイ、ブラジル、エルサルバドル、パナマ、アルゼンチン、グアテマラ、チリがベスト10で、以下、ニカラグア、パラグアイ、ホンジュラス、ペルーと続き、ワースト5は、下からベネズエラ、ドミニカ共和国、ボリビア、ジャマイカ、トリニダードTとなっている。

表3を見ると世界ランキングの中でベスト30位に入っている国は。コスタリカ、メキシコ、ベリーズ、ウルグアイの4ヶ国で、50位までにランクされている国は、ブラジル、エルサルバドル、パナマ、アルゼンチン、グアテマラ、チリ、ニカラグアの7ヶ国である。

日本は、55位であることは前述したが、ラテンアメリカ・カリブ海諸国の対象国21か国で日本を上回るランクの国数は、12ヶ国となっている。

表3は、「はじめに」のところで紹介した具体的項目に従ったランキングである。1人当たりのGDP(GDP per capita) 社会的支援(Social Support)、健康寿命(Health Life Expectancy)、人生の選択の自由度(Freedom to make Life Choices)、寛容性の度合Generocity)、腐敗の認識(Perception of Corruption)、ポジテイブな感情(Positive Emotions)が含まれる。

表2は、コロナ前の2019年から2025年の過去7年間のランクの変化を表わす表である。表5は、2025年調査と前回の2024年調査でどのように上昇・下落の変化を示したものである。これによると、上昇した国は、8ヶ国でとりわけ、コロンビアが17ポイント、メキシコが15ポイント、エクアドルが12ポイント、ブラジルが8ポイント、コスタリカとアルゼンチンが6ポイント上昇させた。反対に下落した国は、チリ、ジャマイカ、ドミニカ共和国等11ヶ国となっている。表6は、過去7年間にどのようなランクの変化があったかを示す。これによると、上昇した国数は、7ヶ国、下落した国数は11か国、変化なしは1ヶ国となっている。

今回の調査の要旨(エグゼクティブサマリー)の欄でラテンアメリカについて触れているところが数か所あるので、それを紹介しよう。

「思いやりと分かち合いのもうひとつの重要な形は家族である。世帯人数が多く、家族の絆が強いという特徴を持つラテンアメリカの社会は、より高く持続可能なウェルビーイングを求める他の社会にとって、貴重な教訓を与えてくれる。」

「世帯のサイズと家族の絆が幸福とどう関係するか – 世界中のほとんどの人にとって、家族は喜びと支えの源である。メキシコとヨーロッパでは、4~5人の世帯が最も幸福度が高い。少なくとも1人の子どもと同居している夫婦、あるいは子どもや親戚のメンバーと同居している夫婦は、特に平均的な生活満足度が高い。」

「一人暮らしの人は幸福度が低いことが多い。大世帯の人々も幸福度が低くなることがあるが、これはおそらく経済的満足度の低下に関連している。- 世帯人数が多く、家族の絆が強いという特徴を持つラテンアメリカの社会は、人間関係の満足度を高め、全体的な幸福の指標や調査アプローチを改善しようとする他の社会にとって、貴重な教訓を与えてくれる。」

表2 ラテンアメリカ諸国の過去7年の順位の推移〈2018年~2025年〉

  2025 2024 2023 2022 2021 2020 2019
コスタリカ 6 12 23 23 16 15 12
メキシコ 10 25 36 46 36 24 23
ベリーズ 25
ウルグアイ 28 26 28 30 31 26 33
ブラジル 36 44 49 38 35 32 32
エルサルバドル 37 33 50 49 49 34 35
パナマ 41 39 38 37 41 36 31
アルゼンチン 42 48 52 57 57 55 47
グアテマラ 44 42 43 39 30 29 27
チリ 45 38 35 44 43 39 26
ニカラグア 47 43 45 55 46 45
パラグアイ 54 57 66 73 71 67 63
コロンビア 61 78 72 56 52 44 43
エクアドル 62 74 74 76 66 58 50
ホンジュラス 63 61 53 55 53 56 59
ペルー 65 68 75 74 63 63 65
トリニダードT 70
ジャマイカ 73 67 68 63 37 60 56
ボリビア 74 73 67 71 69 65 61
ドミニカ共和国 76 69 73 69 73 68 77
ベネズエラ 82 79 88 108 107 99 108
               
