連載レポート101: 桜井悌司「日本でスペイン語学習人口を増加させるには」 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載レポート101: 桜井悌司「日本でスペイン語学習人口を増加させるには」


連載レポート101

「日本でスペイン語学習人口を増加させるには」

執筆者:桜井悌司(ラテンアメリカ協会常務理事)、NPO法人イスパニカ文化経済交流協会理事長)

さる2022年7月11日(月)に日西クラブの例会が開催された。2度にわたってセルバンテス・インスティトゥートの東京所長を務めあげたビクトル・ウガルテ氏が、今度ロンドンに転勤するというので歓送会を兼ねたものであった。ウガルテ氏は、記念の講演として「La lengua española en Japón, ocio o negocio. El valor económico del español」(日本におけるスペイン語、趣味かビジネスか。スペイン語の経済価値)というタイトルで極めて興味深いプレゼンテ―ションを行った。同氏は、その中で、欧米諸国や中国、インドなどでは、スペイン語を学ぶ動機として、ビジネスの観点を重視する傾向にあるが、日本人の場合、ビジネス(Negocio)というよりむしろOcio (余暇、暇つぶし、趣味、気晴らし、Pleasure)の観点から学ぶ傾向にあり、そのことがスペイン語を学ぶ人口の伸び悩みに繋がっている と説明した。筆者も同感で、今後スペイン語を学ぶ人口を増加させるには、スペインのみならず、イスパノアメリカの魅力を訴え、従来の文化面重視からビジネス面重視に少しずつシフトすることが重要と考えている。本稿では、その講演も参考にしながら、日本でスペイン語の学習人口をもっと増やすにはどうすればよいかを筆者個人の経験も含めて考えてみたい。ここでの意見は筆者個人の見解である。

「スペイン語の重要性」

おさらいの意味でスペイン語の重要性について触れてみる。セルバンテス・インスティトゥーㇳによれば、世界にスペイン語を話す人口は、5億7200万人で、母国語とする人口は4億7700万人である。また国際連合の6つの公用語の1つであることも遍く知られている。10数年前に英国のBritish Councilが発表したところでは、「英語に次ぐ重要な言語」で堂々2位になっている。またインターネットで調べると、2013年に英国で「これから将来的に重要となる第2言語」として、アラビア語、フランス語、中国語を押さえ、第1位となっている。また留学情報の専門会社であるシュミット・インターナショナル・リロケーションズ社によれば、人気のある言語のランキングは、英語、スペイン語、フランス語、ドイツ語、イタリア語の順番で、ここでも英語に次ぐ地位を占めている。これらの調査の背景には、アメリカ大陸を含めたスペイン語の人口規模から見て重要という判断に結びついているものと考えられる。

「セルバンテス・インスティトゥートの世界的ネットワーク」

セルバンテス・インスティトゥートは、スペイン政府がスペイン語とスペイン語圏の文化の普及を目的として1991年に創設した組織である。現在、全世界に76ヵ所の拠点を構えており、その内訳は北米4か所、南米7カ所、欧州36カ所、中近東4か所、アフリカ12か所、アジア&オセアニア10カ所となっている。その中でも東京センターは世界最大のセンターとして、2007年9月に設立された。その図書館の名前にフェデリコ・ガルシア・ロルカの名前が付けられていることからも東京の施設の重要性が理解できる。最も重要な活動の一つは、ヨーロッパ共通参照枠(CEFR)に基づいたスペイン語の普及で、スペイン語コースの運営、スペイン語教員の育成コースの運営、DELE(スペイン語認定証)やスペイン語講師養成コースなども行っている。
「日本におけるスペイン語学習人口は」

このレポートを執筆するにあたり、一体、日本でスペイン語を学んでいる人口がどれくらいかということに関心を持ち、インターネット等で調べたが、ほとんどヒットしない。ウガルテ氏の講演では、2万人以上という大雑把な数字であったが、実際はもっともっと多いと考えられる。

