執筆者:桜井悌司(ラテンアメリカ協会常務理事)
今年も5月3日の「世界報道の自由デー」に「世界報道の自由指数2023」(World Press Freedom Index 2023)が発表された。パリに本部を置く「国境なき記者団」が2002年より開始したもので、今年も世界180カ国を対象としている。
国境なき記者団によれば、「報道の自由とは、個人および集団としてのジャーナリストが、政治的、経済的、法的、社会的干渉を受けず、身体的・精神的安全に対する脅威がない状態で、公共の利益のためにニュースを選択、制作、普及する能力を指す」と定義している。
この定義に基づき、報道の自由に関するアンケートとマップは、5つの明確なカテゴリーまたは指標(政治的背景、法的枠組み、経済的背景、社会文化的背景、安全)に分類されている。指標を評価するパネルは、国際的に著名なジャーナリズムの専門家7名より成り立っている。
この指数によると、世界の報道の自由を5つのカテゴリーに分けている。すなわちGood(良好)、Satisfactory(満足) 、Problematic(問題あり)、Difficult(困難) 、Very serious(非常に深刻)である。2023年の指数によると、対象180ヶ国のうち、良好が8ヶ国、満足が44ヶ国、問題ありが55ヶ国、困難が42ヶ国、非常に深刻が31ヶ国となっている。要するに世界のジャーナリズムを取り巻く環境は、平均すると10カ国中7カ国が「悪い」、10カ国中3カ国だけが「満足」という状況である。
いつもながら上位に位置する国は欧州諸国で、下記表1の通り、ベスト10は全て欧州諸国である。アジア諸国では、1位は台湾で35位、2位は韓国で47位、日本は3位で68位となっている。日本は2022年の調査では、71位であったが、3ポイント上昇した。最低ラインに位置する国・地域は、香港(140位)、中国(179位)、最下位の北朝鮮(180位)である。
ラテンアメリカについては後述する。
表1 世界報道の自由指数2023による世界とラテンアメリカ・カリブ諸国のランキング
世界順位 | 国名 | 得点 | LA順位 | 国名 |
1位 | Norway | 95.18 | 23/180 | Costa Rica |
2位 | Ireland | 89.91 | 30/180 | Trinidad T |
3位 | Denmark | 89.48 | 32/180 | Jamaica |
4位 | Sweden | 88.15 | 40/180 | Argentina |
5位 | Finland | 87.94 | 43/180 | Dominican R. |
6位 | Netherlands | 87 | 48/180 | Suriname |
7位 | Lithuania | 86.79 | 51/180 | Belize |
8位 | Estonia | 85.31 | 52/180 | Uruguay |
9位 | Portugal | 84.49 | 60/180 | Guyana |
10位 | Liechtenstein | 84.47 | 69/180 | Panama |
15位 | Canada | 83.53 | 80/180 | Ecuador |
21位 | Germany | 81.91 | 83/180 | Chile |
24位 | France | 78.79 | 92/180 | Brazil |
26位 | United Kingdom | 78.51 | 99/180 | Haiti |
27位 | Australia | 78.24 | 103/180 | Paraguay |
35位 | Taiwan | 75.54 | 110/180 | Peru |
36位 | Spain | 75.37 | 115/180 | Ecuador |
45位 | USA | 71.22 | 117/180 | Bolivia |
47位 | Korea | 70.83 | 127/180 | Guatemala |
68位 | Japan | 63.95 | 128/180 | Mexico |
140位 | Hong Kong | 44.86 | 139/180 | Colombia |
164位 | Russia | 34.77 | 158/180 | Nicaragua |
179位 | China | 22.99 | 159/180 | Venezuela |
180位 | North Korea | 21.72 | 169/180 | Honduras |
172/180 | Cuba |
2023年のラテンアメリカ諸国の上位ランキングについては、表1の通りである。これを5つのカテゴリーに分類すると下記の表2となる。「良好」のカテゴリーに入る国は0で、「満足すべき」は、コスタリカ、トリニダード・トバゴ、ジャマイカ、アルゼンチン、ドミニカ共和国、スリナム、ベリーズ、ウルグアイの8ヶ国、「問題あり」のカテゴリーには、ガイアナ、パナマ、エクアドル、チリ、ブラジル、ハイチ、パラグアイの7ヶ国、「困難」には、ペルー、エルサルバドル、ボリビア、グアテマラ、メキシコ、コロンビアの6ヶ国、最悪の「非常に深刻」には、ニカラグア、ベネズエラ、ホンジュラス、キューバの4ヶ国が入っている。
