執筆者:桜井悌司(ラテンアメリカ協会常務理事)
ダボス会議で有名な世界経済フォーラム(WEF)は、原則毎年、グローバル・ジェンダー・ギャップ・インデックス調査を公表する。今年も6月21日に2023年版を発表され、日本のマスコミでも、日本が昨年の116位からさらにランクを落とし、146ヶ国中125位となったと大々的に報道された。
この調査は、2006年に開始され、今回が22回目である。調査対象国数は、昨年と同様で146カ国である。調査項目は、「ジェンダー間の経済的参加度及び機会」、「教育達成度」、「健康と生存」、「政治的エンパワメント」の4項目となっている。完全に実現できている場合1、出来ていない場合を0とカウントし、4項目にわたり採点、総合点をランキング形式で発表するというものである。
例年、欧州諸国が上位を占めるが、今回の調査でもベスト10のうち、欧州諸国のアイスランド(1位)、ノルウエー(2位)、フィンランド(3位)、スエーデン(5位)、ドイツ(6位)が上位を占めるほか、リトアニア(9位)とベルギー(10位)が新たにベスト10に入った。欧州以外では、ニュージーランド(4位)、中米のニカラグア(7位)の2ヶ国が入っている。
ラテンアメリカ・カリブ諸国のランキングを見てみよう。この地域の21カ国が調査の対象となっている。今回の調査では、キューバ、バハマス、ガイアナ、トリニダード・トバゴ、ベネズエラは対象に入っていない。
表1で、LAC諸国のランキングを見ると、1位ニカラグア(全体で7位)、2位コスタリカ(14位)、3位ジャマイカ(24位)、4位チリ(27位)、5位バルバドス(31位)、6位メキシコ(33位)、7位ペルー(37位)、8位アルゼンチン(36位)、9位コロンビア(42位)、10位エクアドル(50位)となっている。全体の21カ国の内、20カ国は100位以内に入っており、唯一、グアテマラが117位に位置するが、それでも日本より上位に位置する。
表1 2023年グローバル・ジェンダー・ギャップ・インデックス・ランキング
世界 Rank | 国名 | 得点 | LAC Rank | 国名 | 得点 |
1位 | Iceland | 0.912 | 1位(7) | Nicaragua | 0.811 |
2位 | Norway | 0.879 | 2位(14) | Costa Rica | 0.793 |
3位 | Finland | 0.863 | 3位(24) | Jamaica | 0.779 |
4位 | New Zealand | 0.856 | 4位(27) | Chile | 0.777 |
5位 | Sweden | 0,815 | 5位(31) | Barbados | 0.769 |
6位 | Germany | 0.815 | 6位(33) | Mexico | 0.765 |
7位 | Nicaragua | 0.811 | 7位(34) | Peru | 0.764 |
8位 | Namibia | 0.802 | 8位(36) | Argentina | 0.762 |
9位 | Lithuania | 0.800 | 9位(42) | Colombia | 0.761 |
10位 | Belgium | 0.796 | 10(50) | Ecuador | 0.737 |
15位 | United Kingdom | 0.792 | 11(52) | Suriname | 0.736 |
16位 | Philippines | 0.791 | 12位(53) | Honduras | 0.735 |
18位 | Spain | 0.770 | 13位(56) | Bolivia | 0.730 |
40位 | France | 0.768 | 14位(57) | Brazil | 0.726 |
43位 | USA | 0.748 | 15位(58) | Panama | 0.724 |
49位 | Singapore | 0.739 | 16位(67) | Uruguay | 0.714 |
72位 | Vietnam | 0.711 | 17位(68) | El Salvador | 0.714 |
74位 | Thailand | 0.711 | 18位(81) | R.Dominicana | 0.704 |
105位 | Korea | 0.680 | 19位(89) | Belize | 0.696 |
107位 | China | 0.678 | 20位(91) | Paraguay | 0.695 |
125位 | Japan | 0.647 | 21位(117) | Guatemala | 0.659 |
146位 | Afganistan | 0.405 |