1)高校におけるスペイン語教育の現状
データは古いが、文部科学省の教育課程部会の外国語ワーキンググループのまとめた資料(平成28年3月、2016年)によると、全国の高校での英語以外の外国語のコースを解説している高校は、次の表の通りである。2014年時点では、全国109校で教えられており、徐々に学校数が増加していることがわかる。データが古いので、最近の動向は不明である。

言語名 2005年 2007年 2009年 2012年 2014年
中国語 549 574 580 542 517
ハングル語 284 313 306 318 333
フランス語 247 268 246 222 222
スペイン語 104 103 107 100 109
ドイツ語 103 111 103 106 107

2014年におけるスペイン語コースを持っている高校数は、下記の通り。

高校の事業主体 高校数 学習者数
公立高校 82 2588
私立高校 26 736
国立高校 59
合計 109 3383

インターネット検索で調べると、東京都では、都立国際高校、都立晴海総合高校、都立つばき総合高校、都立三田高校等、神奈川県では、神奈川県立保土ヶ谷高校、神奈川県立横浜国際高校等の名前が出てくる。

2)日本の大学でスペイン語を専攻とする学科を持つ大学

ざっとインターネットで調べたところ、必ずしも正確ではないが、下記の20の大学が検索された。もちろん、これらの大学以外にほとんどの大学では、優先度や重視度は異なるにしても、第2・3外国語としてスペイン語を教えているものと考えられる。では日本の大学で第1外国語、第2外国語、第3外国語としてスペイン語を学んでいる学生人口はどれくらいであろうか? インターネットで調べても検索できない。日本の文部科学省、日本イスパニア学会等には外国語別の学習者人口を調査してもらいたいものだ。
表1 日本の大学でスペイン語学科ないしはそれに準ずるコースを持っている大学名と学部名

① 国公立大学(あいうえお順)

大学名 学部名 大学名 学部名
愛知県立大学 外国語学部 静岡県立大学 国際関係学部
大阪大学 外国語学部 東京外国語大学 言語文化学部
神戸市外国語大学 外国語学部    

②私立大学(あいうえお順)

大学名 学部名 大学名 学部名
神奈川大学 外国語学部 拓殖大学 外国語学部
関西外国語大学 外国語学部 中京大学 国際教養学部
神田外語大学 外国語学部 帝京大学 外国語学部
京都外国語大学 外国語学部 天理大学 国際学部
京都産業大学 外国語学部 常葉大学 外国語学部
上智大学 外国語学部 南山大学 外国語学部
清泉女子大学 文学部 立教大学 異文化コミュニケーション学部
摂南大学 外国語学部    

3)日本でスペイン語を教えている大手の語学学校

資格タイムズというサイトが公表している大手の語学学校は、下記の通りである。これら以外に数多くのスペイン語を教える施設があると考えられる。
表2「資格タイムズ」に見るスペイン語教室ランキング

順位 教室名 順位 教室名
1位 ベルリッツ 7位 デイラ国際語学アカデミー
2位 NOVA 8位 アイザック外国語スクール
3位 バークレーハウス語学センター 9位 Instituto Cervantes
4位 ECC外語学院 10位 横浜スペイン語センター
5位 Langland 11位 リベラルテ
6位 日本スペイン語センター 12位 リングアクラブ

4)DELEとスペイン語技能検定試験の受験者数と合格者数は?

日本にはスペイン語の資格試験は2つ存在する。1つは、公益財団法人日本スペイン協会が行うスペイン語技能検定試験であり、文部科学省の後援を得ている。試験は、1級(プロ級)、2級(最上級)、3級(上級)、4級(中級)、5級(初級)、6級(入門)がある。もう一つは、セルバンテス・インスティトゥートが行うDELE試験で、上からC2(最上級)、C1(上級)、B2(中上級)、B1(中級)、A2(初級)、A1(入門)となっている。一体何人くらい受験し、合格しているかが知りたいところであるが、両組織とも受験者数、合格者数を公表していない。スペイン語の学習者を増加させるには、これらのデータが必須であるが、残念なことである。例えば、過去5年、10年の受験者数、合格者数を把握できれば、スペイン語学習人口を増加させるための様々なアイデアが出てくるものと思われる。

