連載レポート115:「Global Gender Gap Report 2023と ラテンアメリカ」 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載レポート115:「Global Gender Gap Report 2023と ラテンアメリカ」


連載レポート115

Global Gender Gap Report 2023とラテンアメリカ

執筆者:桜井悌司(ラテンアメリカ協会常務理事)

ダボス会議で有名な世界経済フォーラム(WEF)は、原則毎年、グローバル・ジェンダー・ギャップ・インデックス調査を公表する。今年も6月21日に2023年版を発表され、日本のマスコミでも、日本が昨年の116位からさらにランクを落とし、146ヶ国中125位となったと大々的に報道された。

この調査は、2006年に開始され、今回が22回目である。調査対象国数は、昨年と同様で146カ国である。調査項目は、「ジェンダー間の経済的参加度及び機会」、「教育達成度」、「健康と生存」、「政治的エンパワメント」の4項目となっている。完全に実現できている場合1、出来ていない場合を0とカウントし、4項目にわたり採点、総合点をランキング形式で発表するというものである。

1)2023年度調査の特徴

例年、欧州諸国が上位を占めるが、今回の調査でもベスト10のうち、欧州諸国のアイスランド(1位)、ノルウエー(2位)、フィンランド(3位)、スエーデン(5位)、ドイツ(6位)が上位を占めるほか、リトアニア(9位)とベルギー(10位)が新たにベスト10に入った。欧州以外では、ニュージーランド(4位)、中米のニカラグア(7位)の2ヶ国が入っている。

ラテンアメリカ・カリブ諸国のランキングを見てみよう。この地域の21カ国が調査の対象となっている。今回の調査では、キューバ、バハマス、ガイアナ、トリニダード・トバゴ、ベネズエラは対象に入っていない。

表1で、LAC諸国のランキングを見ると、1位ニカラグア(全体で7位)、2位コスタリカ(14位)、3位ジャマイカ(24位)、4位チリ(27位)、5位バルバドス(31位)、6位メキシコ(33位)、7位ペルー(37位)、8位アルゼンチン(36位)、9位コロンビア(42位)、10位エクアドル(50位)となっている。全体の21カ国の内、20カ国は100位以内に入っており、唯一、グアテマラが117位に位置するが、それでも日本より上位に位置する。

表1 2023年グローバル・ジェンダー・ギャップ・インデックス・ランキング

世界 Rank 国名 得点 LAC Rank 国名 得点
1位 Iceland 0.912 1位(7) Nicaragua 0.811
2位 Norway 0.879 2位(14) Costa Rica 0.793
3位 Finland 0.863 3位(24) Jamaica 0.779
4位 New Zealand 0.856 4位(27) Chile 0.777
5位 Sweden 0,815 5位(31) Barbados 0.769
6位 Germany 0.815 6位(33) Mexico 0.765
7位 Nicaragua 0.811 7位(34) Peru 0.764
8位 Namibia 0.802 8位(36) Argentina 0.762
9位 Lithuania 0.800 9位(42) Colombia 0.761
10位 Belgium 0.796 10(50) Ecuador 0.737
15位 United Kingdom 0.792 11(52) Suriname 0.736
16位 Philippines 0.791 12位(53) Honduras 0.735
18位 Spain 0.770 13位(56) Bolivia 0.730
40位 France 0.768 14位(57) Brazil 0.726
43位 USA 0.748 15位(58) Panama 0.724
49位 Singapore 0.739 16位(67) Uruguay 0.714
72位 Vietnam 0.711 17位(68) El Salvador 0.714
74位 Thailand 0.711 18位(81) R.Dominicana 0.704
105位 Korea 0.680 19位(89) Belize 0.696
107位 China 0.678 20位(91) Paraguay 0.695
125位 Japan 0.647 21位(117) Guatemala 0.659
146位 Afganistan 0.405      

 