表2は、調査対象の4項目のそれぞれの分野で世界何位に位置するかを示したものである。例えば、日本の場合、教育達成度は、世界一であるが、女性の政治的エンパワーメント(138位)と経済的参加度や女性の管理職への登用の分野(123位)では、決定的に遅れを取っていることが総合125位に繋がることになる。
ラテンアメリカ第一の大国のブラジルの場合、健康と生存では、世界一であるが、政治的エンパワメント56位、経済的参加度86位、教育達成度73位なので、総合では57位となっているが、それでも昨年の94位に比較すると16もランキングを上昇させている。第二の経済大国のメキシコは、総合順位は33位であるが、健康と生存49位、政治的エンパワメント56位、教育達成度62位とまずまずだが、経済的参加度が110位と振るず、ランクも昨年の31位から2ポイント落とした。それぞれの国の現状については、Global
Gender Gap Index2023のレポートを参照のこと。
「経済的参加度及び機会」
ラテンアメリカの場合、この項目が最も遅れている。対象国21か国の内、100位を上回る国々は、グアテマラ(117位)、メキシコ(110位)、エルサルバドル(103位)の3ヶ国で、反対に50位以内に入っている国は、ジャマイカ2位、バルバドス4位、スリナム33位、ウルグアイ47位、ベリーズ49位の5か国である。その他は50位から100位の間に位置する。女性の経済分野への進出の制限や男女の給与格差によるものである。
「教育達成度」
この分野は、2極分化が見られる。世界第一位を占めている国は、ニカラグア、アルゼンチン、コロンビア、ホンジュラス、ブラジル、ドミニカ共和国、ベリーズの7カ国となっている反面、ワースト3を挙げると、ペルー(111位)、グアテマラ(94位)、ボリビア(92位)といった先住民の人口が多い国は十分な教育達成度をあげていないことが理解できる。
「健康と生存」
この分野も「教育達成度」の項目と同じく、2極分化が見られる。エル・サルバドル、ウルグアイ、ドミニカ共和国、ブラジル、ベリーズ、グアテマラの6カ国が、なんと世界第1位を占めている。一方、ワースト3の国は、ボリビア(125位)、ペルー(11位)、ホンジュラス(110位)となっている。
「政治的エンパワーメント」
この項目では、ラテンアメリカは比較的に上位につけている。対象国21か国の内のベスト15内にランクされる国は、ニカラグア(6位)、コスタリカ10位、チリ12位、メキシコ15位と4か国が入っている。ペルー22位、アルゼンチン26位、コロンビア34位、ボリビア42位を加えると8か国が50位以内にランクされている。女性の政治参加は進んでいると思われるという印象である。政治参加が進んでいない国は、意外に思われるが、ベリーズ126位、グアテマラ123位、パラグアイ110位、ドミニカ共和国104位の4か国が100位以下に甘んじている。
表2 The Global Gender Gap Index 2023 Ranking テーマ別順位
総合 | 経済的参加度と機会 | 教育達成度 | 健康と生存 | 政治的エンパワメント | |
Nicaragua | 7位 | 98位 | 1位 | 34位 | 6位 |
Costa Rica | 14位 | 84位 | 31位 | 60位 | 10位 |
Barbados | 31位 | 4位 | 65位 | 92位 | 58位 |
Mexico | 33位 | 110位 | 62位 | 49位 | 15位 |
Argentina | 36位 | 95位 | 1位 | 41位 | 26位 |
Peru | 34位 | 79位 | 111位 | 117位 | 22位 |
Jamaica | 24位 | 2位 | 68位 | 94位 | 57位 |
Panama | 58位 | 85位 | 49位 | 58位 | 61位 |
Ecuador | 50位 | 61位 | 42位 | 85位 | 53位 |
Suriname | 52位 | 37位 | 70位 | 31位 | 66位 |
Chile | 27位 | 96位 | 64位 | 69位 | 12位 |
Bolivia | 56位 | 90位 | 92位 | 125位 | 42位 |
El Salvador | 68位 | 103位 | 69位 | 1位 | 55位 |
Uruguay | 67位 | 47位 | 1位 | 1位 | 94位 |
Colombia | 42位 | 92位 | 1位 | 51位 | 34位 |
Paraguay | 91位 | 76位 | 45位 | 54位 | 110位 |
Honduras | 53位 | 66位 | 1位 | 110位 | 52位 |
Dominican R. | 81位 | 65位 | 1位 | 1位 | 104位 |
Brazil | 57位 | 86位 | 73位 | 1位 | 56位 |
Belize | 89位 | 49位 | 52位 | 1位 | 126位 |