公表されている数字としては、独立行政法人国際観光振興機構(JNTO)が行っている国土交通省の通訳案内業の試験がある。英語、フランス語、スペイン語、ドイツ語、イタリア語、ポルトガル語、ロシア語、中国語、韓国・朝鮮語、タイ語の10言語について行われている。過去5年の主要5言語での受験者数と合格者数は下記表の通りである。スペイン語は、世界における重要性にも拘らず、主要5言語の中で、受験者数、合格者数ともに最下位である。コロナによる影響は全ての言語に影響しているが、世界で2番目に重要とされているスペイン語試験の受験者数・合格者が、2020年が129人、5人、2021年が117人,⒔人というのは寂しい数字である。せめて、英語、中国語に次ぐ地位を獲得してもらいたいところである。スペイン語の普及に携わっている人は、この数字の意味を真剣に考えて欲しいものだ。

表3  過去5年の主要5言語の通訳案内業試験の受験者数、合格者数 単位:人

年度 西語 英語 仏語 中国語 韓国・朝鮮語
2017 236

36

7978

1304

316

62

1228

143

376

53

2018 193

23

5764

584

284

33

776

162

300

29

2019 190

18

5505

505

262

21

707

154

269

17

2020 129

3951

410

178

421

29

150

15

2021 117

13

2955

251

134

25

343

25

103

15

合計

合格率

865

95

11.0

26153

3054111.7

914

150

16.4

3475

513

14.8

1198

129

10.8

「日本ではスペイン語は、ビジネスの観点からではなく趣味・Pleasureとして学習されているのか」

前述のウガルテ氏の指摘はうなずけるものがある。以下、様々なデータを紹介しよう。

1)スペインの魅力
スペインの魅力は限りない。一度でも訪問すれば、そのほとんどがスペインに魅了される。

国連の専門機関である世界観光機構によるコロナ以前の2019年のデータによればフランスに次ぐ2位の観光大国で、年間8351万人がスペインを訪問する。歴史的にも、ローマ時代、イスラム支配の時代、レコンキスタの時代、大航海時代、植民地支配時代と多様性に富んでいる。文化面でも、セルバンテスを筆頭に数多くの小説家・詩人を輩出している。ノーベル文学賞でもスペインから5名が輩出している。絵画の面では、エル・グレコ(ギリシャ生まれだが)に始まり、ベラスケス、ムリーリョ、ゴヤ、最近では、ピカソ、ダリ、ミロ等、建築では誰もが知っているガゥディがいる。従来のイメージである闘牛、フラメンコに加え、サッカーのリーガは世界的に有名である。従って、スペイン語を学びたい学生の多くが、スペインの魅力と関連して、Ocio (余暇、暇つぶし、趣味、気晴らし、Pleasure)の観点から学ぶという実態は十分に理解できるところである。

一方でスペイン語を専攻する意欲的な学生に聞いてみると、将来はスペイン語を使って海外で仕事をしたいと言う。彼らはできれば、スペインで仕事をしたいと考えているのであろう。しかし、スペイン語を使って海外で活躍したいということであれば、ビジネスセンスも少しは必要である。スペインのみならず圧倒的にスペイン語人口を持つ、北米、中南米にも目を向けることが大切である。

2)スペイン語を話す主要国は?

外務省のデータからスペイン語を話す1000万人以上の国をリストアップしてみると下記の表の通りである。スペインは1位ではなく、3位で、4位のアルゼンチンと競っているのである。もう一つ重要なポイントを理解する必要がある。それは米国に住むヒスパニック系住民の存在である。正確な統計はないが、一説によると5000万人以上と言われ、アフリカ系を凌駕している。出生率が高いので年々人口が増加しており、将来はヒスパニック系の大統領も誕生する可能性もあると言われている。カリフォルニア州、テキサス州、フロリダ州、ニューヨーク市などには多数のヒスパニック系住民が多い。下記の人口表でみると、堂々第2位か第3位に躍り出るのだ。欧米や中国、インドでスペイン語を学ぼうとする人口が多くなっているのはヒスパニックの存在もあると考えられる。

