連載レポート146:桜井悌司「2024年世界腐敗認識指数ランキングとラテンアメリカ」 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載レポート146:桜井悌司「2024年世界腐敗認識指数ランキングとラテンアメリカ」


連載レポート146

2024年世界腐敗認識指数ランキングとラテンアメリカ

執筆者:桜井悌司(ラテンアメリカ協会顧問)

「はじめに」

2025年2月11日に、恒例の「2024年世界腐敗認識指数」(CORRUPTION PERCEPTIONS INDEX 2024)(https://images.transparencycdn.org/images/Report_CPI2024.pdf)が発表された。この調査は、ドイツに本部を置くNGOのトランスペアレンシー・インターナショナルが、世界の180ヶ国を対象に腐敗のランキングを公表するもので、1995年から始まったものである。腐敗認識指数は国際機関やシンクタンクのデータを基に腐敗度を100点満点で数値化したもので、高くなればなるほどクリーン度が高いことになる。世界の人口の3分の2にあたる68憶人以上がCPI 50以下の国に暮らしており、世界平均は昨年と同じで43点となっている。

表1の「世界腐敗認識ランキング」により、2024年度の調査結果をみると、デンマーク(90点)、フィンランド(88点)、シンガポール(84)、ニュージーランド(83点)、ノルウエー(81点)、ルクセンブルグ(81点), スイス(81点),スウエーデン(80点)、オランダ(78点)、オーストラリア(78)、アイルランド(78)、アイスランド(77点)がベスト10に入っている。これらの国々は、ほぼ常連の国であるが、今回シンガポールが得点を1点上げ、5位から3位に躍進したことは注目に値する。欧州とりわけ北欧の4ヶ国が上位を占めている。その中にあって、日本は、得点を2点下げ、20位となり、23年の16位、22年の18位から順位を下げた。ちなみにアジアの諸国を見ると香港は、74点で17位、台湾は、67点で25位、韓国は、64点で30位、中国は、43点で76位となっている。

レポートで強調されている点は、地球温暖化の影響が腐敗指数に大きな影響を与えている点である。グリーンピース・インターナショナルのマッズ・クリステンセン事務局長は、「今年の分析は、米国を含め、化石燃料の腐敗がいかに気候変動への取り組みを弱体化させているかを改めて示した。」と述べている。CPI調査は、何十億ドルもの気候変動資金が盗まれたり、悪用されたりするリスクにさらされていることを明らかにしている。

また注目すべき点は、この調査のサンプル国の4分の1にあたる47ヶ国が最低点を記録したことである。その中には。オーストリア(67点)、バングラデシュ(23点)、ブラジル(34点)、キューバ(41点)、フランス(67点)、ドイツ(75点)、ハイチ(16点)、ハンガリー(41点)、イラン(23点)、メキシコ(26点)、ロシア(22点)、南スーダン(8点)、スイス(81点)、米国(65点)、ベネズエラ(10点)などが含まれる。

表1 世界腐敗認識指数ランキング(2024年)

順位 世界 得点 順位 LAC 得点
1 デンマーク 90 1(13) ウルグアイ 76
2 フィンランド 88 2(23) バルバドス 68
3 シンガポール 84 3(28) バハマ 65
4 ニュージーランド 83 4(32) チリ 63
5 ノルウエー 81 4(32) セント・ヴィンセントG 63
5 ルクセンブルグ 81 6(36) ドミニカ 60
5 スイス 81 7(38) セント・ルシア 59
8 スウエーデン 80 7(42) コスタリカ 58
9 オランダ 78 9(46) グレナダ 56
10 オーストラリア 77 10(73) ジャマイカ 44
10 アイルランド 77 11(82) キューバ 41
10 アイスランド 77 11(82) トリニダードT 41
13 エストニア 76 13(88) スリナム 40
13 ウルグアイ 76 14(92) ガイアナ 39
15 カナダ 75 14(92) コロンビア 39
15 ドイツ 75 16(99) アルゼンチン 37
17 香港 74 17(104) ドミニカ共和国 36
18 ブータン 72 18(107) ブラジル 34
18 セイシェル 72 19(114) パナマ 33
20 日本 71 20(121) エクアドル 32
20 英国 71 21(127) ペルー 31
25 台湾 67 22(130) エルサルバドル 30
30 韓国 64 22(133) ボリビア 28
46 スペイン 56 24(140) メキシコ 26
57 マレーシア 50 25(146) グアテマラ 25
76 中国 43 26(149) パラグアイ 24
88 ベトナム 40 27(154) ホンジュラス 22
99 インドネシア 37 28(168) ハイチ 16
107 タイ 34 29(172) ニカラグア 14
154 ロシア 22 30(178) ベネズエラ 10

注: ( )内は世界における順位を表す。

「ラテンアメリカ諸国の現状は」

下記表2は、「2019年から2024年の過去6年間のラテンアメリカ・カリブ諸国のランキングの推移」、表3は同期間の得点の推移を表わしている。また表4は、「過去1年間(2023年~2024年)でランクと得点を上げた国、下げた国」、表5は、「コロナ以前の2019年と2024年の過去6年間でランクと得点を上げた国、下げた国」を紹介している。