日本 55 51 47 54 56 62 58

表3ラテンアメリカの項目別採点 2025

順位 国名
6 Costa Rica 7,274 0.017 58 36 50 13 115 70 9
10 Mexico 6.979 -0.109 71 61 57 27 109 59 6
25 Belize 6.711 99 57 83 1 96 92 13
28 Uruguay 6.661 0.306 48 17 46 18 83 29 27
36 Brazil 6.494 -0.355 79 56 62 59 71 66 49
41 Panama 6.407 -0.736 93 38 41 44 124 116 3
42 Argentina 6.397 -0.166 38 21 52 47 112 75 28
44 Guatemala 6.362 0.397 131 94 84 22 106 74 2
45 Chile 6.361 -0.226 53 43 47 63 75 85 21
47 Nicaragua 6.330 0.823 112 60 98 39 82 17 14
54 Paraguay 6.172 0.393 110 32 72 30 84 105 5
61 Colombia 6.004 -0.412 105 55 66 73 131 110 15
62 Ecuador 5.965 0.100 84 97 76 70 122 91 10
63 Honduras 5.964 0.822 128 95 103 45 69 76 19
65 Peru 5.947 0.171 89 78 73 91 128 129 20
70 Trinidad T 5.905 -0.614 82 58 82 38 133 24
73 Jamaica 5.870 0.496
74 Bolivia 5.868 0.011 96 86 92 76 127 98 42
76 R.Dominicana 5.846 0.883 133 46 53 36 101 34 31
82 Venezuela 5.683 -1.356 97 89 102 88 36 35
                   
38 Spain 6.466 0.144 9 16 22 88 32 33 78
55 Japan 6.147 0.083 47 48 28 79 130 41 64

(注):①ライフ評価(3年平均) ②変化(2012年以降)③不平等 ④社会的支援 ⑤一人当たりGDP ⑥健康寿命 ⑦自由度 ⑧寛大さ ⑨腐敗に対する認識 ⑩ポジティブな感情

表4 上位30位・上位50内に入っているラテンアメリカ諸国名(2018年~2025年)

調査発表年 上位30国 上位

50国

国   名
2018年

調査

7 13 コスタリカメキシコチリパナマブラジルアルゼンチングアテマラ、ウルグアイ、コロンビア、トリニダードT、エルサルバドル、ニカラグア、エクアドル
2019年

調査

4 13 コスタリカメキシコ、チリ、グアテマラ、パナマ、ブラジル、ウルグアイ、エルサルバドル、トリニダードT、コロンビア、ニカラグア、アルゼンチン、エクアドル
2020年

調査

4 11 コスタリカメキシコウルグアイグアテマラ、ブラジル、エルサルバドル、パナマ、チリ、トリニダードT、コロンビア、ニカラグア、
2021年

調査

2 9 コスタリカグアテマラ、ウルグアイ、ブラジル、メキシコ、ジャマイカ、パナマ、チリ、エルサルバドル
2022年

調査

2 9 コスタリカウルグアイ、パナマ、ブラジル、グアテマラ、チリ、ニカラグア、メキシコ、エルサルバドル
2023年

調査

2 8 コスタリカウルグアイ、チリ、メキシコ、パナマ、グアテマラ、ブラジル、エルサルバドル
2024年

調査

3 10 コスタリカメキシコウルグアイ、エルサルバドル、チリ、パナマ、グアテマラ、ニカラグア、ブラジル、アルゼンチン
2025年

調査

4 7 コスタリカメキシコベリーズウルグアイ、ブラジル、エルサルバドル、パナマ、アルゼンチン、グアテマラ、チリ、ニカラグア

(注)下線のある国は30位以内、下線のない国は50位以内

表5 過去1年(2024年~2025年)のランキングの変化

上昇した国  8ヶ国 下落した国  11ヶ国
コロンビア(+17)、メキシコ(+15)、エクアドル(+12)、ブラジル(+8)、コスタリカ(+6)アルゼンチン(+6)、パラグアイ(+3)、ペルー(+3)、 チリ(-7)、ドミニカ共和国(-7)、ジャマイカ(-6)、エルサルバドル(-4)、ニカラグア(-4)、ベネズエラ(-3)、ウルグアイ(-2)、パナマ(-2)、グアテマラ(-2)、ホンジュラス(-2)、ボリビア(-1)

注:スリナムとトリニダードTは、2025年から調査の対象となった。

 

表6 過去7年(2019年~2025年)のランキングの変化

上昇した国 7ヶ国 下落した国  11ヶ国
ベネズエラ(+26)、メキシコ(+13)、パラグアイ(+9)、コスタリカ(+6)、ウルグアイ(+5)、アルゼンチン(+5)、ドミニカ共和国(+1) チリ(-19)、コロンビア(-18)、グアテマラ(-17)、ジャマイカ(-17)、ボリビア(-13)、エクアドル(-12)、パナマ(-10)、ブラジル(-4)、ホンジュラス(-4)、エルサルバドル(-2)、ニカラグア(-2)

注・ペルーは変化なし。スリナムとトリニダードTは、2025年から調査対象国になった。

「過去の世界幸福度調査の執筆状況」

当協会のホームページの「投稿欄」で、世界幸福度調査について掲載した原稿は下記の通りである。

連載レポート44 「統計に見るラテンアメリカ 世界幸福度ランキング」 2020年5月https://latin-america.jp/archives/43076

連載レポート85 「世界幸福度報告書2022とラテンアメリカ」  2022年4月https://latin-america.jp/archives/52514

連載レポート110 「世界幸福度調査2023に見るラテンアメリカ」2023年5月https://latin-america.jp/archives/57750

連載レポート 132:「世界幸福報告書2024にみるラテンアメリカ」2024年4月https://latin-america.jp/archives/61997

以   上