スペイン語を教える人やスペイン語の普及に尽力する人は、この点を重視しなければならない。彼らは、Spanglishというスペイン語と英語を交えたスペイン語を話すが、Spanglishについての研究もより積極的に行ったほうが良い。この間の事情は、メヒココンサルの瀧澤寿美雄氏が詳しい。ご関心のある方は、ラテンアメリカ協会のホームページの「投稿欄」のレポートコーナーの連載レポート16「ヒスパニックを考える」、連載レポート78「新スペイン語の逆襲~米国ヒスパニックが用いるスパングリッシュは定着するか?」を参照のこと。

順位 国  名 人  口
1位 メキシコ 1億2601万人
  米国のヒスパニック系住民数 5000~6000万人
2位 コロンビア 5127万人
3位 スペイン 4708万人
4位 アルゼンチン 4538万人
5位 ペルー 3297万人
6位 ベネズエラ 2795万人
7位 チリ 1921万人
8位 エクアドル 1776万人
9位 グアテマラ 1660万人
10位 ボリビア 1151万人
⒒位 キューバ 1148万人
12位 ドミニカ共和国 1073万人

出所:外務省のホームページ

3)スペインに対する日本人、イタリア人、フランス人の態度

ウガルテ氏は、プレゼンテーションの中で下記の表を紹介した。2020年の調査であるが、スペインに対する関心の動機である。あらゆる項目でイタリア、フランスの方が地理的に近いせいか、日本よりスペインに対する関心が高いと言えよう。またビジネスに関係する「投資する」、「働く」がイタリアやフランスが日本の数字より上回っていることがわかる。

イタリアとフランスと比較で見る「日本におけるスペインに対する態度」2020年調査

項 目 日本 イタリア フランス
訪問する 66 79 72
勉強する 64 64 64
買い物する 61 73 71
住む 58 61 61
投資する 54 69 56
働く 53 60 57

「ではどうすれば日本におけるスペイン語人口を増加させることができるか」

では、ここで一体どうすれば、日本におけるスペイン語学習人口を増加させることができるのかについて考えてみよう。スペイン語を教えている人、スペイン語圏の文化・歴史・政治。経済・社会等について大学等で教えている人(以上の人々を関係者と称する)は何をなすべきかという視点から考えてみる。

大学の教員にとって、専門分野の研究、論文・レポートの執筆と教職活動は重要な2つの業務である。日本の少子高齢化によって、ますます学生数が減少することになるとみられる。とすると大学生の第2外国語・第3外国語の選択競争になる。中国語、フランス語、ドイツ語、韓国・朝鮮語等との競争になることが予想される。競争に敗れると関係者のポストの減少につながることになろう。以下いくつかの重要なポイントを紹介しよう。

1)スペイン語の地位を向上させる努力をする

すでにいくつかの例で、紹介したが、日本の大学の歴史や考え方等も関係し、欧米と比べて、日本ではスペイン語の地位が低いように思える。言いかえれば欧米と比べ、スペイン語の重要性が過小評価されているということである。高校における第2外国語では、中国語、ハングル語、フランス語に後れをとっているし、大学の第2外国語でも、フランス語、中国語、ドイツ語はどこの大学でもあるが、スペイン語を教えている大学は、それらの言語と比較して少ない。通訳案内業の受験者数や合格者数も英語、中国語、韓国・朝鮮語、フランス語に及ばない。他方、スペイン語に対する海外の評価は前述のように非常に高い。日本の関係者は、海外でのスペイン語の評価の高さなどを日本の大学等の教育機関に積極的にアピールし、第2外国語としてのスペイン語の更なる導入を推進することが望まれる。