Guatemala | 117位 | 117位 | 94位 | 1位 | 123位 |
Spain | 18位 | 48位 | 40位 | 98位 | 18位 |
Japan | 125位 | 123位 | 47位 | 59位 | 138位 |
次に過去5回の調査でラテンアメリカ諸国がどのようなランクを占めていたかを示したのが表3である。
表4は、2023年の第22回調査と前年の2022年の第21回調査でランクがどのように上下したかを示している。これによるとこの1年で大きくランクの上昇が見られた国は、ブラジル、コロンビア、ホンジュラス、チリの4ヶ国でいずれも一気に20以上上昇している。反対に大きくランクを落とした国のワースト4は、パナマ、パラグアイ、エクアドル、エル・サルバドルである。対象21か国のうち、ランクが上昇した国数は9ヶ国、順位の変化がない国2ヶ国、順位が下落した国は10ヶ国となっている。
次にもう少し長いタームでの順位の動向を見てみよう。表5は、2018年の第18回調査と最新の2023年の第22回調査を比較したものである。対象となる国19ヶ国のうち、ランクが上昇した国数は、10ヶ国、順位の変化のない国1ヵ国、順位が下落した国8か国となっている。興味ある点は、10以上上昇した国は、ブラジル38、チリ27、ベリーズ22、ジャマイカ20、エル・サルバドル19、ペルー18、メキシコ17、ホンジュラス15、パラグアイ13と9ヶ国に上っている。反対にランクの大幅下落が見られるのは、ボリビア―31、パナマ―13、ウルグアイ―11、グアテマラ―10、バルバドス―10となっている。
表3 2018年から2023年までの5回の調査からみた国別の推移
国 名 | 2023 Rank | 2022 Rank | 2020 Rank | 2019 Rank | 2018 Rank |
回数 | 第22回 | 第21回 | 第20回 | 第19回 | 第18回 |
発表日 | 2023/6/21 | 2022/7/13 | 2020/12 | 2019/12/16 | 2018/12/17 |
Nicaragua | 7位 | 7位 | 12位 | 5位 | 5位 |
Costa Rica | 14位 | 12位 | 15位 | 13位 | 22位 |
Jamaica | 24位 | 38位 | 40位 | 41位 | 44位 |
Chile | 27位 | 47位 | 70位 | 57位 | 54位 |
Barbados | 31位 | 31位 | 34位 | 25位 | 21位 |
Mexico | 33位 | 31位 | 34位 | 25位 | 50位 |
Peru | 34位 | 37位 | 62位 | 66位 | 52位 |
Argentina | 36位 | 33位 | 35位 | 30位 | 36位 |
Colombia | 42位 | 75位 | 59位 | 22位 | 40位 |
Ecuador | 50位 | 41位 | 42位 | 48位 | 41位 |
Suriname | 52位 | 44位 | NA | NA | NA |
Honduras | 53位 | 82位 | 67位 | 58位 | 68位 |
Bolivia | 56位 | 51位 | 61位 | 42位 | 25位 |
Brazil | 57位 | 94位 | 93位 | 92位 | 95位 |
Panama | 58位 | 40位 | 44位 | 46位 | 45位 |
Uruguay | 67位 | 72位 | 85位 | 37位 | 56位 |
El Salvador | 68位 | 59位 | 43位 | 80位 | 87位 |
Dominican Rep | 81位 | 84位 | 89位 | 80位 | 87位 |
Belize | 89位 | 96位 | 90位 | 100位 | 111位 |
Paraguay | 91位 | 80位 | 86位 | 100位 | 104位 |
Guatemala | 117位 | 113位 | 122位 | 113位 | 107位 |
Guyana | NA | 35 | NA | NA | NA |
Trinidad & T. | NA | NA | 37位 | 24位 | 40位 |
Cuba | NA | NA | 39位 | 31位 | 23位 |
Bahamas | NA | NA | 58位 | 61位 | 30位 |
Venezuela | NA | NA | 91位 | 67位 | 64位 |
Japan | 125位 | 116位 | 120位 | 121位 | 110位 |
調査対象国数 | 146ヶ国 | 146ヶ国 | 156ヶ国 | 153ヶ国 | 149ヶ国 |
注:コロナの影響で2021年は実施していない。
表4 コロナ禍の2回の調査でのランキングの上昇・下落(2022年~23年)
