連載レポート153:桜井悌司「東京2025世界陸上におけるラテンアメリカ・カリブ諸国のメダリストたち」 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載レポート153:桜井悌司「東京2025世界陸上におけるラテンアメリカ・カリブ諸国のメダリストたち」


連載レポート 153

東京2025世界陸上におけるラテンアメリカ・カリブ諸国のメダリストたち

執筆者:桜井悌司(ラテンアメリカ協会顧問)

2025年9月13日より21日まで、代々木の国立競技場で「東京2025世界陸上」が開催された。今回の大会は、前売り券の販売も好調でTBSのテレビ放送を見ていても競技場は、ほぼ満席で大いに盛り上がった大会であった。期待に反して日本人選手の活躍は,銅メダル2個とにとどまったが、陸上競技の魅力について多くの日本人が実感した競技大会であった。

筆者も、1992年スペインのセビリャの小規模のスタジアムで開催された国際陸上大会で、100mのカール・ルイス、ベン・ジョンソン、棒高跳びのセルゲイ・ブブカの競技を身近に見たことがあるが、その迫力たるや物凄いものであった。

金銀銅のメダルの獲得ランキングは、表1の通りであるが、いくつかのコメントを下記に紹介する。

「全般的コメント」

  • 世界陸上東京大会におけるメダルの数は、金49、銀49、銅50の合計148個であった。たとえ銅メダルであっても、メダルを獲得することがいかに難しいことであるかがよく理解できるほど激烈な競技大会であった。
  • 米国は常に圧倒的な強さを示しているが、欧州諸国もオランダ、スペイン、スエーデン、ポルトガル、イタリア、ドイツと6ヶ国がベスト12入りしている。
  • アジアの国々は、世界陸上においては、振るわない。中国は銀2、銅2の4メダル、韓国は、銀1、日本は銅2で終わった。世界一の人口大国インドに至っては、存在感すらない。
  • 陸上の種目によって、強みのある国・地域がよくわかる。例えば、ケニア、ボツアナ等のアフリカ諸国は、陸上の中長距離、マラソン等の種目で頭角をあらわす。一方短距離では、ジャマイカ等のカリブ海諸国は、強味を発揮している。

「ラテンアメリカ・カリブ海諸国の活躍についてのコメント」

  • 2025世界陸上東京大会では、ラテンアメリカ・カリブ海諸国の選手は、金メダル5個、銀メダル15個、銅メダル10個を獲得した。メダル総数148個のうち約20%にあたる30個を獲得したことになる。前回の2023ブダペスト大会では、金5、銀11、銅9の合計25個であったので、それを上回った。
  • 国別にみてみると、ジャマイカの活動が際立っている。金1、銀6、銅3の合計10個のメダルを獲得した。他に金メダルを獲得した国は、ブラジル、トリニダード・トバゴ、キューバ、エクアドルを加え合計5ヶ国となった。
  • 金メダルを獲得した選手は下記の通りである。

*何と言っても陸上の華である男子100mで堂々金メダルに輝いたジャマイカのオブリク・セビル選手を挙げることができる。かのウサイン・ボルトも勝利を確信していた。この種目の銀メダルも同じくジャマイカのキ゚シェーン・トンプソンであった。

*女子三段跳びで、この地域の選手が金銀銅を独占したのは大なるサプライズであった。金メダルはキューバのレジャニス・ペレス・エルナンデス、銀メダルはドミニカ国のシーア・ラフォンド、銅メダルはベネズエラのユリマル・ロハスであった。

*男子競歩ではブラジルのカイオ.ボンフィンが20m競歩で金、35km競歩で銀メダルと2つのメダルを勝ち取った。

*やり投げでは、男女ともに大健闘であった。トリニダード・トバゴのケショーン・ウォルコットが男子部門で金メダル、グレナダのアンダーソン・ピータースが銀メダルであった。 女子部門では日本の北口選手がまさかの予選落ち終わったが、三つ巴の激戦の末、エクアドルのユレイシー・アングロが優勝に輝いた。

*興味あることは、カリブ海の小国であるドミニカ国(人口6.6万人)からは三段跳びで銀メダルのシーア・ラフォンド選手、グレナダ(人口11.7万人)からは、男子やり投げで銀メダルのアンダーソン・ピータース選手、セントルシア(18.3万人)からは、女子100mで銅メダルを獲得したジュリアン・アルフレッド選手が活躍したことである。

南米の小国ウルグアイ(人口339万人)のジュ―リア・パテルナイン選手が女子マラソンで銅メダルを獲得したのも驚きであった。

*「女子4×100mリレー」と「女子4×400mリレー」ではジャマイカが米国に次ぐ2位であった。「男子4×100mリレー」ではメダルが期待されたが、バトンミスで決勝に進めなかった。