ウガルテ氏はそのプレゼンテーションで下記のスライドを紹介した。この中で興味深い点は、ネイテイブスピーカーの数では、これら4か国語の中では、北京語に続く2位であること、総数では英語⒖億人の英語、⒒億人の北京語と比べると数少ないが、スペイン語は5.7億人とフランス語の2.1倍近い数字である。一方、英語、フランス語は外国語として世界で多く学ばれていることが理解できる。

表 スペイン語、英語、フランス語、北京語の話者の比較

  スペイン語 英語 フランス語 北京語
ネイテイブスピーカー 477百万人 378百万人 76百万人 909百万人
ネイテイブスピーカー+外国語として話す人口 572百万人 1,500百万人 274百万人 1,092百万人

2)コロナ終息後の留学交流の対応策を考える

2020年初めに新型コロナウイルスの感染が広まり、現在、第7波を迎えている。現在に至るも、終息の兆しは見えない。コロナの影響は、国際交流に甚大な影響を及ぼしている。留学生の派遣や受け入れが激減したし、授業もリアルからオンラインになり、直接の対面コミュニケーションの機会も激減した。このことは言語の普及にとっては、大きな問題である。

関係者は、コロナが終息する前に、留学交流をいかに回復させるかを真剣に検討しておく必要がある。留学交流をおざなりにすると、日本のダイナミズムが失われ、日本の国際化、グローバリゼーションの低迷につながることを十分に理解すべきである。留学先は、スペインの大学のみならずラテンアメリカの大学も考慮すべきである。

3)スペインとイスパノアメリカの教育バランスをとる

前述のように、スペインの魅力は絶大であるが、ビジネスをより重視し、スペイン語人口の増加を図ると言う観点から、少しずつイスパノアメリカ重視路線にシフトしていき、出来れば、スペイン50、イスパノアメリカ50くらいのバランスに持っていくことが望まれる。

誤解の無いように言っておくが、魅力あるスペインの話を減らすということではなくて、従来の文化・歴史・スポーツ等に加え、経済的・ビジネス的な話も追加する。さらに、イスパノアメリカの持つ多様性も学生に積極的に紹介するということである。スペイン帰りの人の多くは、スペインに魅了されるが、ラテンアメリカでも同様で、メキシコ、ブラジル、チリ、アルゼンチン等から帰国した人は、それらの国々に魅了される。ブラジル大好き人間は「ブラキチ」と呼ばれ、アルゼンチン好きの人は「アル中」と呼ばれていることでも理解できよう。ラテンアメリカの人種、気候、地理、歴史、文化の多様性は、スペイン同様に魅力に満ちている。また鉱物資源、農牧林業資源にも恵まれ、日本とは補完関係にある産業構造も魅力的である。イスパノアメリカにもノーベル文学賞受賞者数は、6名を数えるし、建築の世界でも有名なブリツカー賞を受賞している建築家もラテンアメリカには4名もいる。サッカーの世界でも、ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイは複数回優勝している。世界遺産数ではスペインは世界3位の44を数えるが、メキシコも6位で33件、ブラジルは⒒位で19件、ペルーは21位で12件を誇っている。インカ、マヤ、アステカ等の文化遺産に加え、イグアスの滝,ガラパゴス等自然遺産では抜きんでている。

さらにラテンアメリカの魅力ある点は、日系人の存在である。海外日系人協会によれば、全世界には250万人の日系人がいるが、ラテンアメリカにはその84%の210万人が在住している。ブラジルに190万人、ペルーに10万人、アルゼンチンに6.5万人、メキシコに2万人等々である。彼らはそれぞれの国々であらゆる分野で活躍している。日本語、スペイン語、ポルトガル語を交えて、個性豊かな日系人と楽しく語り合うのは大変魅力的なことでである。

スペイン一辺倒からイスパノアメリカ・ラテンアメリカを加えた2刀流に変身し、それによって、OcioからNegocioのスペイン語に変えていくという発想を提案したい。

 4)スペイン語教育法をもっと研究し、日本人に合った最も効率的な日本式教授法を見つける   従来のスペイン語教育法でよいのか?