表2 ラテンアメリカ諸国の評価
評 価 | 得 点 | 該当国 | 国数 |
良好good | 85点~100点 | None | 0 |
満足すべきsatisfactory | 70点~85点 | Costa Rica, Trinidad & T,
Jamaica, Argentina, Dominican Rep. Suriname, Belize, Uruguay |
8 |
問題ありproblematic | 55点~70点 | Guyana, Panama, Ecuador, Chile
Brazil, Haiti, Paraguay |
7 |
困難
difficult |
40点~55点 | Peru, El Salvador, Bolivia,
Guatemala, Mexico, Colombia |
6 |
大変深刻
very serious |
0点~40点 | Nicaragua, Venezuela, Honduras,
Cuba |
4 |
次に表3に基づき、2023年調査の総合点及び部門別得点をみてみよう。これを見ると、それぞれの国の強み、弱みが大まかに理解できる。総合点と比べ、対象の5部門の得点が上回っているか、下回っているかを調べたところ、下記のようになった。総合点の上昇に貢献している部門は社会文化面と法制度面で、反対に上昇の足を引っ張っている部門は、経済面と政治面であることが理解できる。安全面は均衡している。
政治 | 経済 | 法制度 | 社会文化 | 安全 | |
総合点より上回っている国数 | 10 | 4 | 17 | 22 | 13 |
総合点より下回っている国数 | 15 | 21 | 8 | 3 | 12 |
表3 2023年調査における総合及び部門別得点
国 名 | ① 総合 | ② 政治 | ③ 経済 | ④ 法制度 | ⑤ 社会文化 | ⑥ 安全 |
Costa Rica | 80.2 | 65.94 | 70.59 | 85.93 | 87.97 | 90.50 |
Trinidad & T | 76.54 | 71.25 | 60.78 | 64.15 | 92.05 | 94.44 |
Jamaica | 75.89 | 67.75 | 71.37 | 68.49 | 86.59 | 85.24 |
Argentina | 73.36 | 75.25 | 49.8 | 90.66 | 76.42 | 74.27 |
R.Dominicana | 71.88 | 71.48 | 52.45 | 76.53 | 76.42 | 82.5 |
Suriname | 70.62 | 63.15 | 60.78 | 47.14 | 90.91 | 91.11 |
Belize | 70.49 | 61.48 | 53.92 | 68.11 | 79.55 | 88.89 |
Uruguay | 70.33 | 62.73 | 55.08 | 78.73 | 74.9 | 80.2 |
Guyana | 67.5 | 54.69 | 58,82 | 59.43 | 79.83 | 84.72 |
Panama | 63.67 | 57.6 | 51.63 | 64.47 | 64.77 | 80.0 |
Ecuador | 60.51 | 60.52 | 61.6 | 70.13 | 61.55 | 48.76 |
Chile | 60.09 | 70.8 | 47.48 | 65.09 | 65.58 | 51.49 |
Brazil | 58.36 | 55.79 | 52.59 | 72.44 | 76.22 | 36.3 |
Haiti | 57.38 | 59.38 | 48.18 | 69.95 | 73.38 | 36.02 |
Paraguay | 55.96 | 57.06 | 42.16 | 70.85 | 61.25 | 48.51 |
Peru | 52.74 | 57.99 | 42.81 | 63.94 | 56.94 | 42.0 |
El Salvador | 51.36 | 38.13 | 41.47 | 55.85 | 49.32 | 72.03 |
Bolivia | 51.09 | 46.53 | 45.72 | 60.12 | 56.4 | 46.68 |
Guatemala | 48.12 | 42.68 | 40.09 | 64.15 | 57.58 | 36.15 |
Mexico | 47.98 | 55.38 | 47.35 | 66.32 | 47.16 | 23.68 |
Colombia | 45.23 | 55.63 | 35.05 | 64.1 | 37.37 | 34.01 |
Nicaragua | 37.09 | 35.81 | 45.49 | 28.21 | 44.32 | 31.65 |
Venezuela | 36.99 | 34.89 | 35.74 | 34.82 | 38.53 | 40.96 |
Honduras | 32.48 | 40.0 | 33.33 | 39.94 | 22.37 | 27.61 |