「2024年腐敗認識指数調査におけるラテンアメリカ・カリブ諸国のランキング及び得点」

対象国30か国の上位ランキングベスト10は、ウルグアイ、バルバドス、バハマ、チリ、セントヴィンセントG、ドミニカ国、セントルシア、コスタリカ、グレナダ、ジャマイカとなっており、10ヶ国の内カリブ海諸国が7ヶ国も入っている。対象国の180ヶ国の内の40位までに入っている国は、上記セントルシアまでの7ヶ国である。

過去1年でランクを上げた国は、グアテマラ、セントルシア、ドミニカ国、セントヴィンセントG、ドミニカ共和国、ハイチ等11ヶ国、ランクを下げた国は、メキシコ、パラグアイ、キューバ、トリニダードT、パナマ、ペルー等15ヶ国、変化なしの国は4ヶ国となっている。とくにグアテマラは、一気にランクで8ポイント、得点で2ポイント上昇させた。

ラテンアメリカの大国である、ブラジル、メキシコ、コロンビア、アルゼンチン、ペルー、チリが軒並みランクを落としているのは気にかかるところである。

「コロナ以前の2019年と2024年の過去6年間でランクと得点を上げた国、下げた国」

では次にもう少し長期的な視点で見てみよう。コロナ前の2019年から2024年までの6カ年の推移である。ランクを上げた国は、ドミニカ共和国、ドミニカ国、セントルシア、ウルグアイ、バルバドス、セントヴィンセントG、グレナダ等12ヶ国である。とりわけドミニカ共和国は、ランクで33ポイント、得点で8ポイント上げている。ドミニカ国、セントルシアもランクで10ポイント上昇させた。ランクを下げた国は、16カ国で、10ポイント以上下げた国は、アルゼンチン、エクアドル、ペルー、キューバ、スリナム、エルサルバドル、パナマ、パラグアイ、ニカラグア、メキシコ、ボリビアの11ヵ国に及ぶ。とくに、アルゼンチンがランク33ポイント、得点で8ポイント、エクアドルがランクで28ポイント、得点で6ポイント、ペルーがランクで26ポイント、得点で5ポイント、キューバがランクで22ポイント、得点で7ポイント下げている。ランクに変化の無い国は、グアテマラとハイチの2ヶ国である。

なお米州諸国の地域分析は、https://www.transparency.org/en/news/cpi-2024-americas-corruption-fuels-environmental-crime-impunity-across-region を参照のこと。

表2 ラテンアメリカ諸国の腐敗度指数の過去6年(2019~2024)のランキングの推移

国  名 世界順位

2024年

世界順位

2023年

世界順位

2022年

世界順位

2021年

世界順位

2020年

世界順位

2019年

ウルグアイ 13/180 16/180 14/180 21/180 21/180 21/180
バルバドス 23/180 24/180 29/180 29/180 29/180 30/180
チリ 32/180 29/180 27/180 27/180 25/180 26/180
バハマ 28/180 30/180 30/180 30/180 30/180 29/180
セントヴィンセントG 32/180 36/180 35/180 38/180 40/180 39/180
ドミニカ国 36/180 42/180 45/180 45/180 48/180 48/180
コスタリカ 42/180 45/180 48/180 39/180 42/180 44/180
セントルシァ 38/180 45/180 45/180 43/180 45/180 48/180
グレナダ 46/180 49/180 51/180 52/180 52/180 51/180
ジャマイカ 73/180 69/180 69/180 70/180 69/180 74/180
キューバ 82/180 76/180 65/180 63/180 63/180 60/180
トリニダード&T 82/180 76/180 77/180 82/180 86/180 85/180
ガイアナ 92/180 87/180 85/180 87/180 83/180 85/180
コロンビア 92/180 87/180 91/180 87/180 92/180 96/180
スリナム 88/180 87/180 85/180 87/180 94/180 70/180
アルゼンチン 99/180 96/180 94/180 96/180 76/180 66/180
ブラジル 107/180 104/180 94/180 96/180 94/180 106/180
ドミニカ共和国 104/180 108/180 123/180 128/180 137/180 137/180
パナマ 114/180 108/180 101/180 105/180 111/180 101/180
エクアドル 121/180 115/180 101/180 105/180 92/180 93/180
ペルー 127/180 121/180 101/180 105/180 94/180 101/180
エルサルバドル 130/180 126/180 116/180 115/180 104/180 113/180
メキシコ 140/180 126/180 126/180 124/180 124/180 130/180
ボリビア 133/180 133/180 126/180 128/180 124/180 123/180
パラグアイ 149/180 138/180 137/180 128/180 137/180 137/180
グアテマラ 146/180 154/180 150/180 150/180 149/180 146/180
ホンジュラス 154/180 154/180 157/180 167/180 157/180 146/180
ニカラグア 172/180 172/180 167/180 164/180 159/180 161/180
ハイチ 168/180 172/180 171/180 164/180 170/180 168/180
ベネズエラ 178/180 178/180 177/180 177/180 176/180 173/180