2)調査対象の4項目別の特徴

表2は、調査対象の4項目のそれぞれの分野で世界何位に位置するかを示したものである。例えば、日本の場合、教育達成度は、世界一であるが、女性の政治的エンパワーメント(138位)と経済的参加度や女性の管理職への登用の分野(123位)では、決定的に遅れを取っていることが総合125位に繋がることになる。

ラテンアメリカ第一の大国のブラジルの場合、健康と生存では、世界一であるが、政治的エンパワメント56位、経済的参加度86位、教育達成度73位なので、総合では57位となっているが、それでも昨年の94位に比較すると16もランキングを上昇させている。第二の経済大国のメキシコは、総合順位は33位であるが、健康と生存49位、政治的エンパワメント56位、教育達成度62位とまずまずだが、経済的参加度が110位と振るず、ランクも昨年の31位から2ポイント落とした。それぞれの国の現状については、Global
Gender Gap Index2023のレポートを参照のこと。

「経済的参加度及び機会」

ラテンアメリカの場合、この項目が最も遅れている。対象国21か国の内、100位を上回る国々は、グアテマラ(117位)、メキシコ(110位)、エルサルバドル(103位)の3ヶ国で、反対に50位以内に入っている国は、ジャマイカ2位、バルバドス4位、スリナム33位、ウルグアイ47位、ベリーズ49位の5か国である。その他は50位から100位の間に位置する。女性の経済分野への進出の制限や男女の給与格差によるものである。

「教育達成度」

この分野は、2極分化が見られる。世界第一位を占めている国は、ニカラグア、アルゼンチン、コロンビア、ホンジュラス、ブラジル、ドミニカ共和国、ベリーズの7カ国となっている反面、ワースト3を挙げると、ペルー(111位)、グアテマラ(94位)、ボリビア(92位)といった先住民の人口が多い国は十分な教育達成度をあげていないことが理解できる。

「健康と生存」

この分野も「教育達成度」の項目と同じく、2極分化が見られる。エル・サルバドル、ウルグアイ、ドミニカ共和国、ブラジル、ベリーズ、グアテマラの6カ国が、なんと世界第1位を占めている。一方、ワースト3の国は、ボリビア(125位)、ペルー(11位)、ホンジュラス(110位)となっている。

「政治的エンパワーメント」

この項目では、ラテンアメリカは比較的に上位につけている。対象国21か国の内のベスト15内にランクされる国は、ニカラグア(6位)、コスタリカ10位、チリ12位、メキシコ15位と4か国が入っている。ペルー22位、アルゼンチン26位、コロンビア34位、ボリビア42位を加えると8か国が50位以内にランクされている。女性の政治参加は進んでいると思われるという印象である。政治参加が進んでいない国は、意外に思われるが、ベリーズ126位、グアテマラ123位、パラグアイ110位、ドミニカ共和国104位の4か国が100位以下に甘んじている。

表2 The Global Gender Gap Index 2023 Ranking テーマ別順位

総合 経済的参加度と機会 教育達成度 健康と生存 政治的エンパワメント
Nicaragua 7位 98位 1位 34位 6位
Costa Rica 14位 84位 31位 60位 10位
Barbados 31位 4位 65位 92位 58位
Mexico 33位 110位 62位 49位 15位
Argentina 36位 95位 1位 41位 26位
Peru 34位 79位 111位 117位 22位
Jamaica 24位 2位 68位 94位 57位
Panama 58位 85位 49位 58位 61位
Ecuador 50位 61位 42位 85位 53位
Suriname 52位 37位 70位 31位 66位
Chile 27位 96位 64位 69位 12位
Bolivia 56位 90位 92位 125位 42位
El Salvador 68位 103位 69位 1位 55位
Uruguay 67位 47位 1位 1位 94位
Colombia 42位 92位 1位 51位 34位
Paraguay 91位 76位 45位 54位 110位
Honduras 53位 66位 1位 110位 52位
Dominican R. 81位 65位 1位 1位 104位
Brazil 57位 86位 73位 1位 56位
Belize 89位 49位 52位 1位 126位
Guatemala 117位 117位 94位 1位 123位
Spain 18位 48位 40位 98位 18位
Japan 125位 123位 47位 59位 138位