国 名 | 順位の推移2022→2023 | 順位の上昇・下落 |
Brazil | 94位→57位 | +37 |
Colombia | 75位→42位 | +33 |
Honduras | 82位→53位 | +29 |
Chile | 47位→27位 | +20 |
Jamaica | 38位→24位 | +14 |
Belize | 96位→89位 | +7 |
Uruguay | 72位→67位 | +5 |
Peru | 37位→34位 | +3 |
Dominican Rep. | 84位→81位 | +3 |
Nicaragua | 7位→7位 | 0 |
Barbados | 31位→31位 | 0 |
Costa Rica | 12位→14位 | ―2 |
Mexico | 31位→33位 | ―2 |
Argentina | 33位→36位 | ―3 |
Guatemala | 113位→117位 | ―4 |
Bolivia | 51位→56位 | ―5 |
Suriname | 44位→52位 | ―8 |
Ecuador | 41位→50位 | ―9 |
El Salvador | 59位→68位 | ―9 |
Paraguay | 80位→91位 | ―11 |
Panama | 40位→58位 | ―18 |
表5 過去5回の調査でのランキングの上昇・下落リスト
国名 | 順位の推移2018→2023 | 順位の上昇・下落 |
Brazil | 95位→57位 | +38 |
Chile | 54位→27位 | +27 |
Belize | 111位→89位 | +22 |
Jamaica | 44位→24位 | +20 |
El Salvador | 87位→68位 | +19 |
Peru | 52位→34位 | +18 |
Mexico | 50位→33位 | +17 |
Honduras | 68位→53位 | +15 |
Paraguay | 104位→91位 | +13 |
Dominican Rep. | 87位→81位 | +6 |
Argentina | 36位→36位 | 0 |
Nicaragua | 5位→7位 | ―2 |
Colombia | 40位→42位 | ―2 |
Ecuador | 41位→50位 | ―9 |
Barbados | 21位→31位 | ―10 |
Guatemala | 107位→117位 | ―10 |
Uruguay | 56位→67位 | ―11 |
Panama | 45位→58位 | ―13 |
Bolivia | 25位→56位 | ―31 |
同レポートからラテンアメリカに関する主要なポイントを下記に紹介する。
*2017年以降、ジェンダー平等に向けて漸進的な進歩を遂げたラテンアメリカ・カリブ海地域は、全体のジェンダー格差の74.3%を解消した。ヨーロッパと北米に次いで、この地域の男女平等度は3番目に高い。この地域では、ニカラグア、コスタリカ、ジャマイカが最も高く、ベリーズ、パラグアイ、グアテマラが最も低い。現在の進捗率では、ラテンアメリカとカリブ海諸国が完全な男女平等を達成するには53年かかる。
*前回版以降、21カ国中7カ国(コロンビア、チリ、ホンジュラス、ブラジルなど比較的人口の多い国を含む)がジェンダー平等スコアを少なくとも0.5ポイント向上させた一方、5カ国が平等スコアを少なくとも0.5ポイント低下させた。この結果、昨年から全体のジェンダー・パリティが1.7ポイント上昇した。
*ラテンアメリカ・カリブ海諸国は、教育達成度サブインデックスで99.2%の平等を達成している:
20カ国中14カ国が識字率で99%以上のパリティを達成している。さらに、高等教育への就学に関するデータがある18カ国はすべて、この指標で完全なパリティを達成している。さらに、中等教育への就学率が同等になった国は16カ国、初等教育への就学率が完全に同等になった国は9カ国である。
*他の地域と比較すると、ラテンアメリカ・カリブ海諸国は、「健康と生存」サブインデックスにおいて97.6%と最も高いパリティを有している。出生時の男女比ではすべての国がパリティを達成し、健康寿命では21カ国中6カ国が完全なパリティを達成している。政治的エンパワーメントのサブ指標では、35%のパリティで、ヨーロッパに次いで2番目に高いスコアを示している。2022年以降、一定サンプルの国々に基づき、パリティは0.6ポイント改善した。
*全体として、21カ国中9カ国が少なくとも0.5%ポイント改善し、9カ国が0.5%以上低下した。コロンビア、チリ、ブラジルは、この地域のトップランクであるだけでなく、最も改善された国でもある。この地域の21カ国中5カ国は、女性議員の割合が少なくとも1%ポイント改善している。
ラテンアメリカ協会のホームページ上において、このテーマについて、過去に掲載したレポートは下記の通りである。
以 上