スペイン語教育法については、下記の付録のエピソードで紹介したように、筆者は、十分な知識や見識を持ち合わせていない。

スペインや欧州には、CEFR(ヨーロッパ共通参照枠)があり、その基準にしたがって語学教育がなされる。日本もその方式でスペイン語教育を行えば、世界でも即戦力になるのであろうが、実際は、なかなか難しそうだ。インターネットで検索すると、関西大学の寸田知恵先生が2010年に「日本のスペイン語における授業内容の標準化の必要」という論文を執筆し、CEFR方式をそのまま導入することは難しいとその間の事情について述べられている。おそらくどこの大学でもそれぞれ独自の教科書を使用していると思われるので、教科書の良し悪しによって左右されることにもなろう。したがって、教科書の点検から始めるべきである。次にスペイン語を教える先生は、自己流に教えるのではなく、インスティトゥト・セルバンテスとか、スペイン語教育に定評のある欧米の有名な大学とか、有名な語学学校での教授法など、ベストの教授法を模索し、吸収する努力をすべきであろう。

 5)学生たちが楽しくスペイン語を学べる雰囲気つくりを

新型コロナウイルスの蔓延による悪影響は甚大であるが、反面大いにプラスになった面もある。オンラインICTやSNSの活用力の大幅アップによって、ZOOM等を活用して、スペイン語圏の人々と直接会話ができるようになったことだ。今では大学や多くの組織でオンラインのセミナーや講座が開催されている。コロナ以前、スペイン語圏からの訪日者は増加の一途をたどっていたが、それでもスペイン語圏からの訪日は少なかった。2019年の訪日者数で見ると、スペインからは130、243人、メキシコからは71,745人、ブラジルからは47,575人、その他南米からは63,525人で、対象地域からの訪日者は全体訪日外国人数の1,2%程度である。日本でスペイン語を話そうとしてもなかなか難しいのである。スペイン語を勉強するからには、スペイン語圏の人々と会話し、交流したいと考えるのは当然であろう。

要するにコロナ禍を逆手に取って、ICTやSNSを最大限に活用して、日本でもスペイン語を使う機会、スペイン語話者と繋がる環境を大学や先生方が整えることである。インスティトゥート・セルバンテスの2021年のレポートによると、世界には約2,400万人のスペイン語学習者がいると言う。米国、ブラジル、欧州、アフリカに学習者が多い。必ずしもスペイン語ネイティブ者でなくても、世界のスペイン語学習者と繋がり、共通の目的やスペイン語を語る喜びを共有するということも考えられる。

スペイン語圏の人々とのオンライン交流会や欧米のスペイン語学習者とともに受ける授業等を組織することにより、日本の学生が楽しみながら、スペイン語を学ぶようにするのである。そのような方法をとると、スペイン語のスピーキング能力も伸びるし、異文化理解力も深化するものと思われる。コロナ禍、留学に行けない学生のためにも、スペインやメキシコ等のイスパノアメリカの大学生とのオンライン文化交流会を積極的に進めるべきであろう。関西の4つの大学ではスペイン語教師が合同で企画し、すでにメキシコの大学との間でオンライン交流会を行っているとのことである。このような動きが東京及び全国に広がりを見せれば素晴らしいことである。読解力と作文力とヒアリングは自分でできるが会話力は相手がいるのである。

 6)学生のスペイン語向上意欲を高める教員とは

筆者が大学でスペイン語を専攻し、学び始めた時には、大変魅力的な先生がおられた反面、首を傾げたくなる教師もいた。性格が暗く、スペイン人の持つ楽観的な雰囲気も全く無いような先生、声が小さくて一列目に座らないと聞こえない先生、アンチョコのノートを毎年読み上げて、筆記させる音声学の先生等々である。学生もそのような先生の元では今一やる気が起こらないであろう。