Cuba | 29.0 | 32.43 | 35.73 | 14.36 | 29.94 | 32.14 |
Spain | 75.37 | 72.12 | 60.33 | 78.74 | 83.13 | 82.51 |
Japan | 63.95 | 55.75 | 56.32 | 66.39 | 58.86 | 81.99 |
注:①Global score ②Political indicator ③Economic indicator ④Legislative indicator ⑤Sociocultural indicator ⑥Security indicator
次いで、新型コロナウイルスの感染以前の2019年から現在に至る5カ年でランクがどのように上昇・下降したかを見てみよう。
まず、表5によって2022年と2023年の比較をみると、急激にランクを上げた国は、ベリーズ(26)、ブラジル(18)、ボリビア(9)、コロンビア(6)、パナマ(5)等が挙げられる。反対にランクを落とした国は、ペルー(33)、ハイチ(27)、ガイアナ(26)、ジャマイカ(20)、コスタリカ(15)、ドミニカ共和国(12)、アルゼンチン(11)、エクアドル(11)、ウルグアイ(8)、パラグアイ(7)、トリニダードT(5)等である。
次に、新型コロナウイルス発生前の2019年から2023年までのランキングの浮き沈みを表6でみよう。5年間でランクの上昇した国は、アルゼンチン(17)、エクアドル(17)、ドミニカ共和国(13)、ブラジル(13)、パナマ(10)、トリニダードT(9)等8ヶ国のみである。
反対にランクの下がった国は、ニカラグア(44)、チリ(37)、ハイチ(35)、エルサルバドル(34)、ウルグアイ(33)、スリナム(28)、ペルー(25)、ジャマイカ(24)、メキシコ(16)、コスタリカ(13)、グアテマラ(11)、コロンビア(10)等14ヶ国に及んでおり、かつ下げ幅が極端である。
表4 過去5年の世界ランクの推移(2019年~2023年)
LA順位 | 国 名 | 世界ランク
2023 |
世界ランク
2022 |
世界2021 | 世界
2020 |
世界
2019 |
1位 | Costa Rica | 23/180 80.2 | 8/180 85.92 | 5位 | 7位 | 10位 |
2位 | Trinidad & T | 30/180 76.54 | 25/180 78.68 | 31位 | 36位 | 39位 |
3位 | Jamaica | 32/180 75.89 | 12/180 83.35 | 7位 | 6位 | 8位 |
4位 | Argentina | 40/180 73,36 | 29/180 77.28 | 69位 | 64位 | 57位 |
5位 | R.Dominicana | 42/180 71.88 | 30/180 76.90 | 50位 | 54位 | 55位 |
6位 | Suriname | 48/180 70.62 | 52/180 68.79 | 19位 | 20位 | 20位 |
7位 | Belize | 51/180 70.49 | 77/180 70.67 | 53位 | 53位 | 53位 |
8位 | Uruguay | 52/180 70.33 | 44/180 72.03 | 18位 | 19位 | 19位 |
9位 | Guyana | 60/180 67.5 | 34/180 76.41 | 30位 | ― | ― |
10位 | Panama | 69/180 63,67 | 74/180 62.76 | 77位 | 76位 | 79位 |
11位 | Ecuador | 80/180 60.51 | 69/180 64.61 | 91位 | 98位 | 97位 |
12位 | Chile | 83/180 60.09 | 82/180 60.61 | 54位 | 51位 | 46位 |
⒔位 | Brazil | 92/180 58.36 | 110/18055.36 | 111位 | 107位 | 105位 |
14位 | Haiti | 97/180 57.38 | 70/180 64.55 | 87位 | 83位 | 62位 |
⒖位 | Paraguay | 103/180 55.96 | 96/180 58.36 | 100位 | 100位 | 99位 |
16位 | Peru | 110/180 52.74 | 77/180 61.75 | 91位 | 97位 | 85位 |
17位 | El Salvador | 115/180 51.36 | 112/18054.09 | 82位 | 74位 | 81位 |
18位 | Bolivia | 117/180 51.09 | 126/180 47.58 | 110位 | 114位 | 113位 |
19位 | Guatemala | 127/180 48.12 | 124/180 47.94 | 116位 | 116位 | 116位 |
20位 | Mexico | 128/180 47.98 | 127/180 47.57 | 143位 | 143位 | 144位 |
21位 | Colombia | 139/180 45.23 | 145/180 42.43 | 134位 | 130位 | 129位 |