表3 ラテンアメリカとカリブ海諸国の腐敗度指数の過去6年(2019年~2024年)の得点の推移(100点満点)

国  名 2024年 2023年 2022年 2021年 2020年 2019年
ウルグアイ 76 73 74 73 71 71
バルバドス 68 69 65 65 64 62
バハマ 65 64 64 64 63 62
チリ 63 66 67 67 67 67
セント・ヴィンセントG 63 60 60 59 59 59
ドミニカ国 60 56 55 55 55 55
セントルシア 59 55 55 56 56 55
コスタリカ 58 55 54 58 57 56
グレナダ 56 53 52 53 53 53
ジャマイカ 44 44 44 44 44 43
キューバ 41 42 45 46 47 48
トリニダード・トバゴ 41 42 42 41 40 40
スリナム 40 40 40 39 38 44
コロンビア 39 40 39 39 39 37
ガイアナ 39 40 40 39 41 40
アルゼンチン 37 37 38 38 42 45
ブラジル 34 36 38 38 38 35
ドミニカ共和国 36 35 32 31 28 28
パナマ 33 35 36 36 35 36
エクアドル 32 34 36 36 39 38
ペルー 31 33 36 36 38 36
エルサルバドル 30 31 32 34 36 34
メキシコ 26 31 31 31 31 29
ボリビア 28 29 31 30 31 31
パラグアイ 24 28 28 30 28 28
グアテマラ 25 23 24 25 25 26
ホンジュラス 22 23 22 23 24 26
ニカラグア 14 17 19 20 22 22
ハイチ 16 17 17 20 18 18
ベネズエラ 10 13 14 14 15 16

 

表4 過去1年間(2023年~2024年)でランクと得点を上げた国、下げた国

ランクを上げた国 11ヶ国 ランクを下げた国 15ヶ国 変化なし4ヶ国
グアテマラ(+8/+2)、セントルシア(+7/+4)、ドミニカ国(+6/+4)、セントヴィンセントG(+4/+3)、ドミニカ共和国(+4/+1)、ハイチ(+4/-1)、ウルグアイ(+3/+3)、コスタリカ(+3/+3)、グレナダ(+3/+3)、バハマ(+2/+1)、バルバドス(+1/-1) メキシコ(-14/-5)、パラグアイ(-11/14)、キューバ(-6/-1)、トリニダードT(-6/-1)、パナマ(-6/-2)、ペルー(-6/-2)、ガイアナ(-5/-1)、コロンビア(-5/-1)、ジャマイカ(-4/0)、エルサルバドル(-4/-1)、チリ(-3/-3)、アルゼンチン(-3/0)、ブラジル(-3/-2)、エクアドル(-6/-2),スリナム(-1/0) ボリビア(0/-1),ニカラグア(0/-3)、ホンジュラス(0/-1)、ベネズエラ(0/-3)

注)( )内の最初の数字は、順位の上昇を表し、+はランクの上昇、-はランクを下落をあらわす。/の後の数字は得点の上下をあらわす。0は変化なし。

表5 コロナ以前の2019年と2024年の過去6年間でランクと得点を上げた国、下げた国

ランクを上げた国 12ヶ国 ランクを下げた国 16ヶ国
ドミニカ共和国(+33/+8)、ドミニカ国(+12/+5)、セントルシア(+10/+4)、ウルグアイ(+8/+5)、バルバドス(+7/+6)、セントヴィンセントG(+7/+4)、グレナダ(+5/+3)、コロンビア(+4/+2)、トリニダードT(+3/+1)、コスタリカ(+2/+2)、バハマ(+1/+3)、ジャマイカ(+1/+1) アルゼンチン(-33/-8)、エクアドル(-28/-6)、ペルー(-26/-5)、キューバ(-22/-7)、スリナム(-18/-4)、エルサルバドル(-17/-4)、パナマ(-13/-3)、パラグアイ(-12/-3)、ニカラグア(-11/-8)、メキシコ(-10/-3)、ボリビア(-10/-3)、ホンジュラス(-8/-4)、ガイアナ(-7/-1)、チリ(-6/-4)、ベネズエラ(-5/-6)、ブラジル(-1/-1)

注)( )内の最初の数字は、順位の上昇を表し、+はランクの上昇、-はランクを下落をあらわす。/の後の数字は得点の上下をあらわす。変化の無かったのはグアテマラ(0/-1)、ハイチ(0/-2)の2ヶ国

過去に執筆した腐敗認識指数調査レポートは、下記の通り。

2020年2月「統計にみるラテンアメリカその2」
https://latin-america.jp/archives/41783

2022年3月 「世界腐敗認識指数2021年版」
https://latin-america.jp/archives/52135

2022年10月 「世界ランキング最新7調査に観るラテンアメリカ」
https://latin-america.jp/archives/54984

2023年3月「2023年世界腐敗認識指数について」
https://latin-america.jp/archives/57036

2024年2月「2023年世界腐敗認識指数ランキングとラテンアメリカ」
https://latin-america.jp/archives/61580

以   上