 

3)過去5回の調査にみるラテンアメリカ諸国のランキングの推移

次に過去5回の調査でラテンアメリカ諸国がどのようなランクを占めていたかを示したのが表3である。

表4は、2023年の第22回調査と前年の2022年の第21回調査でランクがどのように上下したかを示している。これによるとこの1年で大きくランクの上昇が見られた国は、ブラジル、コロンビア、ホンジュラス、チリの4ヶ国でいずれも一気に20以上上昇している。反対に大きくランクを落とした国のワースト4は、パナマ、パラグアイ、エクアドル、エル・サルバドルである。対象21か国のうち、ランクが上昇した国数は9ヶ国、順位の変化がない国2ヶ国、順位が下落した国は10ヶ国となっている。

次にもう少し長いタームでの順位の動向を見てみよう。表5は、2018年の第18回調査と最新の2023年の第22回調査を比較したものである。対象となる国19ヶ国のうち、ランクが上昇した国数は、10ヶ国、順位の変化のない国1ヵ国、順位が下落した国8か国となっている。興味ある点は、10以上上昇した国は、ブラジル38、チリ27、ベリーズ22、ジャマイカ20、エル・サルバドル19、ペルー18、メキシコ17、ホンジュラス15、パラグアイ13と9ヶ国に上っている。反対にランクの大幅下落が見られるのは、ボリビア―31、パナマ―13、ウルグアイ―11、グアテマラ―10、バルバドス―10となっている。

表3 2018年から2023年までの5回の調査からみた国別の推移

国 名 2023 Rank 2022 Rank 2020 Rank 2019 Rank 2018 Rank
回数 第22回 第21回 第20回 第19回 第18回
発表日 2023/6/21 2022/7/13 2020/12 2019/12/16 2018/12/17
Nicaragua 7位 7位 12位 5位 5位
Costa Rica 14位 12位 15位 13位 22位
Jamaica 24位 38位 40位 41位 44位
Chile 27位 47位 70位 57位 54位
Barbados 31位 31位 34位 25位 21位
Mexico 33位 31位 34位 25位 50位
Peru 34位 37位 62位 66位 52位
Argentina 36位 33位 35位 30位 36位
Colombia 42位 75位 59位 22位 40位
Ecuador 50位 41位 42位 48位 41位
Suriname 52位 44位 NA NA NA
Honduras 53位 82位 67位 58位 68位
Bolivia 56位 51位 61位 42位 25位
Brazil 57位 94位 93位 92位 95位
Panama 58位 40位 44位 46位 45位
Uruguay 67位 72位 85位 37位 56位
El Salvador 68位 59位 43位 80位 87位
Dominican Rep 81位 84位 89位 80位 87位
Belize 89位 96位 90位 100位 111位
Paraguay 91位 80位 86位 100位 104位
Guatemala 117位 113位 122位 113位 107位
Guyana NA 35 NA NA NA
Trinidad & T. NA NA 37位 24位 40位
Cuba NA NA 39位 31位 23位
Bahamas NA NA 58位 61位 30位
Venezuela NA NA 91位 67位 64位
Japan 125位 116位 120位 121位 110位
調査対象国数 146ヶ国 146ヶ国 156ヶ国 153ヶ国 149ヶ国

注:コロナの影響で2021年は実施していない。

表4 コロナ禍の2回の調査でのランキングの上昇・下落(2022年~23年)