大学の教員には、研究発表をする仕事と教職の仕事があることは前述したが、教職については、学生にさらに一層、スペイン語を勉強する意欲を持たせるようにする必要がある。では、スペイン語の先生にふさわしい性格・資質をどんなものであろうか? 下記に記してみたい。理想のスペイン語教員像と考えていただいて結構であるが、少しずつ理想形に近づいてもらいたいものだ。これらの資質は、スペイン語の先生のみならずあらゆる言語の先生にも当てはまるが、特にスペイン語の先生には強調したいところである。

  1. 性格が明るいこと。ユーモアのセンスを持つ人
  2. スペイン人、ラテン系のようにどちらかと言うと楽観的な性格を持つこと
  3. 声が大きいこと(声の小さな人はスペインやラテンの国々では不利になることが多い)
  4. 教えることに情熱を持つ人(学生にスペイン語の魅力を訴え続けられる人)
  5. スペインのみならずラテンアメリカの多様性についての知識を持ち、両地域の魅力を語れる人
  6. 広い視野を持ち、世界におけるスペイン語、スペイン語圏の文化、スポーツ、政治、経済、ビジネスを語れる人
  7. 学生が将来世界に打って出る意気込みを持つように指導する人

これらの性格・資質を備えることは非常に難しいことであるが、少なくともそれらに近づこうとする努力が必要である。

7)社会人のスペイン語学習熱を高めるには

今まで大学を中心にスペイン語学習者を増やす方法を考えてきたが、社会人、高齢者、後期高齢者にもスペイン語の魅力をアピールすることが必要である。以下いくつかのアイデアを提案する。

  1. スペインやラテンアメリカ駐在員候補やその家族にスペイン語をしっかり教える。
  2. 駐在員にしっかりスペイン語を学習してもらい、現地社会で、日本人や日本文化等について広報し、多数のアミーゴを作れば、帰国後もスペイン語学習を勧める応援団になるものと考えられる。
  3. 米国に駐在した日本人ビジネスマン、とりわけ、ニューヨーク、カリフォルニア、テキサス、フロリダで仕事をした日本人はスペイン語の浸透度につき身をもって体験していることであろう。駐在中でも帰国後でも一念発起して、スペイン語を学習してもらうというのはいかがであろうか? 彼らは、通常の人よりモチベーションが高いので上達も早いものと考えられる。彼らを探し出し、気軽に受け入れる大学や語学学校が出てきてもらいたいものだ。「米国からの帰国者のためのスペイン語講座」等を開設するのだ。
  4.  米国やスペイン以外のヨーロッパに留学した日本人の中には、スペインやラテンアメリカから来た学生と友人になった人もいるだろう。彼らの明るさや積極性に触発されてスペイン語を学んでみようと考える人も結構いるものと思われる。彼らがチャンスを逃さず勉強すれば上達も早いであろう。
  5. 音楽やスポーツ等を通じて、スペイン語を学ぶ方法も考える。一部サッカーで使用されるスペイン語を学ぼうというクラスもあるが、これらの動きを強化する。ラテンアメリカでは、日本のアニメを通じて日本語を学ぶ人々が増加している。
  6.  スペイン語で日本文化を学び、紹介するというようなクラスを設ける。訪日するスペイン語圏の人々や在日のスペイン語圏の人々に、日本文化、生活、社会等等について紹介できるようなクラスをつくる。受講者にとっては、スペイン語のみならず、日本文化も学習でき、スペイン語ネィティブとの会話を楽しめることになる。機会があれば、浅草、上野、両国等を一緒の回るツアーもお勧めである。
  7.  少子高齢化の日本では、高齢者や後期高齢者に大いにスペイン語を学んでもらうという発想はいかがだろうか? 2022年9月の敬老の日を前に公表された総務所のデータによると、65歳以上の高齢者人口は3627万人で日本の総人口の30%弱に達する。またWHOによると、日本人男女の平均寿命は4で堂々世界一であるが、スペインは83,2歳で4位、イタリアは83.0歳で7位となっている。筆者は常々、ラテンの人々は「人生を楽しむために長生きする」、それに反して日本人は「長生きするために長生きする」と紹介している。高齢になっても外国語を勉強すると脳の活性化に繋がるし、好奇心も出てくる、ひいては、「人生を楽しむ達人」であるスペイン人やラテン系民族のノウハウも取得できよう。要するに言語に加え、生活習慣や文化も含めたクラスにするのである。スペイン語はイタリア語と同様、母音の多い言葉であり、必然的に大きな声で話す言語である。またスペイン語を学ぶ仲間との交流も始まり、残りの人生をいかに楽しむかについての意見交換も可能となろう。そしてさらに長生きするという話である。高齢者や後期高齢者がスペイン語を学び始めれば、子供や孫にも語学の学習意欲を持たせることも可能である。まさに“Everybody is happy.”、“Win-Win”の世界である。