22位 | Nicaragua | 158/180 37.09 | 160/180 37.09 | 121位 | 117位 | 114位 |
23位 | Venezuela | 159/180 36.99 | 159/180 37.76 | 148位 | 147位 | 148位 |
24位 | Honduras | 169/180 32.43 | 165/180 34.61 | 151位 | 148位 | ― |
25位 | Cuba | 172/180 29 | 173/180 7.30 | 171位 | 171位 | 169位 |
Japan | 68/180 63.95 | 71/180 64.37 | 67位 | 66位 |
表5 2022年比でランクが上昇した国、下降した国のリスト
ランクが上昇した国 | ランクが下降した国 |
Belize(26),Brazil(18),Bolivia(9),
Colombia(6),Panama(5),Suriname(4), Nicaragua(2),Cuba(1) |
Peru(33),Haiti(27),Guyana(26),Jamaica(20),
Costa Rica(15),Dominican R.(12),Argentina (11),Ecuador(11),Uruguay(8),Paraguay(7), Trinidad T(5),Honduras(4),El Salvador(3), Guatemala(3),Chile(1),Mexico(1) |
( )内は上下したランク数
表6 コロナ以前の2019年比でランクが上昇した国、下降した国(2019年~2023年)
ランクが上昇した国 | ランクが下降した国 |
Argentina(17),Ecuador(17),Dominican R.(13),Brazil(13),Panama(10),Trinidad T(9),Paraguay(4)、Belize(2)
|
Nicaragua(44),Chile(37),Haiti(35),El Salvador(34),Uruguay(33),Suriname(28 )
Peru(25),Jamaica(24),Mexico(16) Costa Rica(13),Guatemala(11),Colombia (10),Bolivia(4),Cuba(3) |
国境なき記者団は、2023年報告書で、ラテンアメリカについて下記のように総括しているので紹介する。
*米州では、政情不安によって報道の自由が脅かされている。
*政権交代は、ブラジルのジャーナリストに恩恵をもたらした。任期中にジャーナリストやメディアを組織的に攻撃したジャイル・ボルソナロ大統領の退陣により、政府と報道機関の関係が正常な状態に戻るという期待が高まっている。同国は指数で18位上昇し、大陸では過去最高となった。
*大陸のいくつかの国を特徴づける両極化と制度の不安定さが、メディアに対する敵意と不信感を助長している。ペルー(-33、110位)では、過去6年間の相次ぐ政変が、国の制度とメディアの両方に対する一般的な不信感を煽った。ハイチ(-29、99位)では、2021年にジョベネル・モイーズ大統領が暗殺されて以来、政情不安が拡大し、深刻な治安危機が生じ、ハイチはこの地域でジャーナリストにとって最も危険な国のひとつとなっている。
*エクアドル(-12、80位)では、犯罪組織の影響力の増大による国の不安定化が、ジャーナリストの労働条件の著しい悪化を引き起こしている。メキシコ(-1、128位)では、カルテルによる極端な暴力と、地方公務員や政治家との頻繁な癒着が、ジャーナリズムの破壊を続けている。
*ディスインフォメーションとオンライン暴力がおこっている。
*政治情勢が不安定でない国でも状況は悪化している。偽情報やプロパガンダの使用は、ジャーナリストやメディアに対するオンラインでの言葉の暴力としばしば関連し、常態化し、公共の物語をよりコントロールしようとする政治指導者の戦略の不可欠な一部となりつつある。
*世界報道の自由度指数では歴史的に良好な位置にあるが、コスタリカ(-15、 23位)、ウルグアイ(-8、 52位)、アルゼンチン(-11、 40位)はすべて、この傾向がジャーナリズムに与える影響を反映している。
*ワーストランキングの国々では、メディアに対するあらゆる種類の虐待を正当化するために、権威主義的な政府によって、偏向、安定、国家安全保障への言及が使われ続けている。ニカラグア(+2、158位)では、独立したジャーナリズムが地下に潜ったり、亡命したりすることを余儀なくされている。キューバ(+1、172位)では、新しい刑法によって、政府は政権に批判的なジャーナリストを脅迫し、迫害することを合法的に続けることができるようになった。
以 上
なお過去に執筆した「世界報道の自由指数」関連のレポートは下記の通り。
連載レポート47「統計・ランキングに見るラテンアメリカ その7 報道の自由度ランキング」2020年7月
連載レポート71「統計に見るラテンアメリカ その後のフォロー」2021年11月
連載レポート103「インターネット自由度ランキング2022とラテンアメリカ」2022年11月