国  名 順位の推移2022→2023 順位の上昇・下落
Brazil 94位→57位 +37
Colombia 75位→42位 +33
Honduras 82位→53位 +29
Chile 47位→27位 +20
Jamaica 38位→24位 +14
Belize 96位→89位 +7
Uruguay 72位→67位 +5
Peru 37位→34位 +3
Dominican Rep. 84位→81位 +3
Nicaragua 7位→7位
Barbados 31位→31位
Costa Rica 12位→14位 ―2
Mexico 31位→33位 ―2
Argentina 33位→36位 ―3
Guatemala 113位→117位 ―4
Bolivia 51位→56位 ―5
Suriname 44位→52位 ―8
Ecuador 41位→50位 ―9
El Salvador 59位→68位 ―9
Paraguay 80位→91位 ―11
Panama 40位→58位 ―18

表5 過去5回の調査でのランキングの上昇・下落リスト 

国名 順位の推移2018→2023 順位の上昇・下落
Brazil 95位→57位 +38
Chile 54位→27位 +27
Belize 111位→89位 +22
Jamaica 44位→24位 +20
El Salvador 87位→68位 +19
Peru 52位→34位 +18
Mexico 50位→33位 +17
Honduras 68位→53位 +15
Paraguay 104位→91位 +13
Dominican Rep. 87位→81位 +6
Argentina 36位→36位
Nicaragua 5位→7位 ―2
Colombia 40位→42位 ―2
Ecuador 41位→50位 ―9
Barbados 21位→31位 ―10
Guatemala 107位→117位 ―10
Uruguay 56位→67位 ―11
Panama 45位→58位 ―13
Bolivia 25位→56位 ―31

 

4)Global Gender Gap Index 2023による主要コメント

同レポートからラテンアメリカに関する主要なポイントを下記に紹介する。

*2017年以降、ジェンダー平等に向けて漸進的な進歩を遂げたラテンアメリカ・カリブ海地域は、全体のジェンダー格差の74.3%を解消した。ヨーロッパと北米に次いで、この地域の男女平等度は3番目に高い。この地域では、ニカラグア、コスタリカ、ジャマイカが最も高く、ベリーズ、パラグアイ、グアテマラが最も低い。現在の進捗率では、ラテンアメリカとカリブ海諸国が完全な男女平等を達成するには53年かかる。

*前回版以降、21カ国中7カ国(コロンビア、チリ、ホンジュラス、ブラジルなど比較的人口の多い国を含む)がジェンダー平等スコアを少なくとも0.5ポイント向上させた一方、5カ国が平等スコアを少なくとも0.5ポイント低下させた。この結果、昨年から全体のジェンダー・パリティが1.7ポイント上昇した。

*ラテンアメリカ・カリブ海諸国は、教育達成度サブインデックスで99.2%の平等を達成している:
20カ国中14カ国が識字率で99%以上のパリティを達成している。さらに、高等教育への就学に関するデータがある18カ国はすべて、この指標で完全なパリティを達成している。さらに、中等教育への就学率が同等になった国は16カ国、初等教育への就学率が完全に同等になった国は9カ国である。

*他の地域と比較すると、ラテンアメリカ・カリブ海諸国は、「健康と生存」サブインデックスにおいて97.6%と最も高いパリティを有している。出生時の男女比ではすべての国がパリティを達成し、健康寿命では21カ国中6カ国が完全なパリティを達成している。政治的エンパワーメントのサブ指標では、35%のパリティで、ヨーロッパに次いで2番目に高いスコアを示している。2022年以降、一定サンプルの国々に基づき、パリティは0.6ポイント改善した。

*全体として、21カ国中9カ国が少なくとも0.5%ポイント改善し、9カ国が0.5%以上低下した。コロンビア、チリ、ブラジルは、この地域のトップランクであるだけでなく、最も改善された国でもある。この地域の21カ国中5カ国は、女性議員の割合が少なくとも1%ポイント改善している。

5)過去のGlobal Gender Gap Indexレポートの紹介

ラテンアメリカ協会のホームページ上において、このテーマについて、過去に掲載したレポートは下記の通りである。

以   上