表1 東京2025世界陸上における国別メダル獲得ランキング

順位 国  名 合計
1位 米国 16(12) 5(8) 5(9) 26(29)
2位 ケニア 7(3) 2(3) 2(4) 11(10)
3位 カナダ 3(4) 1(2) 1(0) 5(6)
4位 オランダ 2(2) 2(1) 2(2) 6(5)
5位 スペイン 2(4) 0(1) 1(0) 3(5)
5位 ニュージーランド 2(0) 0(0) 1(0) 3(0)
5位 ボツワナ 2(0) 0(1) 1(1) 3(2)
5位 スウエーデン 2(2) 0(1) 1(0) 3(3)
9位 ポルトガル 2(0) 0(0) 0(0) 2(0)
10位 ジャマイカ 1(3) 6(5) 3(4) 10(12)
11位 イタリア 1(1) 3(2) 3(1) 5(4)
12位 ドイツ 1(0) 3(0) 1(0) 5(0)
13位 ブラジル 1(0) 2(0) 0(1) 3(1)
14位 トリニダード・トバゴ 1(0) 1(0) 0(0) 2(0)
16位 キューバ 1(0) 0(1) 2(2) 3(3)
17位 エクアドル 1(0) 0(1) 1(0) 2(1)
24位 メキシコ 0(0) 2(0) 0(0) 2(0)
27位 ドミニカ国 0(0) 1(0) 0(0) 1(0)
27位 ドミニカ共和国 0(1) 1(0) 0(0) 1(1)
27位 グレナダ 0(0) 1(0) 0(1) 1(1)
27位 プエルトリコ 0(0) 1(1) 0(0) 1(1)
41位 コロンビア 0(0) 0(1) 1(0) 1(1)
41位 ウルグアイ 0(0) 0(0) 1(0) 1(0)
41位 セント・ルシア 0(0) 0(0) 1(0) 1(0)
41位 ベネズエラ 0(1) 0(0) 1(0) 1(1)
           
40位 日本 0(1) 0(0) 2(1) 2(2)
27位 韓国 0(0) 1(0) 0(0) 1(1)
22位 中国 0(0) 2(0) 2(2) 4(2)
           
メダル数   49(50) 49(48) 50(50) 149(148)

「注」( )内の数字は、2023ブダペスト世界陸上の成績を表わす。

ラテンアメリカ・カリブ海諸国のメダリスト・リスト
「短距離・中距離・長距離・リレー」

「男子100m」

金メダル オブリク・セビル   ジャマイカ  9.77秒

銀メダル キ゚シェーン・トンプソン ジャマイカ  9.82秒

「男子200m」

銅メダル ブライアン・レベル  ジャマイカ   19.64秒

「男子400m」

銀メダル ジェームズ・リチャーズ トリニダード・トバゴ 43.72秒
女子100m

銀メダル ティナ・クレイトン  ジャマイカ  10.76秒

銅メダル ジュリアン・アルフレッド セントルシア 10.81秒

女子200m

銅メダル シェリカ・ジャクソン  ジャマイカ  22.18秒
女子400m

銀メダル マリレデイ・.パウリノ  ドミニカ共和国 47.98秒

「女子4×100mリレー

銀メダル ジャマイカ  41.79秒  金は米国、銅はドイツ

(Shelly-Ann Fraser-Pryce    Tia Clayton   Tina Clayton   Jenielle Smith)
女子4×400mリレー

銀メダル ジャマイカ  3分19.25秒 金は米国、銅はオランダ

(Dejanea Aakley  Stacey Ann Williams  Andrenette Knight  Nickisha Pryce)

「ハードル・障害」
「男子110mハードル」

銀メダル オーランド・ベンネット  ジャマイカ  13.08秒

銅メダル タイラー・メイソン    ジャマイカ  13.12秒

「男子400mハードル」

銀メダル アリソン・ドス・サントス ブラジル   46.84秒

「マラソン・競歩」
男子20km競歩

金メダル カイオ.ボンフィン ブラジル  1時間18分35秒
男子35km競歩

銀メダル カイオ・ボンフィン ブラジル 2時間28分16秒

女子20km競歩

銀メダル アレグナ・ゴンサレス メキシコ  1時間26分06秒

女子35km競歩

銅メダル パウラ・ミレーナ・トーレス エクアドル 2時間42分44秒

「女子マラソン」

銅メダル ジュ―リア・パテルナイン ウルグアイ 2時間27分23秒

「跳躍」
「男子走り幅跳び」

銀メダル タジェイ・ゲイル ジャマイカ 8.34m,-0.1

「男子三段跳び」

銅メダル ラサロ・マルティネス キューバ  17.49m,+0.0

「女子走り幅跳び」

銅メダル ナタリア・リナレス コロンビア 6.92m,+0.5

「女子三段跳び」

金メダル レジャニス・ペレス・エルナンデス キューバ 14.94m,-0.3

銀メダル シーア・ラフォンド ドミニカ国 14.89m,+1.0

銅メダル ユリマル・ロハス ベネズエラ 14.76m,+0.3

「投てき」

「男子砲丸投げ」

銀メダル ウジェール・ムニョス メキシコ 21.97m

「男子やり投げ」

金メダル ケショーン・ウォルコット トリニダード・トバゴ  88.16m

銀メダル アンダーソン・ピータース グレナダ   87.38m

「女子円盤投げ」

銅メダル シリンダ・モラレス  キューバ  67.25m

「女子やり投げ」

金メダル  ユレイシー・アングロ  エクアドル  65.12m

「混成(十種、七種)
銀メダル OWENS-DELERME Ayden プエルトリコ  8784点

追加情報;スペインとポルトガルのメダリストたち

「スペイン」

女子20km競歩 金メダル マリア・ぺレス  1時間25分54秒

女子35km競歩 金メダル マリア・ぺレス  2時間39分01秒

男子20km競歩 銅メダル パウロ・マクグラス  1時間18分45秒
「ポルトガル」

男子1500m  金メダル イサク・ナデル 3分34,10秒

男子三段跳び 金メダル ペドロ.ピサルト 17.91m +0.5

なお名前の表示は、大会ホームページやTBS等の表示に従った。
過去に執筆した関連レポートは下記の通り。

「オリンピック・ゴールド・メダリスト」  2021年7月
https://latin-america.jp/archives/49001

「東京オリンピック2020とラテンアメリカ・カリブ諸国のメダル獲得状況」2021年
https://latin-america.jp/archives/49661

「2024年パリ・オリンピックでのラテンアメリカ・カリブ海諸国による金銀銅メダルの獲得状況」 2024年9月
https://latin-america.jp/archives/63562

以   上