以上、勝手な意見を列挙したが、関係者はそれぞれ日本においてスペイン語人口を増やすにはどうすればよいかを考えていただくことを期待したい。

以   上

付録:私の関西外国語大学時代のエピソード

ジェトロを2008年3月に退職し、2008年4月から大阪府枚方市にある関西外国語大学の教授として教鞭をとることになった。関西外国語大学は日本最大の外国語大学で、学生数は13,000名に達する。英語学科とスペイン語学科の2学科であるが、中国語も重視している。1学年のスペイン語学科の学生数は300名で、合計1,200名がスペイン語を専攻している。この数字は、他大学のスペイン語専攻学生数と比較すると驚くべき数字である。外国語学部スペイン語学科の所属で、2015年3月まで7年間勤務し、70歳で退職した。1週間に8コマの授業を受け持った。スペイン語の授業が4コマ、ラテンアメリカ概論的な授業が4コマであった。ラテンアメリカに関する授業は、メキシコ、チリ、ブラジルに⒑年以上駐在したこともあって、特に問題はなかったが、スペイン語の授業には正直苦労したものだ。もちろん教科書があり、それにしたがって淡々と進めて行けばいいのだが、それぞれの先生の個性もあり、これがなかなか難しい。最初の年、ようやく全授業が終了した時には、正直ホットした。ところが、期末に行われる学生による先生の評価で、2名の学生から、「先生を変えて欲しい」とコメントされたことにはガックリしたものだ。さすがに2年目からそういうコメントは無くなったが、語学を教えることは簡単ではないことを思い知った。

関西外国語大学では新入生のクラス分けは英語の試験によって行われるのであるが、その後何年か経った時に、私の担当は、12~⒔クラスの内、8番目のクラス(ス8)に当たった。中位以下の学生たちである。2人の先生が1クラスを担当することになっており、N先生が文法を私が演習を受け持ったのだが、不思議なことに、そのクラスから卒業生の総代が2名出たのである。1学年300人からの3名のみの選抜であるので、価値あるものと言える。筆者の教授法は今一であったが、学生の能力を最大限に伸ばしたいという情熱は、N先生ともども強く持っていたのが功を奏したものと思われる。大学の寮が隣接していたこともあり、長時間研究室に滞在していたので、常に研究室を開放していた。研究室にやって来る学生からの質問には常に快く応じたし、希望者には会話教室なども行った。また、枚方市は大阪と京都の中間地点にあり、学生の希望者を誘って京都の観光スポット見学なども度々組織した。70歳までの7年間であったが、懐かしく良い思い出として記憶に残っている。その後、ラテンアメリカ協会等のホームページにもいくつかの思い出を寄稿しているので、下記に紹介する。

中短期留学で成果を出すには 前編
https://latin-america.jp/archives/45135

中短期留学で成果を出すには 後編
https://latin-america.jp/archives/45579

私のラテンアメリカ教授法①
https://nipo-brasil.org/archives/11574

私のラテンアメリカ教授法②
https://nipo-brasil.org/archives/11719

人生を楽しみ長生きする方法
https://latin-america.jp/archives/42679

新しいラテンアメリカ人材を求めて
https://latin-america.jp/archives/39074

大学ランキング2022年版から読み取れるラテンアメリカ高等教育の特性
ラテンアメリカ協会→研究所→研究所出版物・関連資料(2022年8月9日)

以   上